ボツワナは南アフリカ、ナミビア、ジンバブエ、ザンビアに囲まれた人口200万人の小さな国だ。国民の約9割はツワナ人で、ボツワナとは「ツワナ人の国」のことだ。
ジンバブエでヴィクトリアの滝を見たあと、旅行者の多くは車でボツワナのチョベ国立公園を訪れる。ジンバブエのヴィクトリアフォールズ町からは(出入国が混まなければ)1時間ほどの距離で、日帰りのツアーもたくさん出ている。国境越えの道路の周囲は低木の森林地帯になっていて、突然、キリンが現われてびっくりしたりする。
チョベ国立公園はアフリカ象の生息地として有名で、乾季の終わり(8~9月)には象をはじめとする草食動物たちがチョベ川の水場に集まってくる。それを狙うライオンやチーターなどの肉食獣も多く、ドライブサファリには最高だ。私が訪れたのは雨季の12月でアフリカ象の大群を見ることはできなかったが、豹を除くビッグファイブ(ライオン、ゾウ、サイ、バッファロー)とはすべて遭遇した。
だが、この国に興味を持ったのは野生動物がたくさんいるからではない。ボツワナは、アフリカでもっとも成功した国なのだ。
アフリカ人が近代的な国家を作ることは不可能なのか?
一般の日本人がボツワナの名前を聞いたのは、2002年に日本国債の格付が引き下げられ、「アフリカの国より下になった」と騒がれたときだろう。これに対して当時の平沼赳夫経済産業相は、「日本(の国債格付け)はボツワナより下だという。ボツワナの人口の半分はエイズ。そういった国よりも国債のランクが下というのは非常に意図的だと感じる」と発言した。その後、エイズ患者とボツワナに対する差別だと批判されてあわてて陳謝・撤回したが、日本人(とりわけ“保守”を名乗る政治家)がアフリカに対してどのようなステレオタイプのイメージを持っているかがよく表われている。
2007年、DNAの二重らせん構造を発見してノーベル医学生理学賞を受賞した分子生物学者ジェームズ・ワトソンの発言が英紙『サンデー・タイムズ』1面に掲載された。そこでワトソンは、「アフリカの将来についてはまったく悲観的だ」として、「社会政策はすべて、アフリカ人の知性が我々の知性と同じだという前提を基本にしているが、すべての研究でそうなっているわけではない」「黒人労働者と交渉しなければならない雇用主なら、そうでないことを分かっている」と語った。
この差別発言でワトソンは激しい批判に晒され、その名声は地に堕ちたが、欧米のアフリカ援助関係者のなかに、「ここだけの話だが」と前置きして、同様の意見を述べる者がいくらでもいることは公然の秘密だ。ワトソンの発言がスキャンダラスなのは、誰もが密かに思っていることを堂々と口にしたからなのだ。
アフリカの混乱や貧困は、黒人が白人よりも劣っているからなのだろうか。
「人種のちがいは肌の色など外見だけで、知能や性格などの“内面”にはいかなる遺伝的な差もあってはならない」というPCな(政治的に正しい)主張が非科学的なことは間違いない。だがこのことは、「アフリカ人には近代的な社会をつくることができない」という主張を正当化しない。
ボツワナはアフリカ人がつくった自由で民主的な国で、政治も治安も安定し、国民の1人あたりGDPも7500ドルと南アフリカより高く、財政の健全性は日本より優れている。このことは、一定の条件が与えられれば、アフリカにも近代的な国民国家が生まれることを示している。
ボツワナの首都ハポローネは、大都会というわけではなく、とりたてて見所があるわけでもないが、近代的なビルが整然と並んでいる。町の中心にあるのは、こじんまりとした国会議事堂だ。
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