「早く質問しろよ」とは、何と人を見くだした態度であることか。安保政策の大変換をめぐる歴史的な国会論戦で、首相の不遜が情けない5月の言葉から▼ネパール地震への募金活動などを続ける埼玉県立大看護学科講師の山口乃生子(のぶこ)さん(43)は、かつて現地のハンセン病療養所で支援と研究をした。「私は援助をしに行ったつもりでいたが、現地でネパールの人たちに支えられ成長させてもらった」。恩返しの気持ちを今こそと▼福岡県で、子の非行に悩む親たちに寄り添って話を聞いてきた能登原裕子(のとはらゆうこ)さん(66)は、自らも息子の非行に苦しんだ。「そんなあんたでも好きだよ、という気持ちを示し、帰ってくる場所があることを伝え続けるのが大切です」。息子さんは今では2児の父に▼障害者シンクロナイズド・スイミングのコーチ杉浦真代(まさよ)さん(42)。「足が使えなければ手を使えばいい。1人で立てなければ誰かが助ければいい。出来ないことなんてないんだ」▼千葉大教授の酒井啓子さんが地上のゆがみを突く。「パリのテロが世界を揺るがしても、イラクの犠牲者は注目されません。人の命の値段には差があるのです。命の値段の違いを前提に、政治も経済も動いている」▼淡路島の砂置き場から第一級のお宝。ザクザク7個も出土した弥生時代の銅鐸(どうたく)に、南あわじ市文化財保護審議会委員の川野計郎(かずろう)さん(81)は「腰を抜かすほど驚いた。この年まで生きていてよかった」。市井の言葉の端々にこそ真摯(しんし)と真実が宿っている。
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