日本と北朝鮮が、国交正常化に向かうための「ストックホルム合意」を発表してから、1年が過ぎた。

 過去を清算し、拉致問題などの懸案を解決することが前提となっているが、目に見える成果は何もない。

 拉致問題は、いまも多くの関係者の人権を著しく傷つけ続けている喫緊の課題である。それなのに、解決に誠実な姿勢を見せようとしない北朝鮮の側に、関係停滞の原因がある。

 日本政府は、北朝鮮の政治、経済の状況を見極めつつ、米韓など国際社会との協調枠組みを維持しながら粘り強い交渉を続けていくしかない。

 合意では、北朝鮮側が拉致被害者や拉致の可能性がある特定失踪者、戦後に現在の北朝鮮に残された人らの調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に「日本人に関する全ての問題」を解決する意思を表明した。

 昨年7月、北朝鮮が特別調査委員会を設けたことを受け、日本政府は独自制裁の一部を解除した。しかし、進捗(しんちょく)状況を随時伝えるとした特別委の報告は滞り、拉致被害者との再会を心待つ家族らを失望させてきた。

 日本政府は合意事項の中でも拉致問題の解決を最優先として報告を促している。だが、北朝鮮側は「調査は1年をめど」としたまま真剣さは見えない。

 このままでは、調査開始から1年となる来月、本当に報告を出すのかさえも不透明だ。

 一方で北朝鮮は日本との協議を今後も続ける考えだ。

 3月に在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の議長宅が家宅捜索された後には「政府間対話もできない」と抗議してきたが、実際に打ち切る構えはみせていない。

 発足から3年が過ぎた北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)体制は、政治的にはいったん安定しているとみるべきだろう。一部に市場主義も採用して経済の立て直しに力を入れており、首都平壌の市民生活は上向いているという。

 だが、外交面で国内に誇れるような実績はない。最大の後ろ盾である中国との関係はぎくしゃくしたままで、米国や韓国との本格対話もめどが立たない。

 10月に朝鮮労働党創建70年という大きな節目を迎える金正恩氏にとって、日本は簡単に捨てることができるカードではないはずだ。

 日本政府は、北朝鮮の相次ぐ軍事的な挑発に対しては米韓とともに圧力を強める必要があるが、対話のチャンネルを持つという立場を最大限に活用し、北朝鮮に変革を迫るべきである。