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 巨大な噴煙が島を覆った。鹿児島県・口永良部(くちのえらぶ)島で29日午前、新岳が突然噴火し、137人の全住民に島外への避難指示が出た。噴石。雷鳴。島民らは不安に包まれた。

 熊本県南阿蘇村のヘリコプター教官、坂本数夫さん(65)は、観光で近くの空をヘリで飛んでいた。同乗していた人が「左、左」と叫ぶのを聞き、口永良部島の方を見た。「島の上に巨大なエリンギのような噴煙が立ち上っていた」

 口永良部島の本村(ほんむら)地区でガソリンスタンドを営む畠豊二さん(66)は噴火時、地区内にある屋久島町役場・口永良部島出張所にいた。「バーンと大きな爆発音がして、外に出たら黒い煙がもくもくと上がっていた。雲仙・普賢岳(長崎県)の噴火のようだった。真っ黒い煙がこちらに向かってくるようで、もう終わりかなと思った。噴石が飛んでいるのも見えた」

 ガソリンスタンドや自宅の戸締まりなどをした後、島の北西部にある番屋ケ峰頂上に向かった。頂上には、NTTが使っていたコンクリートの建物があり、町が避難所として指定している。

 本村地区で農作業をしていた畠清志さん(60)も、車で番屋ケ峰に向かった。島民が次々集まり、午前11時半ごろには約100人が身を寄せたという。住民らは落ち着いた雰囲気だが、テレビがないため、「避難指示」などの情報を島外からの電話で知らされているという。午前11時50分ごろには、海上保安庁のヘリから機動救難士2人が降りた。

 風向きが幸いし、畠さんが家にいる間は降灰はなかった。しかし、新岳に近い地区から避難してきた人は「家が真っ白になるほど灰が降った」と話していたという。

 本村地区の漁師、後藤利幸さん(69)は海上で漁をしていた。ドーンという音と噴煙。「テレビで見た御嶽(おんたけ)山(長野・岐阜)の噴火を思い出した」。昨夏に新岳が噴火して以降、近隣の住民とは、避難ルートや誰の車で移動するかといったことを話し合っていたという。「いつかは噴火するとは思っていたが、こんなに大規模になるとは……」

 島から東に十数キロ離れた屋久島。島西部の永田地区からは、沖合に口永良部島が望める。民宿を営む女性(47)は、車で外出先から戻った際、バックミラーに映った口永良部島の噴煙が、いつもの2、3倍に増えていることに気づいた。おかしいと思って火口を見ていたところ、突然「ドーン」という音がして黒煙が噴き上がり、雷鳴のような地響きが数回続いたという。

 同地区のガソリンスタンドに勤める女性(38)が外に出ると、屋久島に向かって大量の噴煙がどんどん流れてきた。噴煙の中に稲光も見えたという。

 噴煙は快晴の空が陰るほど広がり、一時は屋久島町役場周辺も霧に包まれたように視界が悪くなった。永田郵便局によると、車のボンネットの上などには降灰が確認されたという。