川崎市の簡易宿泊所2棟が全焼した火災は、10人が亡くなる惨事となった。建物の耐火性などが法令に違反していた疑いがある。宿泊所の設備や構造の点検と改善を急がねばならない。宿泊所の問題とともに見過ごせないのは、所得の低い高齢者にとって、宿泊所が事実上の住まいとなっていたことだ。

 単身で身寄りのない低所得の高齢者が、自力で住宅を見つけることの難しさは、かねて指摘されてきた。今回の火災は、そうした指摘を裏付けた形だ。

 住宅は生活の基盤である。所得の多寡にかかわらず、老後に安心して暮らせるよう、公的な支援が必要だ。

 簡易宿泊所は宿泊費が安く、かつては高度経済成長を支えた日雇い労働者が利用した。今は高齢化した労働者が、生活保護を受けながら長期滞在する例が多い。川崎市は今回の火災を受けて、安全確保が難しい簡易宿泊所の居室に住む人に、民間アパートへの転居などを促す考えを示している。

 しかし、民間アパートの家主は、孤独死や家賃の滞納を心配して、貸すことをためらいがちだ。厚生労働省の審議会は、単身の高齢者が入居を拒まれる理由として①身元保証がない②日常的な見守りが必要③万一の場合の対応に懸念がある、ことを挙げている。

 低所得者向けに設けられている公営住宅は、応募倍率が全国平均で約7倍。場所によってはもっと高く、簡単には入れない。簡易宿泊所が受け皿となってきたのも、受け入れ先の不足による。それは、運営が不透明な貧困ビジネスが成り立つ背景にもなっている。

 厚労省は昨年度から、市町村が住宅確保と生活を支援するモデル事業を始めた。委託を受けた社会福祉法人やNPO法人が、低所得の高齢者に住宅に関する情報を提供するなど入居をサポートするとともに、入居後も訪問して見守ったり相談にのったりする仕組みだ。

 家主と高齢者の間に第三者が入れば、家主は貸しやすくなるだろう。すでに先駆的に取り組むNPO法人もある。行政が民間物件を借り上げ、公営住宅の提供数を増やす方法もある。

 2009年に起きた群馬県の高齢者施設の火災でも、所得の低い高齢者に居場所がない問題が明らかになった。入居者に、東京都内の自治体から送り出された生活保護の受給者が数多くいたからだ。

 高齢化が急速に進む日本で、住まいの確保は急務である。支援の充実が欠かせない。