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橋下市長の敗北。政界の勢力図が大きく変わる

2015年05月31日(日) ドクターZ
週刊現代
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〔PHOTO〕gettyimages

大阪都構想を巡る住民投票で橋下徹大阪市長側が僅差で敗北し、橋下氏は政界引退を語った。あの橋下氏がなぜ勝てなかったのか。

5月17日に行われた住民投票の投票結果を見ると、投票率66・83%、賛成69万4844票、反対70万5585票となった。賛否は僅差で、どちらになるかは運次第とも思える結果だった。投票率が66・83%と高かったにもかかわらず、究極の民主主義である住民投票において自分の案が否決されたことで、橋下氏もすっきり、さばさばしたのだろう。

大阪市の賛否の割合を地域別に見ると、北部のほうに賛成が多く、南部のほうに反対が多かった。年齢別に見ると、若い世代に賛成が多く、高齢世代に反対が多かった。

民主主義で決定する場合、いろいろな世代に目配せしないと勝てないということだ。ところが、地方政治家の場合、景気を最も左右するマクロ経済政策を使えないというハンデがある。安倍政権の場合、マクロ経済政策である金融緩和を実施し、全国の雇用状況を一変させた。ところが、地方政治家の場合、これをやれば経済がよくなるというのは、国のマクロ経済政策の下で、他の地域より相対的に少しマシになるでしょうといった意味でしかない。

地方自治体は、総務省から財政均衡を事実上義務付けられている。首長にできることは、歳入を伸ばし、歳出を切り詰めることだけだ。マクロ経済政策がなく補助金頼みの地方にとって、歳入を伸ばすには中央官庁巡りしか基本的にできないがそれも限界がある。となると、首長の裁量でできることといえば、歳出を切り詰めることになってしまう。これが、地方の首長が財政再建を功績として語ることがしばしばである理由だ。

もう少し地方分権になれば別であるが、これが今の日本の現状だ。

橋下氏は、この切り詰めを一生懸命にやったのだろう。大阪市での敬老パスの有料化は、他の自治体でもやっていることであるが、今回の住民投票での高齢者層の反対をより多くしただろう。大阪市は、比較的裕福な北部とあまり裕福とはいえない人が多い南部で、南部の反対を招いたのも、切り詰めに一因があっただろう。

橋下氏の政界引退で、政治の世界では第三極がなくなる危機だ。もともと小選挙区制では、第三極は成立しにくい。自民と民主を2大政党とすれば、自民と連立する公明、独自路線で比例代表で存在感のある共産を除く第三極では、4年以上も存在するのは至難の業だ。みんなの党が消え、橋下氏のいなくなる維新の党も分裂の危機だ。

この意味で、当面は中央政界への影響が大きい。安倍政権も、橋下氏を心情的に応援する官邸と橋下氏と対峙する大阪府連をサポートする党との溝があったが、これは地方案件ということで今後に尾を引くものではない。

維新の党はこれから草刈り場になるだろう。早速、民主党が触手を伸ばしてきそうである。今国会の安保法制でも、維新と民主党の共闘が見られるかもしれない。

橋下氏の政界引退は、大阪の今後とともに日本の政界の勢力図を書き換えるものだ。この意味で、大阪市の住民投票は今年最大の政治イベントであった。

『週刊現代』2015年6月1日号より

 


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