原画のカット数をたくさん上げる方法
なるべくカット数をたくさん上げたい、というのは、多くの原画が望むことだと思う。通常、テレビシリーズの原画を描いているアニメーターにとっては
単価×カット数=収入
でしかないからだ。
実家暮らしで衣食住が保証されており、のんびり趣味の範囲で月10カットしか描かない人と、おなじ話数を担当したこともあるが、このように特殊な例はすべて除いて話を進める。
また劇場用作品も、カットによる難易度の幅が極端にあり、「ヤマト発進!」カットなど担当した日には、月産1、2カットだと思われ、「カット数をたくさん上げる」という話になりようがないため、ごく一般的なテレビシリーズの原画で、カット数を上げるためのknow-howを述べようと思う。
「妄想代理人」についても、あれはまったく一般的ではない、非常に高水準の作画を要求したテレビシリーズだから、こういう時は忘れておかないといけない。
では、そもそも現在、何カット上げたら充分一人前の原画といえるのか。わたしは1ヶ月60カットにラインを引きたい。
他の条件についてはあとで検証していくが、とりあえず労働時間だけを考えて、1日に2ないし3カットを上げ、各週休2日、1ヶ月に24日働くと、月産60カットになる。
60カット×4,000円=24万円 となり、なんとか東京で暮らしていける月収だ。
だいぶ以前なら、原画は月産100カットを超えたら、そこそこの原画と見なされた。1本のカット数が今より多くて340。場合によっては400カット近いこともあったため、シリーズのローテーションに入っている各班は、4人で1本の原画を描くと、まあ普通。3人で描ければ速くて優秀な班という感じだった。
現状のようにメチャメチャなスケジュールではなかったし、原画の絵も比較的ラフだったから、多くのカット数を描くのは以前の方がずっと楽だった。いまの月産60カットは、昔の120カット程度に相当すると思う。
たくさんのカット数を上げるには、技術だけではなく、各種の条件が整わなければ無理だ。その条件とは以下の通り。
1)速く描きたいと本気で思っていること。
「速く描こうと思わなければ速く描けない」、というのは、著名なアニメーターにして監督である方が書いていた言葉だ。おっしゃるとおりであろう。
これは絶対的な基本条件で、ここを曖昧にしていたら、速く原画を上げることは永遠に無理。
2)1作品1話数内で、できるだけたくさんのカットを持つこと。
少なくともラフレイアウトやラフ原作業時においては、キャラ設定を見ないですむよう、キャラクターを覚えていないと速く描くことはできない。だから複数作品を同時に担当するより、ひとつの作品に力を集中させたほうが効率がよい。(現状はあとで述べる)
いちいち設定を見なければ描けないのでは、設定を探すだけで馬鹿にならない時間がかかる。設定、分厚いんですもの(^^;) つまり速く描くということは、突き詰めればいかに無駄を省き、効率を上げるかにつきるわけだ。身も蓋もないが。
「おまえの話はいつもそうだな」、とか言わないよーに。本人だってわかってはいる。
フリーの原画はとくに、効率よくカット数を稼ぐ方法を、自分の頭を使って本気で考えたほうがよい。
最初にそれをしない限り、いつまでも量は上げられない。
3)カット①から順番に原画を描いていくこと。
手持ちがC-120~180であれば、C-120から始め、121、122と順番にやっつけていくということ。量を上げたいなら、カット内容の好き嫌いをいっている場合じゃないのですよ。
量をたくさん上げている何人かに聞いてみたのだが、全員「C-1から順にやる」といっていた。仕事の速さに何か秘密があるとすれば、これは速い人の秘密のひとつだ。カット数をたくさん持っていると、カット内容で今日の仕事を選んでいる余裕などない。そんな暇があれば、つかんだカットを順に描いていった方が早く上がる。
もちろん、おなじ喫茶店のカットが飛び飛びにあるときは、喫茶店のカットだけまとめて描くほうが効率的だ。無理矢理カット順に描くという意味ではない。わかっているとは思うけど。
4)ミスをしないこと。リテイクを減らす。
打ち合わせで言われてことがちゃんと出来ているか、原画やシートにミスはないか、最後にしっかり確認して出す。
量をこなすには、1日にたくさんのカットを描く必要がある。だからリテイク作業で時間を取られている余裕などありませんのことよ。ミスを減らすためにも、速く上げるためにも、カット順に描いていくというのは非常に有効な手段なんだ。
重要だと思っている人は少ないようだけれど、速く、たくさん、上げたかったら、①から順に描くという習慣をつけるといいと思う。
カットを楽なところから描いていく人を見ていると、あとで前後のカットとよく繋げられるものだなぁと思う。かなり記憶力がよく、前後のカットつなぎを入念に計算した上で、抜き出したその1カットを描き、かつまたきちんとメモをとっておかないと無理でしょう。
そんな手間をかけるくらいなら①から順番に描いた方が速いと思わない?
本当のことを言ってしまえば、楽なカットから描く原画さんは、つなぎなど気にしない人がほとんどで、上記のような手間をかけるキッチリしたタイプは希にしかいない。
だから、作監するとふつーに前後のカットがつながっていないことがわかる。
5)1日のノルマはなんとしても上げること。
1日5カット上げないとアップに間に合わないとすれば、午前中に少なくとも1カットは上がっていないとむずかしいよね。そういう計算をしながらカットを上げていかないとたくさん描くのは無理。
計算とか効率とか、まるで仕事みたいな言葉が並ぶと思うかもしれないけれど、原画はアニメーション制作工程における一部門にすぎない仕事ですから(笑) ある程度、効率優先になるのは当然なのよん。
6)アップ日を守ること。絶対に!
効率を上げる方法を総動員し、その日のノルマはその日のうちに終わらせる。1日5カットのノルマなのに、今日3カットしかできなかったら、翌日のノルマは7カットになる。そういう考え方をしてちょうだいな。1日5カット上げるのが限界で、それなのに今日は3カットしか上げられなかった人に、翌日の7カットを上げられるわけがない。
つまりアップ日に間に合わない。
それでは多くのカットをこなすことは永遠に無理なことなのよね。
アップ日を守るために、自分で決めたノルマを守る。多少、きょうの睡眠時間を削ってでも守る。
7)毎日、コンスタントにカットを上げること。
これ、1番むずかしいことね。しかも地味そうで、おもしろくもないしカッコよさそうでもない。でも本当に一流のアニメーターたちは、コツコツと毎日コンスタントにカットを上げてくる。
メチャメチャ速くて上手いと思われているアニメーターたちは、じつはみんなそうなのよ。たんに必要時間きっちり机に向かい、手を動かしているだけ。結果として、それが高水準の原画を大量に上げることにつながっているわけ。
「原画の質を維持して、量もこなそうと思ったら、毎日コンスタントに描くしかない」と、上手い人は口をそろえて言いますね。
皆さんのまわりにもいると思うけれど「最後の1日で18カット上げたよ」などと自慢するアニメーターっていますよね。制作さんも、そういうのがカッコよく見えるようで「すごい人だ」なんて作監に報告したりする。
でもわたしはそんな原画と制作にたずねたい。「その原画の質はよいものですか?」とね。
「おなじ人が1日6カットずつ描いてくれたら、もっとよい原画が描けたはずですよね?」ともね。
東映アニメーションには、シリーズの原画1本分300カットと作監を、ひとりでこなすアニメーターがおいでになる。みんな知っているよね。しかも彼はそれを、もうっずっと続けているんだよね。このカット数は、絵描きの物理的限界量だとわたしは思う。
しかも今どきラフな原画など通用しないから、わたしから見て「色トレ多くてたいへんそう」と思う作品を、きちんとした絵でひとりで1本描いている。休日もあるし、レイアウト期間もあるので、原画期間に入ったら、毎日十数カットのノルマになる。
「きょうは気分が乗らない」とか「きょうはやる気が出ない」「いまちょっとスランプで」などと悠長なことを言っていられる量ではない。
ここまでくると、本当に上手い人でなければ描ききれないカット数だと思う。
それをこなす彼は、毎日、朝7時から作画室に入っていますよ。
「特殊な例は持ち出さないんじゃなかったか? 結局、いい話がひとつもないじゃねーか」とつぶやいたあなた。あなた、本当にカット数をもっと出来るようになりたいと思ってる? 思っているなら、わたしがみんなに内緒で、いいこと教えてあげましょー。
劇的にカット数を上げられるようになる方法が、じつはたったひとつだけあるざんす。
授業料は、虎屋の水ようかんでいいわ。
知りたい?
いい加減にしないと水ようかんの空き缶が飛んできそうだから言うけれど、それは
「いままでの自分の限界を劇的に超えたカット数を請け負うことだ!」
他に方法はない。
平たくいうと、限界を超えたところへ自分を追い込め! ということね。
わかりやすい例があるので引き合いにだす。
神村がフリーになったとき、まさにそういう状況に追い込まれた。
次の仕事も決まっていないのに、考えの足りなかった神村は社員アニメーターを辞めてフリーになってしまった。なってから気づいたが、社内のアニメーターというのは、社内作監が原画を見ているので、わたしは他社の誰にも存在を知られていなかった。
仮に知られていても仕事を頼まれたかどうかはアヤシイが、「あー、このままだと仕事ないなあ」ということはわかったので、どうしたものかと困っていた。
そのとき東京ムービーの制作部から電話が来た。神村というアニメーターの存在は、ムービーの制作さんしか知らないから当然と言えば、当然それしかないわけだ。
「作監に、女性原画を集めてくれって言われたんだ」 制作さんはそう言った。上手い女性原画は、名の知られた数人だけと思われていた当時、あえて女性原画を主力に作品を作ろうとした作監とは、どのような思考の持ち主なのであろうか。と、わたしは不思議に思ったことを覚えている。
要するにムービーで決まった次のテレビシリーズが、少女マンガだったというわけだ。そこで作監は、この作品は女性原画が描いたほうが感じがよいのではないかと考えたらしい。じつに斬新な発想だった。
わたしであれば、女性原画だの男性原画だのいうより、個人の技量を考えたほうがよいのではないかと思ったはずだが、おかげで仕事にありつけた(^_^)v
しかしその時、制作さんの出してきた条件が、「ひとりで月に半パート」だった。社員のときは4人で1本だったから、わたしは月産100カット前後の経験しかない。当時の半パートは170カットくらいあったから、まったく未知の領域だ。
けれど仕事はこれしかないし、フリーってそういうものなんだと、原画を半パートくらいひとりで描けないと、フリーとしてやっていくことは出来ないということなんだろうとわたしは思ったんだよね。制作さんに当然のように言われたものだから。
本当はそんなこともなかったんだけれど(笑)
ひとりで月に170カットの原画を上げるには、レイアウト(※レイアウト一原ではない)を1日あたり30カット前後、原画に入ったら1日あたり7~8カットずつ上げていかなければアップ日に間に合わない。そういう計算が出来上がったが、経験のない量なので、どのような時間配分をすればノルマが上がるのかわからない。
そのため、最初はとにかくすべての時間を原画につぎ込んでみようと思った。眠くて集中力の糸がプツン、と切れるまで原画を描いた。
もともと会社を辞めた理由のひとつが、「好きなだけ仕事をしたい」ということであったから、この望みはすぐにかなうことになった、というか、なってしまった。
そうしたら、出来たんですよ、月にひとりで半パートの原画が。
原画を育てるとき、毎月少しずつカット数を増やしていくのではなく、3ヶ月後、6ヶ月後などに、受け持ちカット数を1.5倍なり、2倍なりにいきなり増やすという方法がある。これは意識を切り替え、とにかく速く描けるようにするために有効だ。
数カットずつ量を増やしていくのは、話数のカット内容によっては先月より今月の方が楽だったということが起こり、あまり意味がない。
結論として、
「量を上げるには、どこかで一気にカット数を増やすしかない」のです。
そしてそれが最も効果的。よさそうな時期に、機会があれば、自分の目標とするカット数の原画を受けてしまうといい。
神村の場合、フリーになって最初の仕事が半パートの原画だったため、その後ずっと原画の半パート受けが基本になった。原画を半パート描き、残りの半パートを作監し、その合間に番宣や、キャラを描くのがわたしにとっては限界の仕事量だと思う。
しかし、作品が変わっても、カット数にはあまり変化がないのはおもしろいね。シンエイ動画で「ドラえもん」や「あたしンち」を担当していた時も、量はおなじだった。これらは30分2本構成だから、半パートは原画1本分ということになる。
「あたしンち」は作監込みで1本だった。この作品は、色鉛筆は軟質赤だけあればいいという、アニメーターにとってはたいへんありがたいものだったが、すごく速く描けるかというとそうでもなく、1ヶ月を3週間に縮めるのがやっとだった。
いまの原画は、ていねいに清書し、キャラもかなり合わせないといけないためだと思う。
くだんの、ひとりで作監+原画を1本のアニメーターみたいな量は、わたしには絶対にできない。人間業とは思えない。
以前、その彼に「どうしてそんなすごい量をしてみようと思ったの?」と、聞いてみたことがある。
「ん~~~、ひとりで1本やってみないかと言われたことがあって、やってみようかなと思い、なんとなく」
という答えだった。なんとなく出来る量ではないから、それ以前から高水準で大量のカット数を上げていたのだと思う。ひとりで1本の原画を描くには、少なくとも絵ではまったく困らない圧倒的な画力が必要だ。
下書きを描いたり消したりしていてはまにあわない。根本のところで、すごい才能を持っているアニメーターでなければ不可能なことだ。
だから多くのアニメーターの皆さんは、ひとりで月に300カットの原画を上げるアニメーターの存在は、見なかったことにしてよいと思う。
とはいえ、カット数はあるときから意識して急激に増やさないと、少ないままの仕事量で、手を動かす速さや集中力の持ち方などが固定されてしまう恐れがある。20歳代の後半までには、自分の最大量と最高速を達成しておいてほしい。
20歳代なら、速さを取ったために多少ミスをしても許してもらえるから。そして20歳代なら、体力任せで馬車馬のように働くことができるから。
30歳代前半までで、いま月産40カットの原画さんには、月産を60カットにする潜在能力は必ずあると思う。機会があれば、是非挑戦し、最大カット数を維持していってほしい。
自分の将来のためにがんばってみてね。そのうちもっとよい条件で仕事できる業界になるかもしれないから、そのときまで生き残っていてね。
次回は「原画がカット数を上げられない業界構造的な要因とは」について考えようと思う。間に猫かなにかが入るかもしれませんけど(^^)
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