習近平政権がとったのは利下げによる株式市場のてこ入れである。利下げの理由は表向き、国内景気の刺激だが、富裕層は国内産品を買わずに、日本など海外に出向いて「爆買い」に興じる具合だし、バブル崩壊不安に包まれた不動産に投資する気配はない。唯一、国内の余剰資金が向かうのは株式市場しかない。
党中央は利下げが株価引き上げの狙いであるとのメッセージを投資家に送っている。公務員や国有企業の党員たちは、株価が上がると読み、株式相場は昨秋の利下げを機に高騰し始めた。株価上昇が息切れし始めると、中国人民銀行が党中央の指示を受けて利下げする。すると株価は再び上昇基調に転じるという具合である。ところが、上海株価と実体景気は「逆相関」、つまり離反する。
グラフは景気指標の中でも李克強首相が最も信頼している鉄道貨物輸送量を株価と対比させながら推移を追っている。まさに不況の中の株式ブームである。おまけに、利下げで下落するはずの人民元の対ドル相場も市場介入によって押し上げている。
こうして国内外の投機資金を株式市場に引きつけるのだが、円安を受けた日本や景気回復基調が定着した米国の株高とはわけが違う。株価上昇とともに市場には暴落エネルギーが充満するのだが、習政権は株高に賭けるしかないのだろう。 (産経新聞特別記者・田村秀男)