Moritz von Oswald Trio "Sounding Lines"
Artist: Moritz von Oswald Trio
Album: "Sounding Lines"
Label: Honest Jon's
Year: 2015
Tracklist
01. 1 (10:15)
02. 2 (0:28)
03. 3 (5:56)
04. 4 (4:12)
05. 5 (Spectre) (9:05)
06. 6 (7:26)
07. 7 (5:49)
08. 8 (5:51)
モーリッツ・フォン・オズワルドの主導するトリオの第4作目となるアルバムがHonest Jon'sよりリリースされました。
2013年のストイックなミニマル・ダブ作品"Blue"を間にはさみつつも、前作"Fetch"からは3年のインターバルがあり、この名義での作品発表としては随分と間が空いたようなような気がします。
この3年間、彼らの活動が順調であったかというと、そうではなかったようです。
2013年の"Blue"発表と前後して、トリオの一人であるヴラディスラフ・ディレイが脱退しており、電子音楽におけるインタープレイを追求し、トリオとしての息もかなりのレベルで完成されてきた段階での脱退劇は、グループとしては非常に痛手だったのではないかと想像されます。
しかしファン達が心配を募らせる中、その年の末にアフロ・ビートの黎明期にフェラ・クティのAfrica'70に所属したドラマー トニー・アレンを迎えることが発表され、2014年にはそのメンバーでのツアーが敢行されたのです。
まさかの新メンバーを迎えてのツアーは盛況で、今作は1年間のツアーを経た新トリオでの最初のスタジオ作品ということになります。
私自身前作のレビューで、このグループのインタープレイとリアルタイムのダブ処理による音の多層化の中にアフロビートに共通するものを感じ、『電子音楽のアフロ回帰』と評させていただきました。
また、所属レーベルのHonest Jon'sにおいては、Blurのデーモン・アルバーン及びレッチリのフリー、そしてトニー・アレンのトリオを中心としたアフロ・ビート・ユニットRocket Juice & The Moonがレーベルメイトでもあるうえ、かつての相方マーク・エルネストゥスも、2013年にセネガルのユニットJeri-Jeriをプロデュースするなど、今から考えるとオズワルドとトニー・アレンという組み合わせは全くの予想外、というわけではなかったように思えますが、それでもこの新たなラインナップには十二分に驚きましたし、ちょっぴり不安も感じていました。
なぜかといいますと、やはりトニー・アレンがAfrica'70のドラマーであったという点が気になっていたのです。
シェウン・クティの第2作をレビューした際にも申しましたが、私はAfrica'70にはどちらかというと攻撃的かつ有機的なビートを特徴としている印象を持っていたもので、あの感覚と、オズワルド及びローダーバウアーによるある意味アンビエントにも近い呪術的な空気や、ミニマル・ダブそのものがもつインダストリーでマシニックな「軋み」が上手く同居するのか、具体的なイメージが持てずに今作の発売日を迎えました。
しかし、そんな心配は完全に杞憂でした。
むしろ、彼らの音は想像以上に相性が良く、インタープレイを重視するユニットとして、ヴラディスラフ・ディレイの所属していた頃に勝るとも劣らない、あの"Fetch"で見せた音楽のさらに先を見せてくれたのです。
本作では、オズワルド&ディレイによる電子音と、アレンによる、揺らぎやゴーストノートを存分に伴ったビートが見事に共存し、互いの隙間をつくようにして折り重なり、非常に重層的な音楽を形作っています。
そうでありながらも音と音との間にはここちの良い隙間/間が十分に広がっており、ドラムの有機性が損なわれるようなことはありませんし、ミニマル・ダブのストイック(かつ非常にスクウェア)な反復や、電子音響によるサウンドスケープの幻想性、アトモスフェリックな感覚も見事に音楽を彩っています。
楽曲は、唯一5曲目にspectre/specter=亡霊/幽霊というサブタイトルがつけられてはいますが、他には個別のタイトルが設けられてはおらず、アルバム一枚で1つの楽曲という形式と言えます。
そして、その中でそれらの要素が自在に前景化/後景化しながら重なる様は、複数の「線」あるいは「流れ」が絡み合うような印象があります。まさに「音の鳴る(sounding)線(lines)」ってところでしょうか(笑)
今回のMvOTの動きは、電子音楽だけでアフロ回帰を試みたグループが、本物のアフロ音楽(の要素)をその身中に取り込んで同化したと取ることができると思います。
しばらくはアレンを3人目として、このトリオでの音楽/即興/インタープレイを追求していくのか、それとも次なる一手を繰り出してくるのか、今まで以上に目の離せないグループとなりそうです。
↓本作の収録曲が見つからなかったため、昨年のライヴを。