日本農業を左右しかねない環太平洋連携協定(TPP)交渉が大詰めを迎える中、どんな未来が描かれるか。そう期待したが、肩すかしを食らった。そんな感じだ。

 政府がきのう閣議決定した農業白書である。農業の現状を分析しているが、課題をどう克服していくか。それが見えてこない。物足りなさばかりが残る。

 農家の不安を払拭(ふっしょく)するためにも、あるべき将来ビジョンを練り上げ、そこに至る具体的な道筋を提示する。それが重要だ。

 農業従事者の4%減、高齢者の割合の上昇…。約300ページの白書で示されたのは、農業を取り巻く厳しい環境だ。

 こうした中、着目したのは、農村への定住希望を持つ都市住民が増加しているとの政府調査である。潜在力を農村の活性化に結びつける。そこに期待を示した。

 先進例として、担い手育成に取り組む根室管内別海町の酪農研修牧場も紹介した。

 新規参入を促すのはいい。しかし、補助金頼みの現状のままでは、希望を現実に変えることは到底できまい。

 目指すべきは海外の攻勢にも負けない「強い農業」づくりだ。

 具体的には生産・加工・販売を一体化した6次産業化を加速させたい。生産者や農協などが力を合わせ付加価値の高い加工品を開発する。そして販路も開拓する。国も仕組みづくりを支援すべきだ。

 大規模化も不可欠だ。耕作放棄地は40万ヘクタールに及ぶ。その活用が成否を握る。切り札は、農地を借りて希望者に貸し付ける「農地中間管理機構」(農地バンク)だ。

 しかし、制度開始の昨年度の達成率は目標の約2割にとどまった。先祖伝来の土地を知らない人に貸したくない。そんな農家意識が要因との見方もある。

 問題は、制度が十分周知されていないことだ。まずその役割を農家に丁寧に説明し、貸し手と借り手の信頼関係を築くことで、不安を取り除きたい。

 道内に限れば、農地バンクの利用や売買などで大規模化が進んでいる。その一方で、資材高騰などから酪農家が年200戸減少している。日本農業の「光と陰」の縮図になっている。

 政府はこうした構造的な問題にももっと目配りすべきだ。

 10年で農業所得を倍増させる―。政権はそう目標を掲げる。しかし、肝心の具体策がさっぱり見えて来なければ、「攻めの農業」もかけ声倒れになりかねない。