上手に悩むとラクになる
2015年5月29日
大人のADHDと間違われやすい精神症状。今回から不安障害についてご紹介します。
そもそも不安障害とは、なんでしょうか。
うつ病に比べると聞き慣れない病名かもしれません。不安障害は、ざっくりいうと「本当はそんなに問題がある状況じゃないのに、恐れ心配しすぎている状態」です。
たとえば
などが不安障害に含まれます。日本での有病率は4.8%です。
「取り越し苦労」「心配性」「杞憂」などという言葉があるように、不安は昔から私たちの身の回りにあることです。しかし、大人のADHDの方はその不安を必要以上に驚異に感じ、不安障害のパターンに陥ることが少なくありません。
それは、なぜでしょうか。
大人のADHDの方が、子どもの頃から失敗や挫折を数多く経験しやすいことは、これまでもこのコラムでお伝えしてきました。その理由としては
などが考えられます。
こうした挫折経験から、大人のADHDの人は「自分はだめだ」と思い込むようになりがちです。(その結果、うつ病にもなりやすくなります)
そしてさらに「だめな自分だから、いつも気を張ってがんばっていなければ、恐ろしいことになる」といった強迫的で完璧主義な「補償的」認知や行動が生まれることもしばしばです。
これまでの挫折経験のせいで、未来の予測を
「どうせできない」「とんでもない結果になる」 → 「こわい!」
と感じてしまうのです。
通常の大多数の人が「これくらいなら、がんばればできるかも」と思えるくらいの物事に対して、ADHDの人は「やばい! 私には手に負えない。恐ろしい!」と受け止め、脅威に感じてしまう――これが不安障害のパターンです。
たとえば、「私は、普段通りの姿勢で仕事をしていてはまた大きなミスをしてしまうので、緊張して取り組まなければならない。他の職員みたいに私語などしていては、人並みに仕事ができないのだ。全力投球でいかなければクビになってしまう!」と、仕事に対して必要以上にプレッシャーを感じすぎているのかもしれません。
また、「家でリラックスしていると部屋は散らかる一方だから、物の置き場所は絶対に固定! 掃除スケジュールは絶対守らないと!」と、強迫的になっている人もいるかもしれません。
中には、「外出する際に、家のガスの元栓を閉めたかどうか、鍵をちゃんとかけたかどうかが気になりだして、何回も確認しないと気が済まない」というように確認行為が多くなる方もいらっしゃいます。
こうした「完璧にしないと大変なことになる!」といった認知(=ものの捉え方、考え方)や行動は、不安障害を招くものです。
これらが行き過ぎると、仕事のプレッシャーが大きすぎて、会社に行こうとするとおなかが痛くなったり、胸が苦しくなったりといった身体症状を伴う不安障害になったり、部屋を掃除しても掃除してもきれいになった気がしないので、自分でも疲れてしまうんだけど掃除がやめられないという強迫性障害になったりします。
これらの例は、何かやらなければならないことに対して「やばい! できないかも!」とネガティブな予測をしながらも、逃げずに取り組む人たちの認知や行動です。
しかし中には「もう手に負えない! 逃げてしまおう!」という「回避」行動に出る方もいます。
具体的にいえば、誰かにかわりにしてもらったり、ドタキャンしたり、逃げ出したり、締め切りを破って先延ばししたり……などがそうです。結果、会社や学校に行きづらくなったり、人間関係を避けるように自宅にこもるようになったりします。これらも不安が高じた例なのです。
ADHDと不安障害の両方の症状があるという方の場合、もともと先にADHDがあって、二次障害として不安障害になったというケースがかなり大きな割合を占めます。上述した具体例も、そういった場合を想定したものになります。
しかし、ADHDなのか不安障害なのかを見分けておくことは必要です。もしかしたら、ADHDではなくて不安障害なのに、治療法を間違えてしまう可能性もあるからです。
不安障害のみに罹患している方でも、「また失敗するんじゃないか」という不安に駆り立てられると、集中して目の前の課題に取り組むことができなくなります。そのため、「集中が困難」というADHDの症状と似ていて、間違われてしまうのです。
確かに、不安障害の方は仕事のミスが増えたり、最後までやり遂げる気力がなくなったりといった問題を抱えているので、ADHDとの区別が非常に難しくなります。
見分け方のポイントは、
「集中できない、課題を最後までやり遂げることができない、といった症状が、特定の場面のみで見られるのかどうか」
です。
特定の場面や状況で不安が高まって集中できなくなり、ミスが増えたり、最後までやり遂げることができなくなるのが不安障害です。
一方、ADHDの方では
不注意がみられます。
たとえば、何か課題に取り組んでいる最中に集中できなくなる原因が「より面白そうなテレビに気を取られてしまった」「新しいことに飛びついてしまった」など、必ずしも不注意が不安と結びつく場合ばかりではないということです。
具体的にいえば、「仕事に大変なプレッシャーを感じている人が、仕事に集中できずにミスを連発するけれど、プライベートでは必要に応じて集中できるし、そそっかしいわけでもなく、うまくやれている」という場合は、不安障害のみをまず疑っていくのがよいでしょう。
いかがでしたか? このシリーズは次回も続きます。
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