「国営ヤミ金」とまで言われるようになってしまった学生支援機構奨学金


【今の奨学金は悪質教育ローン1】このシリーズ連載します。

「国営ヤミ金」とまで言われるようになってしまった学生支援機構奨学金

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 画像はイメージで、記事とは縁がありません。

大学時代、「そうしないと学業を継続できないから」という理由から、

日本学生支援機構(以下、機構)奨学金を利用したものの、

奨学金を返済できるほどの収入を得られる就職はできず、または就職したものの就労が継続できなくなるなどの理由で、

返済困難になる人が増えています。機構側も、回収のため法的手段も辞さない構えをとり、多数の訴訟を起こしています。

「どうしていいかわからず、怖かった。」札幌市の20代女性は2月、機構から訴えられた。
大学時代に借りた奨学金約240万円のうち、未返済の約170万円を求められた。
2007年の卒業後に就職し、返済を始めた。出産のために休職したが、
子どもを預ける場所が見つからずに復職を断念。さらに夫の勤める会社が倒産した。
11年9月、困窮を理由に返済猶予を機構に申請。認められたが、
その後、毎年必要な猶予の更新手続きをしなかったとして、翌年10月から延滞扱いにされていた。
「100万円か150万円を一括で払わないと、訴訟です」
「あなたの話は聞けません。今のままなら(訴訟に)負けますよ」女性は提訴される直前、機構側に、そう言われた。

出典:奨学金訴訟、100倍に 8年で急増 借り手困窮/機構、回収強化 (朝日新聞DIGITAL 2014年8月10日05時00分)

「そもそも信用力を期待できない人に貸している」という問題

貸金業では、信用力のない人に貸すことは禁止されています。信用力がなくて銀行の融資を受けられない人がサラ金に、サラ金からも断られる人がヤミ金に走ることになるわけです。

学生支援機構奨学金には、

「本来ならばサラ金かヤミ金しか選択肢がない人でも利用できる融資制度」

という側面があります。

大学生が対象の場合には

「(飛び入学や浪人をしていなければ)18歳の未成年、職業経験はなく、もちろん企業の勤続経験もなく、家族の収入も充分でなく……」という本人が借りるわけです。
 

大学院生の場合でも、事情はあまり変わりません。年齢的には「成人」とはなります。大学の極めてストレスフルな人間関係の中で、プレッシャに耐えて学業や研究に励み、一定の知識や経験は得ているかもしれません。「人間力」も鍛えられているかもしれません。でも、実社会の経験はバイト程度。バイトで経験・見聞できる範囲では、バイト先が貸金業者でもない限りは、金融リテラシーがあることは期待できません。

職業経験は、バイト・大学院のティーチング・アシスタントやリサーチ・アシスタント程度。これは、貸金業者に評価される勤務実績とはなりません。やはり、サラ金・ヤミ金しか選択肢のない、信用力の低い人であることに変わりはないのです。

信用力の低い人に貸す以上、貸し倒れリスクはつきものです。サラ金では、金利を高くすることで貸し倒れリスクに備えています。ヤミ金は存在がそもそも許されないのですが、金利を高くしたうえ、臓器や命まで差し出させての取り立てで貸し倒れリスクを防いでいます。

学生支援機構には、どのような貸し倒れリスク対策が可能でしょうか? 金利を上げることはできません。社会構造や経済状況によって必然的に増大した貸し倒れリスクに関して、現状は取り立て強化で対処しているわけです。

ですが、学生支援機構奨学金は、そもそも、その時点では信用力を期待できない人に貸す制度であったわけです。
過去には、就職後の信用力を期待できたのですが、現在はその期待可能性が激減しています。
そのことは、貸した時点での本人あるいは家族の信用力がもともと不足していたことと連動しています。

このことを考えると、「借りたものは返さなくては」以前の問題として、
取り立て強化による対処の有効性と根拠が「極めて疑わしい」と言わざるをえません。

ソース:  http://bylines.news.yahoo.co.jp/miwayoshiko/20140810-00038140/

 日本学生支援機構は、貸金業者ではない


今、学生支援機構に、つまり国に求められているのは、通常の金融業における「貸し倒れ引当金」を充分に用意することでしょう。
一定の条件で、コントロールできる範囲での貸し倒れ容認でしょう。
「貸し倒れ容認」というと穏やかでないので、返還免除枠の拡大をしてはどうでしょうか? 第二種にも返還免除制度を作るとか、第一種の返還免除枠を偏差値の低い大学にも拡大するとか。

(後記:現在は学部対象では返還免除制度がなくなっているということを失念してました。いずれにしても、大学院か学部か、また学校種別は何なのかを問わず、返還免除制度はもっと拡大されてよいのではないかと思います。現在の大学院対象のように「全額返還免除・半額返還免除・返還免除なし」の3択ではなく、
「90%返還免除~10%返還免除(5%刻み)」といった運用も考えられてよいのではないでしょうか?)

現実的な貸し倒れ可能性の予見と対策は、金融業者ならばどこもやっていることです。

同時に「高等教育にお金がかかりすぎる」という問題の解決も必要です。高等教育のコストが高すぎるから、学生支援機構奨学金へのニーズが高まり、同時に貸し倒れリスクが高まる悪循環となっているわけです。

断ち切らなければ悪循環のままです。でも、どこかから断ち切ることができれば、悪循環はいずれは消せるでしょう。

「金融リテラシーが充分とはいえない人に貸している」という問題

現在50歳の私は、福祉事務所のケースワーカーに生活保護の申請を勧められて申請書を手渡されるほどの困窮を経験したことがあります。

直後に大きな仕事をいくつか受注できたので、申請の機会はないままでしたけど。周囲には何人か、自己破産や任意整理の経験者がいます。

人間を半世紀もやっていれば、当然起こりうることの一つです。「生老病死」といいますが「生老病貧死」というべきでしょう。

貧困の罠は、世の中にありふれています。生涯、自己責任や注意で避け切れたとすれば、それはその人が幸運だったのだと思います。資産家の妻が、遺産争いの結果、60歳を過ぎてから生活保護利用者となった例もあります。

まあ、人間長くやっていれば、ある程度の金融リテラシーは否応なく身につきます。自分を助けてくれる社会保障制度に対する知識あるいは経験も、ある程度は身についていることが多いでしょう。

でも、同じことを18歳の大学1年生に要求できるでしょうか? 

私自身のことを振り返っても「無理!」と思います。

機構の皆さんは、政府で学生支援機構奨学金に関わる皆さんは、大学に入学した18歳のとき、あるいは大学を卒業した22歳くらいのとき、そんなに賢明でしたか? 海千山千の大人と渡り合えるだけの金融リテラシーはありましたか? 
なかったでしょう?
 そんなもの、その年齢で持てるわけがないんです。

だから、機構サイトでチェックできて書式もダウンロードできる救済策を知らず、何の手も打たずに、いきなり法的手段を取られる人が出てきてしまうんです。

相手の未熟や無知は問題です。でも、そこにつけこむのはやめてください。

曲りなりにも「奨学金」を名乗る以上は。

 さまざまな経験を経た社会人学生にとっては、

「金貸しそんなもの」です。立場は、貸す側が圧倒的に有利です。
条件も、貸す側の都合で結構どうにでもなります。貸す側の論理は「嫌なら借りなきゃいい」あるいは「借りたものは返せ」です。良くも悪くも、それで成立しているのが金融業です。

日本学生支援機構は、貸金業者ではない

しかしながら、大きな問題の一つは、機構に対して、通常の金融業者に対して課される制約が課されていないことです。学生支援機構奨学金に関する法規は、独立行政法人日本学生支援機構法です。貸金業法ではありません。
ですから、独自にヤミ金よりタチの悪い運用をすることもできますし、
独自に「名目は借金だけど、ま、趣旨が趣旨だから」という運用をすることもできます。

少なくとも通常の借金に準じて「借りたものは返せ」というなら、
貸す側も通常の貸金業者のルールに従わなきゃおかしいんじゃないの?

とは言えるはずです。

日本学生支援機構は、それでも相当の救済策は講じている。利用しよう!

「ただの借金」「ただの融資」として学生支援機構奨学金を見ると、

  • 本人に信用力がなくても借りられる
  • 第二種(金利つき)でも金利が格安
  • 非常に長期にわたっての返済が可能である上、返済額・返済期間の相談にも応じてくれる

という特徴があります。本物のサラ金やヤミ金より、この点では非常に有利です。

さらに、機構のサイトには、奨学金返還中の人を対象としたページがあります。見てみると、さまざまな救済制度が用意されています。返還猶予制度もあれば、返済額を減額する制度もあります。困窮しているにもかかわらず「どれも利用できない」というケースは、あまり考えられません。

保険を契約するにあたって、どういう条件で利用できたり利用できなかったりするかを確認しない人はいないと思います。自分の利用しているWebサービスなどから個人情報が漏洩していないかどうかも、気にし始めるとキリがないのではありますが、まったく気にしないという人はいないと思います。保険にしてもWebサービスにしても、遅くとも何か問題が発生したら、目を皿のようにして契約を読むか、契約書に慣れている人に読んで説明してもらったりするものではありませんか?

報道されたり伝え聞いたりするケースの数々の中には、

「この人は、奨学金を返せなくなっている(返せなくなりそうな)困窮状態にあり、ネット環境は確保できているのに、機構のサイトもチェックしていないのでは?」と思われる事例も少なからず見受けられます。

機構には、もっと救済措置を周知する努力をしてほしいと思います。

しかしながら、借り手側にもやはり

「その程度の情報は自分でチェックして対処してみる」

はしてほしいと思います。自己責任論というより、大学に進学して卒業したりしなかったりした成人が、そんなこともできないのでは困りますから。

必要となる相当量の書類を用意できる状態になかったら、
機構に電話一本かけて、その会話を録音するだけでも有効です。
「機構は困窮の可能性を知っていた」という証拠になりますから。

うつ状態などで書類の用意ができないのなら、かかりつけ医療機関のソーシャルワーカーに相談してみてください。あ、精神科や心療内科に行くんだったら、なるべく、ソーシャルワーカーのいる医療機関を最初から選びましょう。

頼れる友人がおらず、医療機関もどうも信用ならないというのだったら、お近くの「法テラス」で法律相談を受けてください。奨学金の返済ができない状況なら、おそらく利用料は免除されます。まだ法的問題になっていなくても、法テラスの弁護士からは有益なアドバイスを得られることでしょう。

最後に

私は、機構や学生支援機構奨学金を批判したくて、このエントリーを書いたわけではありません。

「学生支援機構」の名に値する学生支援も行っていることは、よく知っているつもりです。障害学生支援といえば、今のところ学生支援機構ですから。

「国営ヤミ金」とまで言われるようになってしまった学生支援機構奨学金が、数々の問題を抱えつつも、数多くの人々に「大学生である」という体験をする機会を提供してきた意義の大きさも理解しているつもりです。

だから、おかしなことはやめてほしいんです。

奨学金問題は、日本の高等教育や職業への接続といった大きな問題の一部です。

機構だけで解決できるわけではない問題です。

でも、機構で取ることが可能な解決への努力の道は、可能な限り探ってほしいと思うのです。

せめて、いきなり法的手段に訴える前に救済手段を周知するくらいのことは、してくださいませんか?

心からお願いします。

 

 

 

 



1963年福岡市生まれ。大学院修士課程修了後、企業内研究者を経て、2000年よりフリーランスに。当初は科学・技術を中心に活動。2005年に運動障害が発生したことから、社会保障に関心を向けはじめた(2007年に障害者手帳取得)。著書は書籍「生活保護リアル」(日本評論社、2013年)など。2014年4月より立命館大学先端総合学術研究科一貫制博士課程に編入し、生活保護制度の研究を行う。なお現在も、仕事の40%程度は科学・技術関連。