【シンガポール=吉田渉】中国人民解放軍の孫建国副総参謀長は31日、シンガポールで同日閉幕したアジア安全保障会議で講演し、南シナ海で進める岩礁埋め立ては「軍事防衛上の必要性を満たす目的だ」と述べた。中国軍幹部が軍事利用を公言したのは初めてとみられる。同会議では日米豪などが中国による埋め立てに「深刻な懸念」を表明したが、孫氏は海洋権益を重視する中国の立場を強調し、強硬姿勢を崩さなかった。
孫氏は同日午前、アジア安全保障会議での講演で「南シナ海の埋め立ては正当かつ合法だ」と強調した。そのうえで埋め立ての目的を複数あげ、海難事故の救援活動や気象観測などと並べて「軍事防衛」を掲げた。
南シナ海の領有権を巡って中国と紛争を抱える東南アジア諸国連合(ASEAN)各国や日米は、中国が造成する人工島の軍事利用を警戒してきた。米ウォール・ストリート・ジャーナルは人工島に2門の大砲があると報じている。孫氏の発言はこうした懸念を裏付ける内容で、関係国の反発が強まるのは必至だ。
29日から続いたアジア安全保障会議では、カーター米国防長官が中国に埋め立ての即時停止を要求。日豪の防衛相も「深刻な懸念」を表明し、一方的な海洋進出の自制を求めた。孫氏は講演や質疑応答で米国などを名指しにした批判は抑えたが「南シナ海を巡る挑発的な発言に反対する」と述べ、日米などの主張を逆に当てこすった。
カーター米国防長官は「中国の行動を多くの国が懸念し、米国との関係強化を望んでいる」として中国に自制を求めたが、孫氏の発言には大きな変化はみえなかった。
孫氏は南シナ海上空に防空識別圏を設定するかどうかとの問いに対して「空域の安全を総合的に考慮して決める」とし、将来の識別圏設定に含みを残した。中国は2013年11月に尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定し、日本の領空を脅かす挑発行為を続けた。複数の国が領有権を主張する南シナ海でも識別権を設定し、海洋での実効支配を空に広げる懸念が強まっている。
ASEAN各国は経済の中国依存度が高く、米国と歩調を合わせて対中批判を強めることには異論がある。孫氏は講演で東南アジア各国との良好な関係を強調。設立準備が進むアジアインフラ投資銀行(AIIB)などを通じて経済支援を強め、ASEAN各国が米国になびくことを防ぐ戦略をにじませた。
中国の声高な主張は南シナ海問題にとどまらない。孫氏は31日、シンガポールで韓国の韓民求(ハン・ミング)国防相と会談した。聯合ニュースによると、孫氏は在韓米軍が検討する最新鋭の地上配備型迎撃システム「戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に憂慮を表明した。これに対して韓氏は「韓国政府が主導的に判断して決定する」と答えたという。
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