インタビュー【話題騒然】『天そぞろ』原作者・あかほり悟インタビュー<前編>【新連載】
『サクラ大戦』シナリオ、『セイバーマリオネットJ』などアニメ、ゲーム、マンガ、小説で数々のヒット作を持つ作家・あかほりさとるが、名義を「あかほり悟」にあらため、「クピドの悪戯」シリーズほか、数々の名作を手がけてきたマンガ家・北崎 拓との強力なタッグで、新作『天そぞろ』の連載をスタートさせた。
「ビッグコミックスピリッツ」の思い出、本作が生まれるきっかけ、歴史ものにかける思い、そして、自身の人生について、出版業界のこれからについて思うこと......作家としての「新生」を、インタビューでざっくばらんに語ってもらった。
時代の寵児は、今、こんなことを考えている......!
――連載開始の報を聞いてびっくりしました。小学館でのお仕事はほぼ初めてですよね。
そうですね。本格的なものは初めてです。これまでも何度かお話はいただいていたんですけど。もともと、子供のころは「週刊少年サンデー」「ビッグコミックスピリッツ」っ子だったんですよ。マンガやアニメの業界に入りたいと思うきっかけになった作品が3つあって、そのうちのひとつが『うる星やつら』。それくらい高橋留美子先生が大好きで、当然、『めぞん一刻』もリアルタイムで読んでいました。池上遼一先生の『傷追い人』とかも、印象深いですね。「ビッグコミック」系列だと、「スペリオール」で連載されていた『信長』(原作・工藤かずや、作画・池上遼一)も好きでしたよ。そんな錚々たる作品が連載されていたところで自分も戦うことになるのかと、身の引き締まる思いです。
――今回の企画は、どんな形でスタートしたんですか?
最初は「軽めの企画をやりましょうか」とお話があって、その線で担当の編集さんと話を進めていたんです。短いスパンで終わる、ちょっとした恋愛ものの企画をやるつもりだったんですね。そうしたら、何度か打ち合わせをしたところで、編集さんから「この企画はヒロインを江戸時代にとばしてはどうでしょう(キリッ)」って。なんでやねん!
――ははははは(笑)。ちょっと意外な返球が来た。
で、舞台を江戸時代にして、タイムスリップものの要素を取り入れようか、という話になったんです。そうしたらもう、手がつけられないくらい、どんどん話が大きくなって。もうこれは「軽めの企画」じゃすまないな、という感じに(笑)。編集さんも、「面白い。これでつっ走りましょうか!」って言うし、それなら......ということで、『天そぞろ』という企画が生まれました。
とにかく、舞台が江戸時代......というか「幕末」ですね。そこに定まった時点で、それならこの要素も、あの要素も入れないとな......というものが、いくつも出てきた。それらを組み合わせながら、企画の骨子を作って、3話くらいまでの脚本を書いた段階で、北崎 拓先生に企画に興味を持っていただいて、お会いすることになったんです。そうしたら、北崎先生からも、いろんなアイディアがいっぱい出てきたんですよね。
――北崎先生とは面識はあられたんですか?
いや、ないです。この作品のために、初めてお会いしました。ほぼ同い年なんですよ。北崎先生は高校生デビューだから、キャリアは全然長いんですけど。そもそも『空色み~な』は読者として大好きでしたし......なんて、昔の話をすると嫌がられるかな(笑)。
――北崎先生も企画の段階でアイデアを出されたんですね。
そうなんです。それでますます話が大きくなった。大丈夫かな? と少し不安にもなったけど、あの北崎先生がやるといってくださっているなら、その滅多にないチャンスに賭けてやるしかないと覚悟を決めました。
――口ぶりからも、かなりの意気込みを感じます。
そうですね。僕、このあいだ、久しぶりに小説を書き上げたんです。『御用絵師一丸(ごようえし ひとまる)』という時代小説なんですが。
――白泉社の招き猫文庫から出た作品ですね。
そう。『御用絵師一丸』は、今のところ部数はこれからという感じですが、いろんなところで批評してもらえたり、評価してもらえたんですね。それでちょっと自信のついたところもありましたし、久しぶりに小説を書いたことで、追い込まれたんですよ。
――追い込まれた?
モノを作るときのヒリヒリした感じを味わったというか......たとえば、久しぶりに編集さんに理不尽な怒り方をしたんですよね。「どうして今、電話かけてくるんだよ!」みたいな。書いているときに、電話とか、ほかのことで、執筆の邪魔をされたくなかった。そのとき、モノを作るときにはこういうヒリヒリした感覚がないとダメだよな、と思ったんです。以前、1か月に小説を二冊、三冊書かなきゃいけないなんて時代があって、そのときもかなり追い込まれたんだけど、そのときとは全然違う感覚でした。
で、その、やっぱりちゃんと腰を据えてモノを作っていかなくちゃ......という気持ちが芽生えて、『御用絵師一丸』ではペンネームを「あかほりさとる」から「あかほり『悟』」に変えさせてもらったんです。今回もそのペンネームを使っているのは、自分としては、かなり覚悟を決めて書いている作品だということを示しているつもりなんですよ。
――こんなにも「覚悟」という言葉を口にされるあかほりさんは新鮮です。
今まで飄々と逃げまわってきましたからね(笑)。もともと僕は小説を書いていたわけですが、作品が売れなくなってきたときに、「自分は小説家には向いてないんじゃないか?」と逃げて、十年くらい小説を書かなかったわけです。それでも自分の企画をやりたいという気持ちはあったからマンガ原作にシフトしたけど、そこでも、大河ドラマ的なものは作らなかった。「別にそういうものが作りたいわけじゃないし」と逃げをうちながら。
でも40代も終わりに差し掛かったときに、「本当にこのままでいいのか?」と思ったわけですよ。「本当に小説を書かなくていいのか? 本当に歴史ものはやりたくないのか?」って。そういう気持ちに対して「いやいや、自分には向いていないし......」とか言ってるのが、ウソっぽいなと思えたんですね。本当はやりたいんだな、と。つまり、失敗をすごく怖がっていたんですよ。普通の人だったら新入社員のときに味わうような気持ちを、あとから味わっていた(笑)。
――なるほど。
今回の作品は、幕末もので、タイムスリップものです。こうした企画で、これまで数多のパターンのお話が作られてきていますよね?
――そうですね。例えば、ドラマとしても大ヒットした『JIN-仁-』(村上もとか、集英社)とか。
そうそう。小学館でも、『信長協奏曲』(石井あゆみ)が大ヒットしてる。そういう先行した作品がすでにある中で、同じジャンルで勝負することに関しては、相当なプレッシャーを感じるわけです。それでも、幕末とタイムスリップという要素を面白いと思ったからには、逃げずにやろう、と。 (>インタビュー後編へ続く)
『天そぞろ』あかほり悟インタビュー [ 前編 ] [ 後編 ]
(インタビュー/構成:前田 久)