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2015-05-28

「響け!ユーフォニアム」8話の攻めっ気

あるクリエイターが頭角を現す瞬間というものが存在するとすれば、『響け!ユーフォニアム』第8話「おまつりトライアングル」はまさにそれを目撃した気分になった。

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絵コンテ/演出は藤田春香。アニメーターとしてのクレジットは見かけていたが、『中二病でも恋がしたい!戀』(2014年)で演出デビューした経歴からすると若手の方だろうか。ふと思い出したのは京都アニメーション出身の『アイドルマスター シンデレラガールズ』高雄統子監督が京アニ時代に担当したある話数だ。それは作画監督堀口悠紀子を迎えた『CLANNAD』番外編「もうひとつの世界 智代編」(2008年)。堀口さんの繊細なアプローチに感じ入り、演出の契機になった話数だと後に語られている。事実、今観直すと剥き出しの高雄演出に唸る場面ばかり。「智代編」は高雄統子という演出家のキーエピソードといっていい。そうした例が頭に浮かび、「おまつりトライアングル」は藤田さんの「智代編」になるのではないか、とついつい思ってしまったわけだ。まあ、こんな邪な考えはともかく、創意と工夫に溢れたセンシティブな回だったことにかわりない。

特筆したいポイントは二つ。

ひとつは久美子を振り回す高坂麗奈の言動だ。あの真意の読み取れなさ(細かい表情に少し出ているけれど)には覚えがある。岩井俊二監督作品『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1995年)のヒロイン・なずな。彼女は山崎祐太演じる主人公・典道を駆け落ちに誘い、駅に行く。しかしバスが来ると一転、帰ろうと言い出す。典道からすると訳の分からないなずなの言動は「男の子より少しだけ先に大人になる少女」のそれだった。そして私服に着替えたときの艶やかさ。実はシチュエーションもそっくりなのだ。祭りの日に二人だけで違う場所に行き、ちょっと特別な私服を披露する。高坂麗奈は「あの瞬間の奥菜恵」だった。エスコート役の主人公が女の子であるのは、今の作品だなと思うけれども。

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もうひとつ。これはきわめて個人的な見方に拠るが、スカート(ワンピース)の翻りがすばらしい。

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たとえ大胆に翻っていようとも、画面に映っている麗奈の姿は久美子の見た目。「夏の夜の夢」なのだから、幻惑的なくらいでちょうどいい。ストーリー上の意味合いと作画/演出上のこだわりが重なった、翻りマニア垂涎のシーンだ。ダブラシっぽく透かしている撮影処理も見逃せない。また麗奈は5話でみせたかき上げる芝居は元より、随所で髪に触れる仕草が挿入されている。仕草や芝居から性格の一端を想像させた上で、今回の刺激的な台詞回し。“翻った”のは高坂麗奈というキャラクターそのものだったと見ても面白いかもしれない。ちょっとやり過ぎなくらい攻めている。

決定打は久美子に塚本秀一のことを訊いて、「そんなんじゃないんだ」と言った後の表情。

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思わず「思春期の微熱」という山田尚子監督(『たまこラブストーリー』のみどりを指して)の言葉が目の前を通り過ぎていった。そもそも以前は久美子のことを「黄前さん」と名字で呼んでいたのに、いきなり名前で呼び始める距離の詰め方からして攻め一辺倒だ。それは葉月や緑輝にも言える。久美子の周りはオフェンシブな選手が多い。ディフェンシブな久美子の壁を突破した麗奈はその中でも抜群の攻め筋を持っていたことになる。アウトローできっちり有利なカウントを作ってからインコースをズバッとえぐる。ボール球でも手が出るキレの良さ。やはり試合は攻めてなんぼなのだ。藤田春香さんには次もグイグイ内角を攻めていって欲しい。


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