起業家も投資家をデュー・デリしよう!
by 高宮慎一(投資家)
デュー・デリジェンス(デュー・デリ)とは、投資家が投資を検討する際に行なう調査のことを言います。元々は法律用語で、Due=正当な、diligence=勤勉さを意味するくらいなので、投資前に投資対象の実態やリスクを把握するために詳細な調査を行ないます。VCは、面白いなぁと思ったスタートアップに、「デュー・デリさせてください」という表現をして、投資検討を開始したりします。
デュー・デリは、投資家がスタートアップや起業家に対して行なうものと思われがちです。一方、大がかりな合併などでは、お互いに、双方向で行ないます。これからがっちり一緒にやっていけるかどうかの調査なので、双方向でやって当然です。だからこそ僕は、スタートアップが投資家を迎え入れるときにも、双方向でやるべきじゃないかと思っています。資本政策は不可逆、一度投資家として迎え入れると、Exitを作り出すまで、長ければ5~7年のお付き合いになるわけなので。
何をデュー・デリするべきか?
それでは、起業家からVCに対してのデュー・デリでは何をするべきでしょうか?
投資を受ける際には、条件(調達額、時価総額、契約条件など)も重要です。でも、これはある意味デジタルな判断をしやすい内容です。
デュー・デリ=勤勉にちゃんと調査する、という意味では、次の2点がより重要になります。
・ VCがお金以外で事業の成長にどれくらい貢献をしてくれるのか?
・ VCと自分たちの相性はどうか?
自分たちにとって価値ある支援とは?
スタートアップにとって“価値のある”支援とはどのようなものでしょうか?
そもそも、スタートアップ側で、自分たちにとって“価値のある”支援とは何か、すなわち自分たちの事業が成長・成功するために必須で、でも自分たちが持っていないので補って欲しいことは何か、というのを明確にしておく必要があります。
そういう意味では、今一度この事業で成功するためには、どんなケイパビリティ(組織能力、Key Success Factor言ったりします)が必要かを棚卸しして、そのコアな部分は内部で備えておく必要があります。
スタートアップにとって最初からすべて備えるというのはムリなので、段階的に後々取りこんでいくものは何か、外部をうまく使って補っていくものは何か、を洗い出していくのです。この部分は当面投資家に補って欲しいという、あるべき姿からの逆引きが重要です。デュー・デリでは、その求めているものを、この投資家は提供してくれるのかを見極めることになります。
たとえば、アド領域のスタートアップがあったとして、経営陣は業界のベテランで経営経験も豊富、広告業界にも精通している、後はクライアントを開拓するだけだとします。この場合は、広告や経営について知見があるVCじゃなくて、顧客開拓を支援してくれるVCがいいかもしれません。
逆に、めちゃくちゃ良いプロダクトを作れる、けれど経営がわからないという場合は、経営の支援をしてくれるVCがいいかもしれません。戦略の立て方や、制度・仕組み、組織の作り方、お金の集め方などを支援してくれる人がアドバイザー的についてくれる方が、スタートアップの成長のためには有効かもしれません。
このように、自分たちに足りない差分を補ってくれるベストなパートナーというのは、個社ごとに変わってきます。自分たちに足りないものを補ってくれるかをきちんと見極めて、投資を受けるかどうかを判断するのがよいでしょう。
なんやかんや相性は大事
冒頭でも言いましたが、一旦投資を受けるとVCとは長い付き合いになります。実務的に価値のある支援をしてくれるかも大事ですが、本当に5年なり、7年なり一緒にやっていけるのかを確認するのも重要です。
これは、VCという会社単位でうまく付き合っていけそうかというのもあるのですが、より大きいのは担当であるベンチャー・キャピタリスト個人との相性です。
担当キャピタリスト個人が信頼できるか、もっと言ってしまうとウマが合うかという、すごく属人的なレベルで、相性が良いかを見極めるのが大事になってきます。
投資家のデュー・デリってどうやるの?
では、VCが何を支援してくれるのか、相性は合うのかは、どうデュー・デリすれば良いのでしょうか? デュー・デリというと小難しく感じてしまうかもしれませんが、そんなに難しいことはありません。
まず、当たり前のようにやるべきことは、担当のベンチャー・キャピタリストと、がっつり時間を使い、事業についてディスカッションすることです。
- そのキャピタリストは、どの程度自社の事業を理解してくれているのか、鋭い質問をするのか、それとも単純なFactの確認の質問ばかりなのか?
- ディスカッションの中で、なるほど!と思えるアドバイス、示唆を出してくれるのか?
- 自分たちが足りないと自覚し、求めている領域について、知見がありそうなのか?
人任せにせず起業家自身で、十分に時間を使って見極めましょう。
また、テーブルをはさんで向かい合って仕事の話ばかりしても、人となりは見えてきません。仕事外で、スポーツでも遊びでも何か一緒にして、“お化粧をしていない”その人と接してみるべきです。
デュー・デリ期間中だと、時間的な制約もあり、さらに利害が絡んでしまうなど、なかなか難しい部分もあります。少なくとも一回は飲みに行き、腹を割って話をしておくべきです(本当はデュー・デリに入る前に“助走期間”があるのがベストなのですが、この辺りは次回以降で)。
また、担当キャピタリストだけではなく、そのVCのパートナー陣(経営陣)とも対面で会い、個人個人がどんなメンバーなのか、会社としての雰囲気を肌で感じておくのも大事でしょう。その際、公式的な意思決定のプロセスを把握しておくのと同時に、実際の“声の大きさ”、誰の発言力が大きいのか、担当キャピタリストはその組織の中でどの程度の力があるのかも、感触をつかんでおくとよいでしょう。
そして、意外と見落としがちなのが、レファレンス(外部ヒアリング)を取ることです。取締役候補など自社のキーマンの採用をする際には、前職や周りの人からの評価・評判をヒアリングしますよね? 投資家も同様です。おすすめなのが、そのVC、特に担当者ごとにスタイルが大きく異なるので、担当キャピタリストの投資先にレファレンスを取ることです。
誰に聞けばいいのか、というのは、もちろんそのキャピタリストから出資を受けている起業家、すなわちスタートアップの社長です。起業家同士には不思議なシンパシーのようなものがあるので、VCの肩を持つよりも「本当にいいですよ」とか「ぶっちゃけダメだよね」と正直に話してくれることが多いと思うので、生の情報が得やすいのではないでしょうか。
そして大事なのは、うまくいった投資先だけでなく、うまくいかなかった投資先にも話を聞くことです。そのキャピタリストの良い点に加え、悪い点、と言うとなかなかストレートにかえってこない場合もあります。うまくやっていくために注意すべき点などという聞き方で、両方の意見をバランスよく聞いてみるとよいと思います。
そのとき注意すべきは、レファレンスは、聞いた相手の意見だということです。主観や、聞いた相手とキャピタリストの相性もあるということです。聞いた相手のコメントは、あくまでその人の意見として捉え、客観的な視点で、そのVCは自分たちが必要としているような支援をしてくれそうか、自分との相性は良さそうか、良い点も悪い点もひっくるめてそのVCと一緒にやりたいかを、自分で判断しましょう。
繰り返しになりますが、デュー・デリは一方通行なものではありません。起業家と投資家がお互いに一緒にやりたい!となって初めて、投資は成立します。
デュー・デリは一緒にやりたいかを見極めるプロセスであると同時に、一緒にやっていくための信頼関係を築いていくステップでもあります。お互いにこの人となら一緒にやりたい、成功できる、万が一成功できなくても「ナイス・トライ!」と言ってお互いに健闘を称えられる、そんなベスト・パートナーをぜひ見つけて頂きたいと思います。
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