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“困窮者支援”始動 その現場は

5月29日 18時30分

生活に困っている人を幅広く支援する「生活困窮者自立支援法」が4月に施行し、各地で相談窓口が設けられ、具体的な取り組みがスタートしました。
仕事や住まいの確保などをサポートし、自立につなげてもらおうという新しい制度。
動き出した現場とその課題を取材しました。(ネット報道部 山田博史)

生活保護を受ける前に支援

この制度は、生活保護の受給世帯が年々増え、全国での支出が年間3兆7000億円に上る中、生活保護に至らないよう、必要な支援を提供し、自立につなげてもらうねらいで作られました。

これまでの窓口と違い、生活のうえでのさまざまな悩みごとについて相談を受け付ける、いわゆる“ワンストップ”の窓口になっています。
相談に応じて、「就労を支援すべきか」、「生活保護を受けてもらうべきか」など、一人一人にとって最適な支援法を考えます。

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就労を支援する場合、専門の支援員などが、就労までの支援プランを作成します。
その際、住居を失っていた人には、一定期間、家賃が支給されます。
さらに、自治体の任意で、▽「貧困の連鎖」を断ち切るために、経済的に苦しい家庭の子どもの「学習支援事業」や、▽すぐに働くことは難しい人の訓練などを支援する「就労準備支援事業」、▽家計の管理などを手助けする「家計相談支援事業」などの取り組みが行われることになっています。

先進地・川崎市では

4月からの本格実施を前に、全国254の自治体では、先行してモデル事業が行われてきました。

このうち、川崎市では、おととし12月、川崎駅近くに社会福祉士など11人の相談員が常駐する「だいJOBセンター」を開設しました。

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昨年度1年間に窓口を訪れた人は1093人。
このうち、▽生活保護が必要な人や、▽働く意欲はあっても病気の治療が優先の人などをのぞく339人が、実際に就労可能とみられる人でした。
そして、各相談員が、それぞれの希望や適性に合ったプランを作成し、結局、241人が就労しました。

「わらにもすがる思いで」

妻と子ども2人の4人で暮らす30代の男性は、去年の夏にセンターを訪れました。
数年前から川崎市に住み始め、アルバイトを転々としていました。
「安定した仕事に就こう」と、バイトをやめて就職活動に専念していたところ、市役所から「子どもを保育所に預けられなくなる」と言われ、困って、センターを訪ねてきたのでした。

保育所の利用規則では、「子どもを保育所に預けるには1か月に16日間以上の勤務が必要」と決められているため、センターは、まず、条件をクリアできる配送会社のアルバイトを紹介しました。

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そして、生活が軌道に乗ったところで、男性の希望も聞きながら、正社員登用の道もある別の会社を改めて紹介。
男性は、今月になって、その会社に就職しました。
今では、安定した生活を送れるようになったということで、「半信半疑でわらにもすがる思いで来たが、『一緒に考えましょう』と言われ、プランを作ってもらえて信頼できた。仕事を長く続けて家族を安心させたいと思う」と話しています。

高年齢層が次々と就労

川崎市自体も、相談を通して、新たな発見をしたと言います。
就労につながった241人のうち、半数近くの110人余りが60歳以上の高年齢層だったというのです。
吉田直弘センター長は、「年金が十分でないことなどが背景にあるかもしれないが、年齢が高いだけで体は元気で、働きたいと思っている人が多いのではないか」と話しています。
市は、人材派遣会社に依頼して、高齢者向けの求人情報を探してもらい、センターを訪れた人に紹介するようになりました。
市によりますと、生活保護にかかる費用は年間およそ600億円。
一般会計予算の1割に当たり、こうした人たちが就労につながれば、大きな削減効果があると言います。

地方の取り組みにはばらつき

成果を生む自治体がある一方、新しい制度では、市町村の裁量に委ねられる任意事業も多いことから、地方の取り組みにばらつきが生じています。

厚生労働省が、去年10月の時点で、全国の自治体に「任意事業に取り組む意向があるか」尋ねたところ、▽「子どもの学習支援事業」は36%、▽「就労準備支援事業」は33%、▽「家計相談支援事業」は29%にとどまりました。

また、生活困窮者の支援に取り組んでいるNPO法人「もやい」が、東京23区を調べたところ、3つの区は「任意事業を行わない」と回答しました。

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「もやい」の大西連理事長は、「やる気のある自治体とそうでない自治体間で差が出るので、自治体によっては、相談しても、使えるメニューがないというケースも出てくるだろう」と話しています。
さらに、「今回の制度の国の予算は400億円だが、このうち半分は相談窓口を作る費用で、家賃補助は20億円程度しかなかった。就労の訓練を受ける間の生活を保証するような給付メニューもない。市民の声を聞きながら、より使いやすい制度にすることが大切だと思う」と話しています。

厚生労働省は、この新しい制度の対象になる人は全国でおよそ40万人に上るとみています。地域間の格差については、「取り組み状況に差はあるが、ゼロから始めてここまできた意義はあるし、今後、事業の必要性や効果について、個別にやり取りをしながら広げていきたい」と話しています。

「職員の意識高め、寄り添う支援を」

貧困問題に詳しい首都大学東京の阿部彩教授は、「これまでの制度ではざまに落ちていた人を救えるようになり、行政に期待できる幅も広がった」と評価しています。

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例えば、保育料の滞納があった場合、これまでは、分納を勧めるなど滞納対策だけだったのを、背景にある家庭の問題などにまで踏み込み、必要な支援ができる別の窓口につなげて解決に導くことができるようになるとしています。

そのうえで、成果を挙げていくには、自治体の意識改革が求められると指摘しています。
阿部教授は、「首長のリーダーシップに加え、職員のやる気や能力、相談員の力量に左右される面もあるので、研修などを通して職員の意識を高め、困窮者に寄り添う支援につなげてほしい」と話しています。


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