社説:安保転換を問う・米軍協力の当否
毎日新聞 2015年05月29日 02時32分
◇主体的に判断できるか
米国が間違った戦争を始め、自衛隊に協力を求めてきたら、日本は断れるのか。そのことが、安全保障関連法案の国会審議で、論点になっている。安倍晋三首相は、米国に言われるままに武力を行使することはなく、主体的に判断するという。
首相の説明によると、これまで米国の武力行使に対し、日本が国際法に違反するとして反対した例はない。ただ、米国によるグレナダ侵攻(1983年)とパナマ侵攻(89年)の際は、遺憾の意を表明した。
岸田文雄外相は、おとといの国会質疑で、日米同盟に深刻な影響があることが集団的自衛権行使の要件になるかを問われ「日米同盟に何らかの影響が及ぶことが即、新3要件に該当するものではない」と語った。
しかし、昨年7月の国会では「日米同盟は我が国の平和と安定を維持する上で重要だ。新3要件に該当する可能性は高い」と述べた。日米同盟のためには常に集団的自衛権を行使できるという考えを示したと受け取られ、物議を醸した。
そうした経緯を考えると、日本が米国の要請に「ノー」と言えるのか、懸念をぬぐえない。
先制攻撃は国際法で禁止されているが、米国は必ずしも先制攻撃を否定していない。
政府は先制攻撃は国際法違反であり、日本が集団的自衛権を行使して支援することはないとしている。ただ、言い回しは微妙で、首相は「違法とされる先制攻撃を支援することはない」、岸田氏は「着手の時点がいつかなど、厳密な議論が存在する」と語り、違法と判断されるかどうかで対応が変わるとも受け取れる。
米国がイラク戦争のように正当性を疑われる戦争をし、それが集団的自衛権行使の新3要件にあてはまる場合、日本はどうするのか。機雷掃海を求められたら、協力するのか。
首相は、米国の戦争に巻き込まれることは「絶対にあり得ない」と断言するが、具体的ケースについては直接、答えようとしない。
集団的自衛権だけではない。重要影響事態法案では、政府が日本の安全に影響を与えると判断すれば、自衛隊は世界中で米軍などに後方支援ができる。米国から後方支援を求められ、事態として認定できない場合はどうするのか。疑問は尽きない。
これまでは憲法の制約を理由に、米国に協力できないと言えた。しかし、新法制では制約が取り払われ、政府が主体的に判断することになる。国会も承認するか否かの責任を負う。米国に追随するのでなく、信頼して判断を任せられる政府と国会でなければ、新法制は機能しない。