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【社会】

都の400億円 どうなる お荷物・新銀行東京 地銀傘下へ

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 東京都の石原慎太郎元知事が主導して二〇〇五年に設立された新銀行東京(新宿区)が、地銀グループと経営統合の交渉を進めている。銀行の貸し渋りに悩む中小企業の救済が当初の目的だったが、経営危機に陥り、都政の重荷になっていただけに、都民からは「説明が足りない」と不満の声も上がる。今後は都の新銀行への影響力は段階的に下がる見通しで、投入した税金の行方や、融資の対象となる中小企業への影響が焦点になる。 (川上義則、松村裕子、北爪三記)

■配慮

 新銀行東京が交渉しているのは、東京都民銀行と八千代銀行でつくる「東京TYフィナンシャルグループ」。交渉で都関係者が最も配慮しているのが、当初出資した一千億円に加え、二〇〇八年に追加出資した四百億円の扱いだ。

 追加出資は、無担保無保証のずさんな融資で不良債権が膨らみ、経営危機に陥った新銀行東京の救済が目的だった。当初出資した一千億円を取り崩して累積赤字を穴埋めする「減資」も実施。追加出資を決めた都議会は「追加出資分を毀損(きそん)させない」という決議を付け、都にくぎを刺していた。

 関係者によると、都が持つ株式と地銀グループの株式を交換し、新銀行東京が地銀グループの傘下に入る方向で協議中という。都幹部は「四百億円を追加出資した時の新銀行東京の経営状態とは違う。相手にもメリットがある」。追加出資後、審査体制を見直すなどして、一〇年三月期決算から六年連続で純利益の黒字を出しているからだ。

 ただ、交渉が都の思惑通りに運ぶとも限らない。江東区の会社員の女性(64)は「そもそも、なぜ役所が銀行だったのか。一般の都民からすれば、新銀行東京が中小企業の役に立っていたのかよく分からない。都が出資した千四百億円は都民に還元されているのか、今後の行方を見ていきたい」と話す。

 新銀行東京からの撤退を主張してきた都議会民主党の石毛茂都議は「新銀行の当初目的は終えた。撤退の方向に向かう都の判断は正しい」と評価。だが、四百億円の追加出資には疑問も残るという。「もっと早めに撤退の方向を打ち出せば、〇八年の追加出資は必要なかったのではないか」と強調した。

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■感謝

 融資先にとって新銀行東京はどんな存在だったのか。都内の不動産業者は「リーマン・ショック直後の不動産不況時は、ほとんどの銀行に融資を断られたが、新銀行東京だけは融資してくれた。本当にありがたかった」と振り返った。

 だが、新銀行東京が貸し出しだけで収益を上げるのは難しい。六年連続の黒字について、新銀行東京を格付けするスタンダード・アンド・プアーズ主席アナリストの吉沢亮二さんは「黒字の大部分は運用益。貸し出しでは苦戦している」と指摘する。

 日銀の低金利政策で、銀行は利ざやを稼ぐのが厳しくなり、競争は激化。このため、銀行の中小企業に対する貸し渋りや貸しはがしは以前ほど問題にならなくなった。しかし、リーマン・ショックのような状況が今後いつ起こるか、誰にも分からない。吉沢さんは「新銀行東京は中小企業にとって、生活保護のような役割も担ってきた。地銀グループと経営統合すると、そうした役割を担えなくなる可能性がある」と指摘した。

 新銀行東京の別の融資先の経営者は「中小企業の立場で言えば、新銀行東京はいざ困った時に支援してもらえる最後のとりで」と言い表した。地銀グループと経営統合することで、以前のように融資してもらえるのか。「注意深く見守っていきたい」と話した。

◆次期社長に常久氏

 新銀行東京は二十七日、寺井宏隆・代表取締役社長執行役員が退任し、常久秀紀(つねひさひでのり)取締役執行役員が次期社長に就任する人事を内定した。六月十一日の株主総会と取締役会で決定する。

 常久氏は山口県出身で慶大卒。旧三菱銀行を経て、二〇〇四年に新銀行東京に入り、一四年から現職。五十二歳。

 

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