政府は29日、カルテや診療報酬明細(レセプト)などの医療情報に番号制度を導入する方針を正式に決めた。税と社会保障の共通番号(マイナンバー)のシステムと医療関連のシステムを連動させる仕組みを、2018年度から段階導入。医者らが個人の診療結果や処方薬の情報を共有できるようにして、二重の投薬や検査を避ける。戸籍や旅券、自動車登録などにも共通番号を幅広く活用して国民の利便性を高める方針を確認した。
29日の産業競争力会議で、厚生労働省は医療分野への番号制度の導入方針を表明。安倍晋三首相は会議で「重複検査や重複投薬から解放され、一貫した医療・介護サービスが受けられる」と意義を強調した。6月中にもまとめる新しい成長戦略に盛り込み、20年度から本格導入する。
新制度ではカルテやレセプトを管理するための医療番号を新たに作る。医療番号はマイナンバーとシステム上、連動する仕組みだ。医療番号を使って医療機関や薬局、介護事業者らが情報を共有できるようにする。番号を使った情報管理は個人の任意で実施する。
マイナンバー制度が始まると個人番号カードが配布される。17年7月以降、番号カードは健康保険証としても利用できる。ICチップが搭載されており、医療機関で認証すると、医者はマイナンバーと連動した患者の医療番号を把握できる。医者はマイナンバーは扱わない。医者が扱う情報は医療分野のみにし、情報漏洩リスクを最小限にしたい日本医師会に配慮した仕組みだ。
マイナンバー制度自体は16年1月から始まる。当初はカルテやレセプトなどへの活用が検討されたが、医師会などの反対で先送りになっていた。二重投薬が無くなれば、1兆円規模の医療費が削減できるとの試算がある。医者や介護事業者が在宅医療を受ける高齢者の情報を簡単に共有できれば、効果的な医療計画を立てられる。
医療番号とカルテをひも付けるにはカルテの電子化が必要だ。電子カルテを導入している400床以上の一般病院は11年度に57%にとどまる。政府は20年度に90%に拡大する目標で、電子カルテの導入費用への予算措置を検討する。
番号制度を通じて集まった病気や治療に関する医療情報は匿名にして、いわゆるビッグデータとしても活用する。製薬企業や大学に開放し、新薬開発などに生かす。政府は幅広い治療結果のデータを分析して、効果的な治療に役立てる。無駄な検査や投薬が見つけやすくなるため医療費削減につながると期待される。
医療以外の分野でも幅広くマイナンバー制度を活用することも決めた。戸籍や旅券、自動車登録などで番号が活用できるようにする方針で、18年にも戸籍法などを改正する。証券分野への番号の適用を検討し、株券の名義の書き換えなどを担う証券保管振替機構が口座の名寄せに使えるようにする。投資家がネット上のマイナンバー専用ページで取引履歴を取り込み、納税手続きを簡単にすることも検討する。
マイナンバーを記載したカードの利用対象も増やす。たばこ自販機での年齢確認にも使い道を広げる。タブレット端末やスマートフォンなどでも使えるようにする。
国や自治体との手続きや民間取引で、電子的処理を原則に位置づけるIT利活用促進法を制定する。マイナンバーで本人確認がしやすくなるのを踏まえ、書面や対面を不要とする。国の認定を受けた民間事業者に、個人の医療情報を委託管理し、個人の生活習慣の改善などに役立てる制度も盛り込む。
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