挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
今わたし自殺に忙しいので邪魔しないでください 作者:赤城千

新編

64/64

月が揺らいでいる

 今のこのキャンプは護衛にジンたちギルドと他の街から応援に来たギルドの人達が50人体制で行っている。
 キャンプにいるのはあと250人。
 身体の傷は回復薬で治るのが救いだろうか。なにせ治癒官は5人しかいないのだ。


 そしてこのキャンプでのユリカの立ち位置は非常に微妙であった。
 お荷物として扱われている。
 治癒官に教わりながら看護の真似事をしているが所詮この世界のやり方を知らない一般人。
 役に立つというほど出来ることはないのだ。

 その上、ジェニファーを逃がしてしまったという失態がある。
 護衛の隙をついて逃げ出したジェニファーも優秀だったとはいえ、その不自然さに疑問を持っている者もいるようだ。

 だが、こちらにはジンがいる。
 ジンはこの街の英雄だ。
 ユリカは獣人の砦を落とした英雄であるジンの恋人ということで全てを許してもらっているようなものだった。


 そんなユリカだが、このキャンプに来る魔族をジンと共に迎えることになった。

 その理由はユリカに教えてもらえることはない。
 だが、魔族という得体の知れない相手に対して、このキャンプの代表に祭り上げられているジンと、魔族の怒りを買ったらすぐに切り捨てられるユリカを選んだのは当然かもしれない。


 正装だとギルドから渡されたのはローブのような赤いマントだった。
 これにこの世界のドレスを着る。
 まるでお姫様だ。

 ジンもナイトみたいな剣の似合う戦士のような格好をしていた。
 恰好いい。
 まるで戦記に出てくる勇者のような。

「ジン、恰好いいわね」
「え、お、おう。……その、ユリカも似合ってる。かわいいぞ」
「おどろいた。ジンもそういう女心のわかるところもあるのね」
「なんでいつもアンタは素直に受け取らないんだ……」

 それがユリカだもの、と心の中だけで返してユリカは微笑んだ。






 対面する応接間として用意されたテントに十分ほど待たされた。
 そして、時は訪れる。

 キラキラとした光が突然現れ集結し、扉の形をかたどっていく。
 やがてそれは実体となり、重厚なピンクの扉がそこに出現した。

 それがギギィと音を鳴らして開く。

挿絵(By みてみん)

 扉を開けて現れた主は、まるで王子様のようだ、とユリカは思った。

 艶々とした艶やかな黒髪は後ろで丁寧に結い上げられ風に靡いている。
 その瞳は憂いを帯びたグリーンで、まるで夜の森のように白い肌を彩る。
 きらびやかな深い紫の軍服は、金の飾りで縁どられ輝いている。

 そういえば、ジンと初めて出会ったときも似たような感動を覚えたな、とユリカは思った。

「はじめまして。こんな辺境に飛ばされた私のような愚者にそんな瞳を向けることはない。――おっと済まない。君たちはその辺境に住む者だったか。これは失敬した」

 王子様然とした彼から飛び出た言葉は実にシニカルだった。

「辺境、だと?」
「事実だろう。反論でもあるのか?」
「ぐっ……!」

 確かに魔族の住む土地を中心とするならばここは辺境にあたるだろう、とユリカは思った。
 しかもその辺境の寄せ集めのキャンプ地だ。
 飛ばされた、ということなら不服に違いない、とユリカは納得した。

「名乗りがまだだったな。私はヴィオレ・ヴィオーラという。まあ家名にも個体名にも執着はない。ヴィーとだけ呼んでくれ」
「……ジンだ」

 家名に執着はない、だなんて案外親しみやすそうだなぁ、とユリカがのんびり聞いていると、隣でジンが会釈をしながら名乗った。
 慌ててユリカも自己紹介をする。


「騎士木ユリカです。よろしくおねがいします」
「き、しき……騎士木? 騎士木というのか」
「はい、騎士木ユリカです」

 ユリカの苗字に何かを考え込むような仕草をした彼は、ひとつ頷くとユリカへと歩み寄る。
 ジンが庇うようにユリカを隠そうとするがそれに構うこともなくヴィーはユリカの手を取った。

「な、なに……」
「これは私の……いや、俺のけじめだ」

 そう呟いたヴィーは、優雅な動作で膝を地面に着いた。

「我が神、我が神、どうして私をお見捨てになったのですか。我が足は神の御許に近づくために、我が腕は神に祈りを捧げるために、我が腹は神の祝福を食すために、我が背は異教徒を滅ぼすために、我が頭は神の御心を伺うために、我が目は神の御姿を見るために、我が口は神の意思を告げるために」
「!?」

 そこで一旦ユリカの目を見たヴィーはふっと笑うと歌い始めた。

「我の神に近づかん。よしや優に忍びなん。我歌ふべき吾の神に、近づかましともならん。さまよふままに我等も、目さへくらみ猶うたふ。岩の枕ねむらんときに、神と吾やあらんかも。我が神よ御許に近づかん。登る道は十字架にありともなど悲しむべき。我が神よ御許に近づかん。現し世をば離れて、天翔ける日来たらば、いよいよまず御許に行き、我が神の笑顔を仰ぎ見ん」

 ユリカの世界の賛美歌だとユリカは気がついた。
 なぜ賛美歌がここにあるのだろう。キリストはここにはいないのに。

 ユリカの驚きに気がついた素振りもせず、すっと顔をユリカの手に近づけるとヴィーはそこにキスを落とした。

「……!?」
「我が神に誓い宣言する。我が身、我が心はこれより彼女のものとならん」

 パアア、と光が眩くユリカの身体から迸る。
 それに驚いている間もなく、ユリカの全身に痺れが走った。

「あ、あ、あ、」
「ユリカ!?」

 ジンの呼ぶ声が遠い。

「あ、あ、あ、あ」

 身体の何かをこじ開けられているかのように全身が熱く痺れる。





 そしてユリカは気を失った。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼悪い点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

Ads by i-mobile

この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!

謙虚、堅実をモットーに生きております!

小学校お受験を控えたある日の事。私はここが前世に愛読していた少女マンガ『君は僕のdolce』の世界で、私はその中の登場人物になっている事に気が付いた。 私に割り//

  • 恋愛
  • 連載(全241部)
  • 59 user
  • 最終掲載日:2015/04/27 23:00
お前みたいなヒロインがいてたまるか!

アラサーOLだった前世の記憶を持って生まれた椿は4歳の時、同じく前世の記憶持ちだと思われる異母妹の言葉でこの世界が乙女ゲームの世界だと言う事を思い出す。ゲームで//

  • 恋愛
  • 連載(全55部)
  • 43 user
  • 最終掲載日:2015/05/31 00:00
甘く優しい世界で生きるには

 勇者や聖女、魔王や魔獣、スキルや魔法が存在する王道ファンタジーな世界に、【炎槍の勇者の孫】、【雷槍の勇者の息子】、【聖女の息子】、【公爵家継嗣】、【王太子の幼//

  • ファンタジー
  • 連載(全160部)
  • 38 user
  • 最終掲載日:2015/05/29 12:00
転生したけど、王子(婚約者)は諦めようと思う

 ノイン王国宰相・ザリエル公爵には、一人娘がいる。  銀色の髪にアメジストのような澄んだ瞳を持つ美しい娘・クリスティーナだ。  彼女の幼い頃からの婚約者は、ノイ//

  • 恋愛
  • 完結済(全7部)
  • 37 user
  • 最終掲載日:2015/04/21 18:00
悪役令嬢に転生したようですが、知った事ではありません

 12歳のある日、前世の記憶が戻った侯爵令嬢のアメリア。  同時に現状の自分へ酷く失望すると共に立派な淑女をなる事を目指します。  その途中、自分が前世で大好き//

  • 恋愛
  • 連載(全74部)
  • 38 user
  • 最終掲載日:2015/05/24 08:52
乙女ゲームの悪役なんてどこかで聞いた話ですが

ファンタジー系乙女ゲー世界の悪役に転生した主人公が、フェードアウトしようとしていたのに図らずも命を助けてくれた王子のために奮起する話です。8歳で王子の学友になり//

  • 恋愛
  • 連載(全88部)
  • 36 user
  • 最終掲載日:2015/05/31 19:45
悪役令嬢後宮物語

エルグランド王国には、とある有名な伯爵令嬢がいた。 その麗しい美貌で老若男女を虜にし、意のままに動かす。逆らう者には容赦せず、完膚なきまでに叩き潰し、己が楽しみ//

  • 恋愛
  • 連載(全91部)
  • 36 user
  • 最終掲載日:2014/03/09 09:00
かわいいコックさん

『花(オトコ)より団子(食い気)』で生きてきたアラサー女が気付いたら子供になって見知らぬ場所に!?己の記憶を振り返ったら衝撃(笑撃?)の出来事が。そしてやっぱり//

  • ファンタジー
  • 連載(全80部)
  • 46 user
  • 最終掲載日:2015/05/21 00:00
蒼黒の竜騎士

転生したら、人と竜が共存するファンタジーな異世界でした。 目指せ!前世では出来なかったおしとやかで可愛い乙女ライフ!……って、何か全然違う方向に向かってない? //

  • ファンタジー
  • 連載(全47部)
  • 42 user
  • 最終掲載日:2015/05/29 01:00
余命六ヶ月延長してもらったから、ここからは私の時間です

魔法が使える者だけが通える、特殊な学園に強制入学させられた三葉(みつば)。その日々は、ただただ地獄だった。落ちこぼれてクラスメイトにはハブられ、無理矢理ペアにな//

  • 学園
  • 完結済(全63部)
  • 40 user
  • 最終掲載日:2015/03/15 12:57
異世界出戻り奮闘記

 かつて私は異世界に召喚されたことがある。異界からの巫女として一年余りを過ごした私は、役目を果たし、元の世界へ帰ることとなった。そして護衛騎士に秘めた思いを告白//

  • 恋愛
  • 連載(全54部)
  • 43 user
  • 最終掲載日:2015/05/24 17:44
神達に拾われた男

日本に生まれた1人の男、他人より辛い人生を送ってきた男は己の持てる全ての技術を駆使して39年の人生を生き抜き、そして終えた。その後、男は男の魂を拾った3柱の神に//

  • ファンタジー
  • 連載(全174部)
  • 37 user
  • 最終掲載日:2015/05/18 01:00
異世界太腕漂流記 〜乙女ゲームは衰退しました〜

女子力底辺の日本在住ゲーオタ社会人女性(喪)が、こともあろうに乙女ゲームの世界に、しかもヒロインをあの手この手でいびる悪役に転生しました。 わりかしベタな剣と魔//

  • ファンタジー
  • 連載(全24部)
  • 40 user
  • 最終掲載日:2015/05/21 14:00
魔王であった余が悪役令嬢だと?ハッ笑止。

余は魔王。……であったのは実に前世。今はローズウッド・アンジェリークお嬢様として人間の貴族をやっている。婚約者であるヒースは最近余に無関心だ。どうしてだろうと思//

  • 恋愛
  • 完結済(全47部)
  • 37 user
  • 最終掲載日:2015/06/01 02:16
私は敵になりません!

キアラが養子に出されたのは、とある伯爵家。王妃の女官にするつもりで引き取ったらしいが、そのために二回り年上の人と結婚するよう命じられる。絶望した彼女の頭の中に湧//

  • 恋愛
  • 連載(全65部)
  • 36 user
  • 最終掲載日:2015/05/30 22:25
こちら討伐クエスト斡旋窓口

自分では全く戦う気の無い転生主人公が、ギルド職員の窓口係りになって、淡々と冒険者を死地に送り出していたが、利用者の生存率が異様に高くて、獣人達から尊敬されたり、//

  • ファンタジー
  • 連載(全82部)
  • 36 user
  • 最終掲載日:2014/12/29 06:00
張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました。

 どうやらここは前世でプレイしていたファンタジーな乙女ゲームの世界らしい。  "私"ことアルティリアはかませ犬のライバルキャラ、主人公にやっ//

  • 恋愛
  • 連載(全94部)
  • 38 user
  • 最終掲載日:2015/05/31 13:00
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…

頭を石にぶつけた拍子に前世の記憶を取り戻した。私、カタリナ・クラエス公爵令嬢八歳。 高熱にうなされ、王子様の婚約者に決まり、ここが前世でやっていた乙女ゲームの世//

  • 恋愛
  • 完結済(全35部)
  • 49 user
  • 最終掲載日:2015/03/23 20:32
こんな女に誰がした

王太子より婚約破棄を言い渡され、彼の思い人をいじめて危険にさらしたという罪で塔の牢に閉じ込められたアンジェリク。 世を儚んで、命を絶とうとして頭を打って前世を思//

  • 恋愛
  • 連載(全7部)
  • 42 user
  • 最終掲載日:2015/04/28 02:07
アルバート家の令嬢は没落をご所望です

貴族の令嬢メアリ・アルバートは始業式の最中、この世界が前世でプレイした乙女ゲームであり自分はそのゲームに出てくるキャラクターであることを思い出す。ゲームでのメア//

  • 恋愛
  • 連載(全89部)
  • 48 user
  • 最終掲載日:2015/04/05 17:51
針子の乙女

生まれ変わった家は、縫物をする家系。前世では手芸部だった主人公には天職?かと思いきや、特殊能力にだけ価値観を持つ、最低最悪な生家で飼い殺しの日々だった(過去形)//

  • ファンタジー
  • 連載(全11部)
  • 37 user
  • 最終掲載日:2015/05/16 00:52
乙女ゲーム。転生。チート。……どうせおまけの人生なら楽しませていただきます!

アラフォーの私はなぜか気がついたらゲームの世界へ転生していたようです。 しかもお約束のようにヒロインのライバルキャラの悪役女として。 しかも死亡ENDしかない//

  • ファンタジー
  • 連載(全43部)
  • 41 user
  • 最終掲載日:2015/03/19 00:42
転生王女は今日も旗を叩き折る。

 前世の記憶を持ったまま生まれ変わった先は、乙女ゲームの世界の王女様。 え、ヒロインのライバル役?冗談じゃない。あんな残念過ぎる人達に恋するつもりは、毛頭無い!//

  • 恋愛
  • 連載(全45部)
  • 53 user
  • 最終掲載日:2015/06/01 00:00
公爵令嬢の嗜み

公爵令嬢に転生したものの、記憶を取り戻した時には既にエンディングを迎えてしまっていた…。私は婚約を破棄され、設定通りであれば教会に幽閉コース。私の明るい未来はど//

  • ファンタジー
  • 連載(全71部)
  • 47 user
  • 最終掲載日:2015/05/18 21:41
北の砦にて

前世は日本人女子。今世は雪の精霊の子ギツネ。そんな主人公と、北の砦の屈強な騎士たちとのほのぼの交流譚。【2015/3/9・宝島社様より書籍版発売】

  • ファンタジー
  • 完結済(全31部)
  • 42 user
  • 最終掲載日:2014/08/03 15:18
そして少女は悪女の体を手に入れる

生まれつき体が弱かった私。17歳の人生が幕を閉じようとした時、笑顔がとっても可愛い天使さんが現れて、私に別の人の体をくれた。 どうやらその人は、自分で自分の人生//

  • 恋愛
  • 連載(全13部)
  • 42 user
  • 最終掲載日:2015/05/27 06:00
ふむ、どうやら私は嫌われトリップをしたようだ(連載版)

たくさんの人の命を救うために働き過ぎて私は死んだ。死ぬほど人を助けたそのお陰か天国では消費しきれないほどたくさんの徳が私には貯まっているらしい。その徳を消費する//

  • 恋愛
  • 連載(全15部)
  • 36 user
  • 最終掲載日:2014/10/13 22:22
転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう

車に轢かれるという残念な結末を迎えたと思ったら、気付いたら赤ん坊に。しかもファンタジーな世界の住人になっていました。マジか。 というかよくよく考えれば、前世の//

  • 恋愛
  • 連載(全148部)
  • 45 user
  • 最終掲載日:2015/05/30 18:54
魔導師は平凡を望む

ある日、唐突に異世界トリップを体験した香坂御月。彼女はオタク故に順応も早かった。仕方が無いので魔導師として生活中。 本来の世界の知識と言語の自動翻訳という恩恵を//

  • ファンタジー
  • 連載(全220部)
  • 43 user
  • 最終掲載日:2015/05/27 07:00
ぷりーず、すいーとみるく。ごろにゃん?

 獣人。それは人間と獣、二つの顔を持つ種族のこと。猫の一族に生まれた私の毛並みは、どうしてか両親の色を全く受け継がず全身真っ黒。育ての親により化け物の贄とされそ//

  • 恋愛
  • 完結済(全49部)
  • 38 user
  • 最終掲載日:2014/11/24 17:00
誰かこの状況を説明してください

貧乏貴族のヴィオラに突然名門貴族のフィサリス公爵家から縁談が舞い込んだ。平凡令嬢と美形公爵。何もかもが釣り合わないと首をかしげていたのだが、そこには公爵様自身の//

  • 恋愛
  • 連載(全135部)
  • 40 user
  • 最終掲載日:2015/05/29 21:57
↑ページトップへ