内科医・酒井健司の医心電信
2015年6月 1日
適切ながん検診は、早期発見・早期治療によってがんによる死亡を減らします。一方で、検診にはコストもかかります。ここでいうコストとは単に費用がかかるというだけではありません。デメリットと呼んだほうがわかりやすいかもしれません。がん検診のデメリットの一つに「偽陽性」があります。
偽陽性とは、一次検査では「がんの疑い」という結果が出たものの、精密検査では「がんではない」と診断されることです。「最終的には、がんではないと診断されるのだからいいじゃないか」というわけにはいきません。
疑われるがんの種類にもよりますが、検査には多かれ少なかれ、体の負担が伴います。たとえば乳がん検診でがんの疑いが見つかった場合、生検といって組織の一部を採取する検査が必要になる場合もあります。がんではなかったとしても、痛い思いをするのは不利益です。
また、がんの疑いに対する不安という心理的な負担もあります。よほど心の強い人でもない限り、「がんかもしれない」という状態に置かれるのはストレスになります。心理的負担をできるだけ減らすため、がん検診を受ける前、および、一次検査で陽性の結果が出たときには、偽陽性について十分な説明が必要でしょう。
偽陽性がどれくらい生じるかは、がん検診の種類や対象者によって変わります。前回にも紹介した低線量CTによる検診が肺がん死を減らした研究(N Engl J Med. 2011 Aug 4;365(5):395-409)では、低線量CT群において24.2%が一次検査で陽性と判断され、23.3%が偽陽性でした。
言い換えれば、低線量CTによる検診1000回につき、242人が一次検査で陽性と判断されますが、そのうち本当に肺がんなのは9人だけで、残りの233人は結局は肺がんではなかったことになります。単純レントゲンに比べて低線量CTは精度が高いがゆえに、肺がんではない病変もたくさん見つけてしまうのです。
ちなみに単純レントゲン群においては、6.9%が一次検査陽性で、6.5%が偽陽性でした。検診1000回あたりにすると、69人が一次検査で陽性と判断され、本物の肺がんは4人で、残りの65人は肺がんではありません。どちらの群でも、「一次検査で肺がんの疑い」と言われた人のうち、「精密検査で肺がんではない」と診断される人の割合はだいたい95%ぐらいです。
どうでしょうか。「意外と偽陽性が多い」と思った方もいらっしゃれば、「こんなもんだろう」と思った方もいらっしゃるでしょう。念のために申し添えますが、この数字は「肺がん高リスクの55歳から74歳までのアメリカ人」を対象にした場合であって、対象者が異なれば数字も異なります。
がん検診には偽陽性のデメリットもあること、一方で、要精密と言われてもそれだけであまり心配し過ぎる必要がないことをご理解していただければ幸いです。
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