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2015年6月 1日
診察を受けないまま死亡したり、犯罪死が疑われたりする変死体の死因究明徹底を目指し、県は死因究明推進協議会を設置した。愛媛県、福岡県に次いで全国で3番目。6月2日に初会合を開く。滋賀県警や県医師会、滋賀医科大学など九つの関係機関が集まり、遺族の解剖への理解、死因を調べる検案医の不足、かかりつけ医と救急医らの情報共有などの課題について対策を検討していく。
2007年の力士暴行事件で犯罪死が病死と処理されたことなどを受けて、政府は14年、「死因究明等推進計画」を閣議決定し、都道府県ごとに協議会設置を呼びかけている。
昨年、県内の変死体は1613件で、初めて1600件を上回った。孤独死事案も増えている。変死体が見つかった場合、県警の検視官が犯罪死の疑いがないか調べる「検視」をし、医師が死因などを特定して死体検案書を書く「検案」をする。
犯罪死が疑われる際の司法解剖や、犯罪死の疑いはないものの死因を明らかにしたい場合に遺族の承諾を得て行う承諾解剖などは計84件にとどまる。
背景には、一般の人の抵抗がある。現場にかけつける検視官が司法解剖が必要と判断すれば、遺族の同意がなくても解剖できる。だが、事件性がないと判断されると、遺族が「遺体に傷をつけたくない」と、承諾しないことが多いという。
検案医の不足も深刻だ。県からの基本報酬は1件3500円。遺族から1万~10万円程度を受け取るが、24時間いつ呼び出されるかわからない状況に置かれる。県内に約3千人の医師がいるが、県警によると、検案に協力している医師は35人程度で、変死体が見つかったときは、こうした医師に電話をして検案してもらう。特別な資格はないが、遺体の状態から死因や事件性の有無を判断するには一定の知識や経験が必要で、県警の小林孝行検視官室長は「検案を引き受けてくれる医師を増やし、当番制にしていくことが必要だ」と話す。
自宅療養中の患者が死亡した際には、既往症に一番詳しいかかりつけ医が死体検案書を書くことが望ましい。だが、容体が急変すると、家族は119番通報することが多く、救急医が死因を特定するのが難しい。県医師会では、医師間の情報共有の必要性について議論を重ね、かかりつけ医が救急医らに患者の情報を提供するしくみづくりを検討している。
(奥令)
滋賀医科大学の一杉正仁教授=大津市瀬田月輪町の滋賀医科大学
■再発防ぎ予防策考える 滋賀医大・一杉教授
協議会設置を呼びかけた滋賀医科大学の一杉正仁教授(45)に聞いた。
――県内の死因究明の現状をどう見ますか
全国平均に比べ、剖検率(変死体を解剖する割合)が低い。13年は全国が11・2%、県内は7・5%。何かが見逃されていてもおかしくない。犯罪捜査を目的とする警察主導で進んできたことも、剖検率が低かった一因と考えられる。
――なぜ死因究明が必要なのでしょうか
正しい死因を明らかにしないと、同じことが繰り返される。2006年に発覚したパロマ工業製湯沸かし器による一酸化炭素中毒が見逃されていた問題のように、早期に正しい原因究明ができていれば再発を防げることもある。予防策を考えることも、死因究明の大きな目的だ。剖検率の向上を含め、現状を変えられれば、死因を特定できる可能性が高くなる。
――協議会設置でどんなことを期待しますか
まず現状の課題を明らかにし、具体的な改善策を立て、継続して実行できる態勢を整える。相談窓口の開設や情報公開などの対応で、県民にオープンな制度をつくりたい。
(朝日新聞 2015年5月31日掲載)
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