副読本は依然「軍令」明記 「集団自決」をめぐる沖縄の教育


 文部科学省は4月、2016年度から中学校で使用する教科書の検定結果を公表した。社会科では沖縄戦における集団自決における強制や軍命を記述した出版社がなくなった。これには検定意見が出ておらず、歴史的な事実が反映される結果となった。一方、現在使われている副読本には「軍の命令」を明記するなど、偏向記述が続いている。(那覇支局・豊田 剛)

教科書是正も偏向続く、中高生は基地問題で現実直視

800

沖縄戦についての教科書検定意見撤回を求める県民大会についてのコラムを掲載した副読本

 1996年の中学歴史教科書検定では8社のうち6社が集団自決の強要性を明記したが、2001年と06年には2社に減少していた。また、今回の検定結果、地理ではすべての教科書に尖閣諸島の記述があり、領土問題のテーマの分量はほぼ倍増した。

 一方、高校歴史教科書検定では06年、「沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現」「軍命の有無は断定的な記述を避けるのが妥当」として5社に検定意見が付いた。これを受け、集団自決の軍命の記述が削除された。その結果、県内の教育界などから反発が起こり、翌年9月に宜野湾市で「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が開催された。

 元沖縄戦守備隊長と遺族が、作家の大江健三郎氏と岩波書店を名誉毀損で訴えた裁判(大江・岩波訴訟)では、軍命令について「隊長命令は証明されていない」「証拠上断定できない」との判断が示された。

 文科省は昨年1月、「未確定な時事的事象について断定的に記述していたり、特定の事柄を強調し過ぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと」と教科書記述の基準を示した。

 しかし、教育現場でこの基準を遵守(じゅんしゅ)した教育が行われているとは限らない。

 沖縄県教育委員会が出版した副読本「高校生のための沖縄の歴史」は記述に正確性を期すために集団自決の軍命の記述を削除した。2000年代前半ごろまで高校の選択科目で使われていたが、2007年の教科書検定で軍命がクローズアップされると、この副読本が使われなくなった。

 だが、それに代わって現在、使われているのは沖縄歴史教育研究会顧問で歴史教育家の新城俊昭氏が著した「琉球・沖縄史」だ。

 同書には「日本軍による直接・間接の命令・誘導によって『強制集団死』がおこりました」と書かれている。さらに、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」についてのコラムを2㌻にわたって紹介。

 「強制集団死が日本軍の命令・誘導などでおこったことは、多くの証言によって裏付けられており、近年の研究でも軍の強制を否定する学説はみあたりません」と論じている。この副読本について、元校長の男性は「現在でも選択科目で使われているが、沖縄戦の記述は偏っていて正確性に欠ける」と指摘する。

 沖縄歴史教育研究会と県高教組はこのほど、県内の高校生を対象に実施した平和教育に関するアンケートの結果を公表した。このアンケートは5年ごとに実施している。

 沖縄戦を学ぶことについて「とても大切」「大切」と回答した生徒は計94・1%に上り、1995年からの調査で過去最高となった。

 一方で、基地問題では県内で高まっているかのようにみえる反基地感情とは違う結果となった。普天間飛行場(宜野湾市)の移設先については、「分からない」が36・0%と最も多い。県外・国外が34・6%続いたが前回比で12ポイントも減少。「普天間にそのまま」は5年前から約6ポイント増え20・7%に達した。

 同会顧問の新城氏は、「若者はインターネットの影響を受けている」と原因を分析したが、視点を変えれば、高校生は情報の取捨選択をしながら現実を直視していると言える。

 「身近に沖縄戦について話してくれる人はいるか」との設問では、「いない」(43・1%)が「いる」(39・7%)を逆転した。戦後70年を迎え、沖縄戦の体験者が減り続ける中、沖縄戦をいかに事実に即して教育するかが問われている。

 今年夏には各採択地区委員会が採用する教科書を決める。2011年には、八重山地区(石垣市、竹富町、与那国町)が公民教科書で保守系の育鵬社を採択したことで地元メディアや革新系団体が猛反発した。

 竹富町が採択地区から離脱した今回、公民で引き続き育鵬社が選ばれるか、歴史でも保守系の教科書が採択されるかどうかが注目される。

PAGE
TOP