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【栃木】

困窮世帯学習支援 県内全市町で実現 貧困の連鎖 断つ一助に

 経済的に困窮している家庭の児童らに学習の場を提供する取り組みが、県全域で行われることが決まった。四月に施行された「生活困窮者自立支援法」に基づき、自治体が任意で行う事業だが、県内では本年度内にも全二十五市町で実現する。生活困窮者への家計相談や就労支援も多くの市町で行われることになり、関係者は「学習支援が全県で実現する意義は大きい。貧困の連鎖を断つ一助にしたい」と誓う。 (大野暢子)

 学習支援は、県内の全十四市では各市が主体となって実施するほか、十一町では県が行う。自治体から委託を受けた民間団体やボランティアが、週に一回程度、公共施設で小中学生らに勉強を教える。進学への意欲を高めて将来の自立につなげるほか、子どもの生活習慣の改善や、居場所づくりの役割も期待される。

 対象は、生活保護の受給世帯を含め、暮らしに困難を抱える世帯の児童。受講料は無料で、国と自治体が事業費を半額ずつ出し合う。教室の運営方針や指導の内容は厳格には決まっておらず、それぞれの自治体や事業者が、参加者の実情と地域性に合わせて運営する。

 新たにできた支援法は、生活保護の受給者以外にも、暮らしに困難を抱えている人々の自立や生活再建を促す狙い。法施行で、失業で家を失った人に一定期間、家賃を支給する事業や、困窮者を対象にした生活相談が、自治体に義務付けられた。

 任意事業として学習支援や家計のやりくりを助言する家計相談、就職活動の支援も含まれるが、義務ではないため、各自治体の判断に注目が集まっていた。

 厚生労働省が昨年、全国の自治体に実施した調査では、学習支援を予定する自治体は35%にとどまった。家計相談や就労支援になると二割台の低さとなり、地域の温度差が浮かび上がった。

 県内では、学習支援が全域で保障される上、家計相談が三市十一町、就労支援は一市十一町で行われるめどが立った。全県的な学習支援に取り組む自治体はまだ少ないとされ、厚労省の担当者は「困窮者は複合的な課題を抱えていることが多い。多角的な支援が保障されれば、利用する側は心強いのではないか」と前向きに評価した。

     ◇

 新制度に期待が集まる一方、多様な事情で行政の支援を受けられていない困窮者を支えてきた人々からは、慎重な声も聞かれる。

 県内で長年、貧困に苦しむ人を支援してきたNPO法人「とちぎボランティアネットワーク」(宇都宮市)の矢野正広事務局長は「生活保護受給者らの存在は行政から見えやすいが、そうでない困窮者をいかに見つけるかが課題だ」と予想する。

 貧困者支援には「相手と数年間、または一生向き合うような覚悟と時間が必要」とも述べ、「支援する側とされる側の信頼関係が妨げられることがないような運営が大切だ」と語った。

 

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