B・ユナイテッド・インターナショナル社のマッチアス・ナイトハルト氏 Andrew Hinderaker for The Wall Street Journal

 納屋、温室、カモミールやベリー類の畑に囲まれたB・ユナイテッド・インターナショナル社は、典型的なビール配送会社には見えない。

 B・ユナイテッドは、ドイツのシュナイダー・ヴァイセや日本の常陸野といった人気ブランドの商品を配送する米コネティカット州オックスフォードの会社だ。数百に及ぶ古い木だるの中でビールを熟成させている点も普通のビール配送会社と違う。以前はワイン、ウイスキー、その他アルコール飲料が入っていたこれらのたるを使い、顧客の要請に応じてさらに発酵しているのだ。

 創業者でオーナーのマッチアス・ナイトハルト氏は、以前どんな液体が入っていたにせよ、たるに残っている風味と微小植物がビールの香りや味を高めるとの考えから、古い木だるを再利用している。ナイトハルト氏のようなビール醸造家は少数だが増えている。

 そうした要素は自動的に木からビールに移るわけではなく、野生酵母が絡んだ2次発酵の過程で引き出されると醸造家らは話した。

 350種類以上のクラフトビールを出すニューヨーク・イーストビレッジのバーを共同保有するザック・マック氏は「シラーかシャルドネを熟成させていたたるからは、より複雑な風味を引き出すことができる」と述べた。

 たる熟成への情熱が再燃したのは10年近く前だ。醸造家らは、バーボンだるでビールを熟成させるとポーターやスタウトにバニラの風味が加わることを発見した。その後、一部醸造かは、かつてソーテルヌ(貴腐ワインの一種)やスコッチが入っていたたるからブランデーやラムのたるまで、レパートリーを増やし始めている。酸味や渋みを求めてのことだ。

 ニューヨークのビール醸造家は、木だるの利用で最先端を行っている。

 ブルックリン・ブリューワリーの醸造責任者ガレット・オリバー氏は、バーボンだるが好きだと話した。通常、米国産オークの新材で作られ、売却前に1度しか使われないためだ。現在、同社の施設には、ビール熟成用の木だるが2000以上ある。

 一方、1月にオープンしたアザーハーフ・ブリューイングの共同オーナー、マット・モナハン氏は、ワインだるの方が好きだという。「バーボンだるでビールを熟成させるとバーボンのような味になる」という。アザーハーフは現在、プリミティーボ(米名:ジンファンデル)、ソーテルヌ、カリフォルニアの「オーパスワン」のカベルネを熟成させていたたるを使っている。

 木だるは何世紀にもわたり、ビールの熟成に使われてきた。だが、禁酒法後、米国のビール醸造業界は劇的に再編し、無菌性が高く容量の大きい大型ステンレス鋼タンクを求める会社が増えた。

 木だるへの回帰は、クラフトビール醸造家による実験の拡大と時期を同じくしている。例えば、一部ペール・エール醸造家は19世紀に人気だった「ドライホッピング」の技術を活用。2次発酵時にホップを加えることで、ビールを安定させ風味を高めている。

 木だるは通常、熟成の過程を遅らせる。それにより、過酷な環境コントロールで人工的に熟成させるのではなく、自然に任せることが可能だとB・ユナイテッドのナイトハルト氏は話す。

 同氏は「従来のビール醸造はプロセスのコントロールが全てだった。私たちはそれを再び自然に任せようとしている」と語る。顧客のビールの中には、2、3年寝かせるものもある。「顧客から自分のビールはいつ飲めるのかと聞かれると、わからないと答える」という。ただ、年間40万ケース相当を配送するナイトハルト氏の事業で、たる熟成事業の割合は2%にすぎない。

 たる熟成ビールは年143億ドル(約1兆4800億円)規模の米クラフトビール市場で依然ニッチな存在だが、影響は全国的に広がっている。カリフォルニアのクラフトビール醸造会社ブルーリーやファイアーストーン・ウォーカー・ブリューイングは最近、大がかりなたる熟成に乗り出した。

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