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ツイキャス赤松氏はホントは国家公務員タイプ? 起業に至った意外なキッカケとは

投稿日: 更新:

「私が入った当時のサイボウズはすごかったですよ。ファックス用紙を入れれば入れた分だけ20万円の注文書が出てくる。全国から注文が殺到していた。そういう状況だったので、若干勘違いしていたところもあるかもしれません」

自分が起業に至った経緯の一端を、苦笑いしながらこんな風に語ってくれた赤松洋介氏は、若者を中心に支持を集めるモバイル向け動画ストリーミングアプリ「ツイキャス」の生みの親だ。2012年2月にツイキャスを運営するモイを創業、2014年6月には国内外のVCらから500万ドル(約6億円)の追加の資金調達を実施するスタートアップ企業の注目株だ。今や登録ユーザー数が1000万人を超え、ストリーミングとECを組み合わせる「キャスマーケット」をリリースするなど攻めの姿勢を取り続けている。

モイ株式会社 創業者で代表取締役の赤松洋祐氏

シリコンバレーでは2015年に入ってからMeerkatやTwitterが買収したPeriscopeといったモバイルネイティブのストリーミングサービスが話題となっているが、実はツイキャスはiPhone 3Gの時代にスタートを切った、いわばモバイル・ストリーミングの第一世代。

なぜ、それほどスタートが早かったのか? いまツイキャスが若者にウケている理由は何なのか? 社長業より、ついコードを書く時間が長くなりすぎてしまうというバリバリのエンジニアである赤松氏が起業するに至った背景は何なのか? 東京・神田にあるモイのオフィスで赤松氏に話を聞いた。

ラリー・ページと机を並べた経験から感じたこと

Google共同創業者のラリー・ページと机を並べた話しですか? えぇ、すごく昔のことですけど、スタンフォード大学に客員研究員として1年いたことがあるんですね。そのときラリー・ページがポスドクとして研究室にいました。同じくGoogle共同創業者のセルゲイ・ブリンもいましたし、後にGoogleで初期SNSのOrkutを作ったオーカット・バイオコクテンもいましたから、結構粒ぞろいでしたね。

ラリー・ページに誘われていてもGoogleには行ってなかったと思います。というのも、ラリー・ページが言うことが理解できなかったんです(笑) 当時はまだインターネットってヤフー全盛期でした。つまり、検索なんかしなくても、1日あればインターネットなんて全部回れるよというぐらいの規模だったんです。だからGoogleのような検索の意味が分からなかった。いずれページが無限大に増えるからというので研究がいろいろあって、彼はそういうのをやっていました。それにしても検索だったら、もうAlta Vistaもあるし、新しいのなんて要らないじゃんって思っていましたね。私には全く見る目がなかったんです(笑)

その後のGoogleの成長のスピード感を見て、今も影響を受けています。

カリフォルニアの学生って、のんきなんですよ。いつ勉強してるんだよって感じなんですね。でもトップの人はスーパーです。そこの層は全然違う。「世界を変える」って言いますよね。あれが本当で、ふつうに考えたら無理でしょっていうようなことがホントに起こったりするんです。ラリー・ページのGoogle創業がいい例で、当時そんなにすごいと思っていなかったことが、世の中を変えたんですね。これは、すごいなと。今も影響されていて、自分でもできるはずだっていう思いがあるんです。

サイボウズの爆発的成長を目の当たりにし、自らも起業

大学は京都大学で数理工学を専攻してプログラミングばかりしていました。卒業して就職した会社はオージス総研という大阪ガスの子会社なんですが、アメリカに事務所を持っていたんですね。ところが事務所を間借りしていたアメリカの会社が急成長しすぎて、オージス総研としては出て行かなくちゃいけなくなった。それで自分たちで事務所を探すことになりました。私は新入社員だったんですが「行く?」と聞かれたので、「行きます」と手を挙げて。

アメリカに行くといってもビザがないので、社長に推薦状を書いてもらってスタンフォード大学に入りました。日中はスタンフォードで勉強して、日本が朝を迎えるアメリカ西海岸の夕方からはオフィスでシゴトをするという生活でした。

日本に戻ってきてからは転職を考えました。ちょうど友だちが転職したいと言ってたので、いろいろと探していたら、求人情報にサイボウズというのがありました。調べてみたら面白そうだったので、「お前じゃなくてオレが行くわ」と友だちに言いましてね(笑)、友だちじゃなく自分が転職してしまいました。

で、サイボウズに行ってみてベンチャー企業ってすごいなと思いましたね。2000年ごろのことです。そのころって、まだふつうの人はそうだったと思うんですけど、ベンチャー企業が何かって分かってなかったんですね。「あ、こんな風にして新しいものを作っていくんだ」っていうのが見れて面白かったです。

サイボウズ・オフィスってグループウェアとして、その後は広く国内で使われることになりましたが、最初はおもちゃ的な存在でした。当時、社内でLinuxサーバーを立ててファイルサーバとして使って、それで便利だよねというような時代だったので、ニーズがあったんでしょうね。ものすごく売れました。

気づけば部署内でグループウェアを使い始めていて「試用期間が終わります」と言われ、それで「じゃあライセンスを買うか」みたいな流れが日本全国の企業であったんですよね。当時のサイボウズでは、ファックス用紙を入れれば入れた分だけ20万円の注文書が出てくる。全国から注文が殺到していた状態です。

「ベンチャーすごいな」と。それが私が起業することになったキッカケの1つです。

サイボウズでは、私は1広告、1クリック100円とか、メルマガ1通何円とか、そういう手段を使ってサイボウズ製品をマーケティングしていたんですが、だいたい広告費用として月間1億円ぐらい予算を持っていました。それを使いながら、月に数万人の新規ユーザーを集めるという感じでした。

ところが、ある時RSSフィード関連ツールとしてフィードメーターというサービスを作ったんですね。それを立ち上げて1日放置して翌朝起きてみたら、100万アクセスを突破していた。サーバー会社から警告メールがきていて、お前のサービスはアクセスが多すぎるから出て行け、というんです。で、これは面白いなと思いましたね。何百万円という単位でお金をかけなくてもマーケティングってできるな、こういうのを開拓して自分でサービスを広げていきたいな、と独立を考えるようになりました。インターネットの面白さを実感できるものをやりたかったんです。

当時サイボウズの社長だった高須賀(サイボウズ創業者の高須賀宣氏)が、ある年の新入社員が入ってきた最初の朝会で「おれ、会社やめるから」とか言い出したりしたことがありました。まあ、すごく独特の雰囲気でしたね。で、そこが時代の節目と思ったんです。私は自分でチャレンジして行きたいと思っていたので、会社をやろうと。それで起業したんです。

創業はしてみたものの、売上はゼロ

2005年にサイトフィードという会社を作ったんですが、最初は売上が立ちませんでしたね(笑) 会社を作って何かやっていれば売上はできるんだと思っていたんですよね。サイボウズで20万円の注文書がバンバン届くのを見ていたので、若干勘違いしていたところもあるかもしれません。会社をやってみて、すぐに資本金がなくなってしまうことも分かった。「これはヤバイ、ヤバイぞ」と。

最初はマーケ支援のツールをいろいろ作りました。RSS関連のサービスをいくつか、企業向けと個人向けでです。コンサルティングが嫌いで、プロダクトで勝負がしたかったので、いくつか作りました。知名度がないので、無料のものを作りつつやるわけですが、そうすると意外にバーンレートが高いわけです。

2000万円の資本金で始めたんですけど、社員が4人いると、2000万円なんて、あっという間になくなるんですよ。こりゃヤバイということで一旦その会社は解散ということになって、また1人になり、そこからサービスを作っては売りっていうことをやりました。

最初の2000万円の資本金は自己資金でした。サイボウズは上場まで行ったので、そのときに少し蓄えができたていたのはラッキーでしたね、そのときの資本金がなければ、今に続いてないので。

社長業とエンジニア業のバランスの取り方:寝ない

コードは今も書いていますよ。この取材を受けるまで今朝もツイキャスのコードを書いていました(笑) 使うプログラミング言語は、PHPとC、Objective-C、Java、ActionScript(Flash)あたりですね。

エンジニアリングで困ったことはありません。いま現在だと人手が足りていないっていうのはありますけどね。むしろ、社長業とエンジニアリングのバランスが難しいですね。どうやってバランスを取って来たかですか? それは、まあ睡眠を削りましたよ(笑)

いまも危険な状態で、ちょっとトップとしてはエンジニアリングやりすぎててヤバイなという……。そのへんの取捨選択は難しいですね。ツイキャスでも、実現できてないところが多いんですよね。これをやれば、もっとユーザーに喜んでもらえるのに、というのがいっぱいある。全部に手を出せないので悶々としているところがあります。ユーザーがいて、機能を実装してリリースすると喜ばれるので、それは楽しいです。もちろん、狙いを外すこともありますけどね。

遠隔ラジコンの「Joker Racer」でツイキャスにつながる技術を開発

ツイキャスはサービス開始から丸5年が経っています。当初モバイルのストリーミングというのは帯域じゃなくて、端末の処理能力の限界との戦いでした。そもそもiPhone 3Gとか3GSというフロントカメラもないような時代に配信サービスを始めましたからね。端末のCPUが非力だったので、映像配信を実用レベルにまで持っていくのが大変でした。

最初に映像と音声が流せるものを作ってみて、リアルタイム性がないと面白くないなと、そういうのが見えた。だから、画質や音質にこだわって遅延があるものものより、遅延なく軽く配信できるものを作ろうと思いました。とにかく遅延が少ないもの。

ネット経由で遠隔操作ができるラジコン「Joker Racer」
もともと、モイ以前には「Joker Racer」というラジコンをネット経由で操作するプロジェクトをやっていました。ラジコンを遠隔操作するためには、だいたい遅延を300ミリ秒以内に抑えないといけないんですね。絶対に遅延があっちゃいけない。ツイキャスが作れたのは、このラジコンのプロジェクトで得た技術があったのも理由の1つです。

ラジコンにはLinuxサーバーとWebカメラ、無線LANを搭載してありました。それを外部から操作する。無線LANがあるところで走らせて、ほかの人がネット経由で操作する。当時Jokerはヨーロッパからもアクセスされていました。ヨーロッパからだと操作が難しそうでしたね(笑)

ラジコンは結局は発売できませんでした。作るのに1つ10万円ぐらいかかったんです。時代が早すぎたのかもしれません。ただ、最初のツイキャスにはJokerのノウハウが活用されてるんですよ。よく見ると、ラジコンにあったものが全部iPhoneに入ってたんですよね。サーバーもカメラも無線も、ぜんぶiPhoneには入っていた。

iPhone 4のフロントカメラ搭載で配信が「コミュニケーション」に変化

皆さんもう忘れているかもしれませんが、iPhone 4/4sが出たときに、初めてフロントカメラが付いたんです。大混乱になりました。どんなものかも知らないのにアプリをサブミットしろとアップルに言われたりしてね(笑)

でも、iPhone 4が出たのはストリーミング配信がコミュニケーションに変わった瞬間だったんです。

当時、ツイキャスを使うのはギーク系とか先端の人たちでした。なので、何かを配信するといっても、日常会話を流すというよりかは、イベントだったり、外を散歩してみたりとか、何か目的がある配信でした。マニアックなものをやるとかですね。

それが、iPhone 4でフロントカメラが出てからは、女性が増えたんです。もともとそれまでにも、女性は「鏡配信」と言って、鏡をスマホの前に置いて自分を映していました。ニッチだったものの、これは面白いな、ニーズがあるなと感じていました。それがiPhone 4が出て、本格化したんです。

ツイキャスだと化粧している様子をストリーミングする人が多いんですが、これは別に化粧を見せるとか化粧アイテムを紹介するということじゃないんです。そういうのもありますけど、どちらかというとスキマ時間を使ってコミュニケーションができるようになってきたということなんです。

お化粧する時間って1時間ぐらいかかるんですよね。その間、ほかに何もできなくてヒマ。だから、その時間にコミュニケーション取れて、おしゃべりできて楽しいっていう。今まで活用できてなかった時間、そこにニーズがあったんだと思っています。

ゴリゴリのチューニングで回線や端末性能の限界に挑戦

サービス開始当初は端末の処理能力との戦いでしたが、その後は帯域とも戦いでした。

1Gbpsの光回線が家庭用で5000円とかになってきていたので、最初は回線を束ねてやってました。お金がなかったので。最終的には8本の1Gbps回線をオフィスに引いていました。それでも2Gbpsまでしか速度が出なかった。よくよく調べてみたらNTTの神田局がパンクしてたというね(笑)

1年半前の夏までは社内サーバーを使っていたんです。でも電気代が大変でしたね。プリンターと湯沸かしを同時に使うとサーバーが落ちたので、湯沸かし禁止にしたりね、ぎりぎりの線でやってきました。

初期に使っていた社内サーバーはマザーボードをむき出し状態でラックに無造作に置いていたという
夜は完全に回線がパンクするんですよ。接続が遅くなったり、遅延が発生したりする。そこで、どうやったら回線がパンクしそうなときにでも、ユーザーのみんなで帯域を分けあって、たとえ映像がカクカクになるぐらいフレームレートを落としてでも遅延しないようにしようかと、そういう仕組みを入れました。

それが、今になって生きています。回線の遅延ってサーバの問題ということもありますが、モバイルだと端末側の電波状況が悪いということもあります。そういうときにも、それなりに映像が見えるというのが実現できたのは、回線がパンクしそうでサーバー・チューニングしてきたからできたことなんですよね。

ちょっと特殊なことをしているんです。映像配信には独自コーデックを使っていて、Amazonのクラウドのマイクロインスタンスに1000人がぶら下がってもいいような、そういう特殊な技を使っています。

要はフレームを間引けるかどうかが大切だったんです。それはサーバ側で調整する。ツイキャスでは全ての端末で送られてくるフレームが違うということができたりする。ふつう映像配信というのは全部の端末に同じデータを送ります。うちは全部違うということもできます。音声も独自のものです。中のコーデックの仕様は一般的に公開されているものを使っているんですけど、いわゆるコンテナ部は独自実装です。

ツイキャスはPHPで作っているのですけど、C言語でモジュールを書いたりもしています。ボトルネックがあるところはモジュールを使って高速化するために。

配信中に地下室に降りていくような人がいるんですね。移動すると電波が悪くなったりする。3G接続で電波状況が悪くなっているのに、データを送信し続けると、基地局側でバッファが溢れるので、通信自体が切れちゃうんですね。そういうのを検知して、たぶんいま送っちゃいけないときなんだということをサーバ側で判定して、バッファを溢れさせないようにしています。音声のビットレートも動的に落として対応しています。

従来のストリーミングサービスでは、配信が切れているのに配信者が気づかないというのが良くあったんです。実はもう配信が途切れているのに、配信をやってるつもりでしゃべり続けてしまうというようなことです。それがかわいそうだったので、3キャリアすべてで検証して、どのぐらいまでバッファリングに耐えられるかというのを見つけてチューニングしてあるんです。

電波のいい人はスムーズに見えて、電波状態が悪くてもカクカクだけど遅延がないということを実現しています。モバイルでリアルタイム性と切れないというのを徹底しています。これは、限られた2Gbpsを全員に分けるためにがんばった経験と実装が、むしろ役立っています。転んでもただでは起きないというかね。

ツイキャスでは、誰が何のために配信してるのか?

ツイキャスは、メディアぽいものよりコミュニケーションのプラットフォームを目指したいですね。有名人ももちろん使っているのですけど、皆さんが使うツールっていうのがベースにある。例えばTwitterも友だちが使ってるから面白いっていうのがあるじゃないですか。Twitterを使うかニュースアプリを使うか。結局、今日は何があったかとか、取ってる情報は同じだったりしても、Twitterのほうが楽しいって思えるようなね。そういう世界がいいかなと思っています。

一部の有名人が配信して、ほとんどの人は見るだけという、そういうメディアのようなものは、そこはテレビ局も含めて、やりたい会社がいっぱいあるみたいなので、ツイキャスは、たくさんの人に使われてナンボというふうにしたいんです。見るだけじゃなくて、配信を含めたコミュニケーションに参加していくという意味で。

単にコンテンツを見るだけだと、そんなに面白くありません。配信インフラと考えると、単なるツールなので、ほかにいくらでも選択肢があるじゃないですか。それだと面白くないですよね。いかに繋がりができてくるかだと思うんですよ。日々、人間っていろんなできごとがあるじゃないですか、楽しいこととか、悲しいこと。それをブログに書こうか、Twitterに流そうか、Facebookに投稿しようか、メールで送ろうか、LINEで相談しようかって、いろんな選択肢があるなかで、皆さん何かを基準にどれかを選んでるんですよね。それを選ぶことが、いちばんリスクとベネフィットのバランスが取れてるからだと思うんですよ。反応がそこそこあって、マイナスな反応があまりないとかですね。例えば社長がクソだみたいなことはFacebookに投稿できないじゃないですか。Twitterだと仮面をかぶったりもできる。いろいろツールがある中で、ツイキャスが心地よい場所として機能するといいなと思っています。

見るだけじゃツマラナイ、気軽な参加を促す「コラボ」

ツイキャスでは配信者の比率が高いんです。感覚値になるんですが、ユーザー1000万人のうち10〜20%ぐらいが配信の経験がある。1回は試している。ツイキャスでは配信アプリは別アプリなのですが、ダウンロード数でいえば、ビューワーが10に対して配信アプリが6くらい。みんなトライはしているという感じです。

配信するというのはハードルが高いので、配信と受信の比率が1対1にはなりません。でも、コミュニケーションに参加していく、コメントはみんながやっていく世界がいいと思っています。例えば、1年ほど前から始めた「コラボ配信」というのがあります。配信者に加わって対話できる機能です。メインで配信するんじゃなくて、横から加わる感じです。これをツイキャスでは「コラボに上がる」っていうんですけど、これで配信者が増えています。自分でも配信するけど、ほかの人のところに行ってコメントするのめんどくさいから「コラボに上がる」みたいなことが良く起こっています。

最初はコメントするのもハードルが高かったんですね。それでアイテムを用意しました。お茶を投げたり、拍手をしたりできる。コメントとして文字を打たなくても配信している人に対して見てる人がアクションができる。そのアクションでコミュニケーションが増えました。ほかにもアンケート機能というのがあります。これはログインしてなくても回答ができるので、リスナーが反応を示しやすいんですね。そういうことを頑張ってやっていたりします。

ほかの人が見ても何が面白いんだろうというもので、その人たちにとっては心地よい、そんな場を作っていきたいなと思っています。

コンテンツを作るのってめんどくさいですよね。編集したり、ビデオを作るって考えると面倒です。でも、今のユーザーって編集とかじゃなくてナチュラルな形でコンテンツを上げていて、それを楽しんでいますよね。むしろ今の若い人たちは、ストーリー力がすごいですけどね。何でもないものでも、無理やりテキストで書いて動画にしてしまったりとか、そういうのはうまい。

「価値があるもの」で課金したい

登録者数1000万人を超えたいま、ツイキャスユーザーは若者が中心なんですけど、一部政治家や企業ユーザーも増えています。遊び道具とかエンタメ的なところから、マーケティングとか企業を含めた「繋がりのプラットフォーム」となっていくのにチャレンジしているところです。

先日も「キャスマーケット」という、ECの要素を入れて幅を広げています。ああ、確かにユーザー規模は違いますが、動きとしてはLINEと似てるかもしれませんね。ただ、B向けもまだ収益モデルを作っていなくて、無料サービスです。もっとユーザーが増えてきたときに考えていきたいです。

ただ、ECは流通総額としては大きくなるかもしれませんが、うーん、まだ見えてないですね。マネタイズに関しては、価値を感じてもらえるところで収益を上げるべきと考えています。コミュニケーションに対して対価を頂くというのがきれいな形ですよね。ツイキャスでモノを売ろうと思えば売れる、だけど、やっぱり人との繋がりがたくさんできるというところに価値を感じてほしいんですよね。そこで最終的な収益モデルができるといいなと思っています。

トラフィック課金はむずかしいですよね。いま世の中のネットのサービスで、繋いだらいくらみたいなものってないですよね。まだそこまで価値がないと思うんですけど、基本的には、そういう価値が出るとすごいなと思います。トラフィックにお金を払うっていうのは価値があるってことなので、そこまでできればすごい。

でも例えば、LINEのスタンプも、コミュニケーションの一部ですよね。それに対してみんなお金を払うという面がありますよね。

ツイキャスとしての目標は、役立つものを、より多くの人に使ってもらいたいということですね。組織としては少数精鋭でやりたいというのもあります。そのほうが効率的だし、あまりビジネスビジネスせずに、いろんなものを提供できるかなと。

会社で営業を増やし過ぎないとか、営業からエンジニアを切り離すというのも大事だと思っています。営業が強いと、営業が見ているものがお客さんになってしまうんですよね。エンジニアは本当はユーザーのほうを向きたいのに、ずれてくる。営業が見ているものがユーザーかっていうと、そうじゃなかったりするんですよね。営業は成果が上がりやすい人としてユーザーを取ってきます。それに合わせてエンジニアリングするって不幸なことだと思うんですよね。

VCから投資を受けているスタートアップ企業ですが、エグジットについては2年経ったら考えると投資家には伝えていますね(笑) そうしたらユーザー数が3000万人ぐらいになるので、それまでは好きにやらせてください、と。

国家公務員になりたい人の気持ちは分かる

2015年のいま学生に戻って就職するとしたらですか? うーん……。今だとどうでしょう、国家公務員とかになってるかもしれませんね。えっ、意外ですか?(笑)

いや、起業する勇気はたぶんないと思うんですよ。何しろ学生は未経験だし、よく世の中が分からないですよね。そういうのを支援してくれる人が具体的に起業してみないかとでも言ってこない限りは、私はやらないと思いますね。

一方で、もはや大企業だから安定ってないと思うんですよ。みんなもようやく、金融ブームに乗って行った人とか、それが人生の選択肢として正しいかどうか分からないって気付いていると思う。安泰はありません。

大切なことは何だっていうと、自分のスキルとか役割を見つけることだと思うんですよね。それに自信がなかったら公務員になることがいいわけですよ。国家公務員になりたい人がいるのは、すごく良く分かります。こんな時代だからこそ、というね。自分に確たる自信がなければ、そうなりますよね。だって、変化する中で生きていく自信なんて誰にもないですよね。私も社会を変えようとか思う前は、大阪ガスの子会社に行ったぐらいなのでね、キャリアのスタートは国家公務員に近いところですから、安定志向だったのかなという気がします。

リスクを減らす計算ばかりして生きることに意味はあるのか

ただ、ネットの世界に出会うと、少人数でも社会を変えられると気付くんですよね。気付くまでは安定指向があるけど、気付いた先は違います。やりがいがありますからね。

でも、私は人生にこだわりがないんですよね。こだわりがないっていう言い方はちょっと変かもしれませんけど、みんな計算できる人生を歩みすぎじゃないかなと思うことがあります。

人なんていつ死ぬか分からないし、今から老後のこと考えても人生なんて誰にも分かんないじゃないですか。なのに計算できる人生を選ぼうとする。計算できるという前提で選択をする。何故かと言うと、いつ死ぬか分からないからですよね。みんな長生きに賭けているんですよね。

リスクを減らすために、計算できる会社、計算できる人生を選ぶ。なんか、それって生きてる意味あるのって思うことがあるんですよね。

社会に対して自分が生きた証を残すとか、何かを変革する、少しでも良くしていく形で変えていくというようなことは、みんながやりたいと思ってることのはず。でも、できていない。そういう場に立ち会えるのは幸せなことですよね。そういうことをしたいなと思っています。

人生って80年とか、せいぜい100年しかありません。でも誰かの役に立って、何かの作業をする時間を1時間だけ短くできたとしますよね。それを1億人が使うと合計1億時間の短縮です。つまり1万年ぶんくらいの価値が出せる。レバレッジを計算すると、人生は80年じゃなくて、1万年とか1億年くらいになる。人の生活を変えるってスゴいことですよ。エンジニアは、そういうことができるのです。

でも、失敗したらどうするのっていうんですけど、そこまで人生にこだわりがありますかという冷めた部分が私にはあります。何をやっても生きていけるし、別に生きてなくてもいいし。まあ、これを言うと子どもとかに怒られるんですけど、私は仙人的なところがあって(笑)。でもほんと、せっかくなら人生いいチャレンジするほうがいいじゃないですか。社会を変える、名を残す、文化や歴史を作るって大事なことだと思うんですよ。そうやって役立ってる感がないと、生きる楽しみってホントの意味ではありませんよね。

(2015年5月27日「HRナビ」より転載)

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