上手に悩むとラクになる

大人のADHDと間違われやすい精神症状。今回から不安障害についてご紹介します。

そもそも不安障害とは、なんでしょうか。

うつ病に比べると聞き慣れない病名かもしれません。不安障害は、ざっくりいうと「本当はそんなに問題がある状況じゃないのに、恐れ心配しすぎている状態」です。

たとえば

  • 明日、会社で皆の前でスピーチがあることがプレッシャーで眠れない (スピーチ不安
  • 快速電車に乗ると、息苦しくて倒れてしまいそうな気持ちになる (パニック障害
  • 電車の吊り革が握れない (強迫性障害
  • 人と接するのが苦手で引きこもりがちだ (社交不安障害
  • 昔、目の前で悲惨な事故を目撃してからというもの、その踏切を通るのが怖くなった (PTSD

などが不安障害に含まれます。日本での有病率は4.8%です。

「取り越し苦労」「心配性」「杞憂」などという言葉があるように、不安は昔から私たちの身の回りにあることです。しかし、大人のADHDの方はその不安を必要以上に驚異に感じ、不安障害のパターンに陥ることが少なくありません。

それは、なぜでしょうか。

大人のADHDの方が、子どもの頃から失敗や挫折を数多く経験しやすいことは、これまでもこのコラムでお伝えしてきました。その理由としては

  • 「長期的な目でみて、時間的に遠くにある報酬を待つことができない」という特徴のため、学業や資格取得を途中で放り出してしまうことが多い
  • 衝動性が強いことや約束などを忘れっぽいことから対人関係を保つことが苦手で、友達・恋人付き合いが破綻したり、結婚生活が破綻したりして、「自分は人と長続きしない」と思い込んでいる
  • 時間管理がうまくいかず、常にやりたくないことに圧倒されながら追い込まれるような感覚で過ごしている

などが考えられます。

こうした挫折経験から、大人のADHDの人は「自分はだめだ」と思い込むようになりがちです。(その結果、うつ病にもなりやすくなります)

そしてさらに「だめな自分だから、いつも気を張ってがんばっていなければ、恐ろしいことになる」といった強迫的で完璧主義な「補償的」認知や行動が生まれることもしばしばです。

これまでの挫折経験のせいで、未来の予測を

「どうせできない」「とんでもない結果になる」 → 「こわい!」


と感じてしまうのです。

通常の大多数の人が「これくらいなら、がんばればできるかも」と思えるくらいの物事に対して、ADHDの人は「やばい! 私には手に負えない。恐ろしい!」と受け止め、脅威に感じてしまう――これが不安障害のパターンです。

たとえば、「私は、普段通りの姿勢で仕事をしていてはまた大きなミスをしてしまうので、緊張して取り組まなければならない。他の職員みたいに私語などしていては、人並みに仕事ができないのだ。全力投球でいかなければクビになってしまう!」と、仕事に対して必要以上にプレッシャーを感じすぎているのかもしれません。

また、「家でリラックスしていると部屋は散らかる一方だから、物の置き場所は絶対に固定! 掃除スケジュールは絶対守らないと!」と、強迫的になっている人もいるかもしれません。

中には、「外出する際に、家のガスの元栓を閉めたかどうか、鍵をちゃんとかけたかどうかが気になりだして、何回も確認しないと気が済まない」というように確認行為が多くなる方もいらっしゃいます。

こうした「完璧にしないと大変なことになる!」といった認知(=ものの捉え方、考え方)や行動は、不安障害を招くものです。

これらが行き過ぎると、仕事のプレッシャーが大きすぎて、会社に行こうとするとおなかが痛くなったり、胸が苦しくなったりといった身体症状を伴う不安障害になったり、部屋を掃除しても掃除してもきれいになった気がしないので、自分でも疲れてしまうんだけど掃除がやめられないという強迫性障害になったりします。

これらの例は、何かやらなければならないことに対して「やばい! できないかも!」とネガティブな予測をしながらも、逃げずに取り組む人たちの認知や行動です。

しかし中には「もう手に負えない! 逃げてしまおう!」という「回避」行動に出る方もいます。

具体的にいえば、誰かにかわりにしてもらったり、ドタキャンしたり、逃げ出したり、締め切りを破って先延ばししたり……などがそうです。結果、会社や学校に行きづらくなったり、人間関係を避けるように自宅にこもるようになったりします。これらも不安が高じた例なのです。

ADHDと不安障害の両方の症状があるという方の場合、もともと先にADHDがあって、二次障害として不安障害になったというケースがかなり大きな割合を占めます。上述した具体例も、そういった場合を想定したものになります。

しかし、ADHDなのか不安障害なのかを見分けておくことは必要です。もしかしたら、ADHDではなくて不安障害なのに、治療法を間違えてしまう可能性もあるからです。

不安障害のみに罹患している方でも、「また失敗するんじゃないか」という不安に駆り立てられると、集中して目の前の課題に取り組むことができなくなります。そのため、「集中が困難」というADHDの症状と似ていて、間違われてしまうのです。

確かに、不安障害の方は仕事のミスが増えたり、最後までやり遂げる気力がなくなったりといった問題を抱えているので、ADHDとの区別が非常に難しくなります。

見分け方のポイントは、

「集中できない、課題を最後までやり遂げることができない、といった症状が、特定の場面のみで見られるのかどうか」


です。

特定の場面や状況で不安が高まって集中できなくなり、ミスが増えたり、最後までやり遂げることができなくなるのが不安障害です。

一方、ADHDの方では

  • 特定場面ではなく
  • 生活場面全般で
  • 不安や脅威とそこまで関係なく

不注意がみられます。

たとえば、何か課題に取り組んでいる最中に集中できなくなる原因が「より面白そうなテレビに気を取られてしまった」「新しいことに飛びついてしまった」など、必ずしも不注意が不安と結びつく場合ばかりではないということです。

具体的にいえば、「仕事に大変なプレッシャーを感じている人が、仕事に集中できずにミスを連発するけれど、プライベートでは必要に応じて集中できるし、そそっかしいわけでもなく、うまくやれている」という場合は、不安障害のみをまず疑っていくのがよいでしょう。

いかがでしたか? このシリーズは次回も続きます。


◇                ◇


先月、星和書店より著書が発売されました。くよくよ悩むばかりで解決策が見つからないとき、落ち込んだまま明日が見えないときに、悩み方のヒントをくれる本です。おかげさまで好評いただいております。

34の認知行動療法テクニックを用いて悩みを解決するストーリーを集めました。読み進めるだけで、自然にテクニックが身につくという本です。

本の紹介はこちらです。ぜひお読みください!

くよくよ悩んでいるあなたにおくる幸せのストーリー
重~い気分を軽くする認知行動療法の34のテクニック

中島美鈴(著),星和書店,2015 

写真

中島美鈴 (なかしま・みすず)

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などの勤務を経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。
主な著書に「私らしさよ、こんにちは 5日間の新しい集団認知行動療法ワークブック」、「集団認知行動療法実践マニュアル」、「自信がもてないあなたのための8つの認知行動療法レッスン」、「くよくよ悩んでいるあなたにおくる幸せのストーリー」(共に星和書店)、共訳書に「もういちど自分らしさに出会うための10日間」、「不安もパニックもさようなら」、「人間関係の悩み さようなら 素晴らしい対人関係を築くために」(共に星和書店)など全14冊がある。趣味はカフェ巡りと創作活動。

Facebookでコメントする

ご感想・ご意見などをお待ちしています。
ご病気やご症状、医療機関などに関する個別具体的なご相談にはお答えしかねます。あらかじめご了承ください。

ページトップへ戻る

サイトポリシーリンク個人情報著作権利用規約特定商取引会社案内サイトマップお問い合わせヘルプ