東邦ガス環境写真展
2015年6月17日〜23日
ラシック
暮らし<コウちゃんのクラス 特別支援教育を考える> (上)笑顔の力
愛知県刈谷市の富士松東小学校。六年七組の教室で車座になった子どもたちの前で、「コウちゃん」こと松本康汰君(11)は、車いすにもたれ、首を垂れていた。 脳性まひで、全身が不自由。生活全般に介助が必要で、知的障害も重く、コミュニケーションも難しい。 「では、魔法の音楽をかけますよ」と、担任の深谷ひろみ教諭(57)がCDをセットした。 ♪あるこう あるこう わたしは元気…。アニメ映画の挿入歌の「さんぽ」のメロディーが流れだすと、コウちゃんは、むくむくと顔を上げ、口元から笑みが広がっていく。 「すごい」と、子どもたちからどよめきが起きた。 「前は、動けなくてかわいそうだと思っていたけど、楽しい子だと分かって、体が不自由なのにすごいなって思うようになりました」。今月あった交流学習で、同じ学年の古小高詩音(こおだかしおん)さん(11)は目を輝かせた。 コウちゃんのクラスは、肢体不自由の特別支援学級の七組。在籍児童はコウちゃん一人で、二〇一〇年の入学に合わせて新設された。以来、深谷教諭が中心となり、コウちゃんの力を伸ばす指導に取り組んできた。通常学級との交流学習、他の特別支援学級との合同学習も、その一環だ。 昨年度は、一年下の四年二組との交流学習を計六回実施した。障害と障害者の日常生活を知り、「どうしたら一緒に遊べるか」を考える授業だ。 名前を呼んでも返事がない。途中で寝てしまう。幼児用の楽器を持たせても音が出ない。でも、体に触れながら「コウちゃん、歌を聴きたい?」などとゆっくり話し掛けるうちに、視線が合ったり、大きな声で笑ったりするようになった。 子どもたちは、コウちゃんが無理なく参加できるようにと、低い台を手でたたいて紙コップを落とす「トントン相撲」というゲームを考えた。声援が高まるとコウちゃんもはしゃぎ出す。そんな笑顔がみたくて、休み時間に遊びに来る子も増えた。 「コウちゃんの表情が豊かになったし、子どもたちの心にやさしさ、自主性が育まれていく。共に成長する効果を実感しました」と深谷教諭。 五回目の交流学習では、コウちゃんが「アー、アー、アー」と声の高さを変えながら、長く叫んだ。「あいさつしてるんだ」と子どもたちは大喜びした。 ◇ 重い身体障害と知的障害がありながら、特別支援学校ではなく普通の学校の特別支援学級に通う子が少しずつ増えている。障害者権利条約(二〇〇六年の国連総会で採択)で「学習への平等な参加」が掲げられたことが追い風になっている。「ひとり学級」のコウちゃんと、支える人たちの姿を通して、障害児教育の在り方を考える。 (編集委員・安藤明夫) <特別支援学級> 障害のある児童生徒に対し、きめ細かな教育を行うために小中学校に設置された少人数の学級。知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害、自閉症・情緒障害の7種類がある。1クラス8人を上限に、各市町村の教育委員会が設置できる。担任教師のほか、特別支援教育支援員を配置する学校も多い。 PR情報
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