安全保障法制を審議している衆院特別委員会で安倍首相が飛ばしたヤジについて、改めて取り上げたい。国会における品位という問題にとどまらず、首相の立法府に対する理解や敬意が決定的に欠けているという根深い問題だからだ。

 おとといの特別委員会でのこと。中東で機雷掃海をすれば日本がテロリストに狙われたり、自衛隊員に死傷者が出たりしないか。民主党の辻元清美氏が3分間ほど、そんな指摘を続けているとき、「早く質問しろよ」と声があがった。

 このヤジを飛ばしたのが、ほかならぬ安倍首相である。

 紛糾すると、首相は「延々と自説を述べて私に質問をしないので、早く質問をしたらどうだと言った」と釈明。「言葉が少し強かったとすれば、おわびを申し上げたい」と謝罪した。

 こんな言い訳で済まされる話ではない。首相自身の答弁が長いとの指摘を受け、委員長から「簡潔な答弁」を求められてもいた。しかも辻元氏の質問は、国民や自衛隊員の命にかかわる問題だ。その最中に国会議員や審議を軽んじるような言葉を言い放ったのである。

 国会論戦には、与野党の対決という側面もたしかにあるだろう。だが、国会は立法府として行政府と向き合う場でもある。行政府の長である首相は、みずからの内閣が提出した安保関連法案の中身を説明する責任がある。国会議員は、国民を代表して、それを問いただす役割を負っている。

 口頭試問を受ける受験生と面接官のようなもの――。首相と議員の関係を、政治学者の杉田敦・法政大教授はそう例えている。受験生が面接官にヤジを飛ばすことは許されない。

 安倍首相のヤジによって侮辱されたのは、国会そのものであり、国会議員を送り出した国民でもある。国会全体として首相に対し、改めて強い怒りを表明すべきだ。

 安倍首相は2月の衆院予算委員会でも「日教組!」「日教組どうするの、日教組!」と民主党の質問者にヤジを飛ばして問題になった。反省どころか、数の力を頼んだおごりも極まれりというほかない。

 国会審議の前に米議会で演説し、安保法制について「戦後初めての大改革です。この夏までに成就させます」と誓った首相である。異論に耳を傾ける気は毛頭ないのかもしれない。

 しかし、まさにその大改革が議論されているのである。首相が国会をないがしろにする姿は二度と見たくない。