日銀は27日、経営の健全性を示す自己資本比率が2015年3月末時点で8.20%と1年前より0.46ポイント上昇したと発表した。国債の大量購入などで利益が増えたうえ、財務省が利益の25%を資本に組み入れることを認めたため。日銀は大量の国債を持っており、金融緩和を縮小する「出口」を迎える際に資本がいたむ可能性が指摘されている。あらかじめ資本を積み増し、出口で想定される財務リスクに備える。
同日発表した15年3月期決算では最終利益にあたる剰余金が1兆90億円と前の期より4割近く増えた。国債の大量購入で利息収入が増えたほか、円安で外貨資産の評価額が増え、13年ぶりの高水準となった。
日銀は利益の大半を政府に納めている。だが15年3月期は財務の健全性を確保するため、麻生太郎財務相の許可を得て、利益の25%にあたる2522億円を資本に組み入れた。比率・金額ともに過去最高だ。この結果、自己資本を銀行券で割った自己資本比率は8%を超え、日銀が健全性の目安とする8~12%の範囲に13年ぶりに収まった。
もっとも一般企業が目安とする自己資本を総資産で割った比率はこの2年で3.69%から2.22%へと低下した。13年4月に量的・質的金融緩和を導入して以降、大量の国債を買っており、総資産が約2倍の323兆円に膨らんだため。株式の保有額も増えており、日銀が抱える資産のリスクは着実に高まっている。
足元では金利が低く株高が進んでいるため、財務の健全性は確保されているが、懸念されるのは金融緩和を縮小する時だ。長期金利が上昇しやすくなり、日銀が損失を被る恐れがある。仮に長期金利が1%上昇すれば10兆円規模の評価損が生まれ「量を減らしたくても売却できない状況に陥る恐れがある」(東短リサーチの加藤出社長)。
国債を償還まで持ち続ければ実際に損はしないが別の問題が発生する。
日銀が大量に国債を抱えながら短期金利を引き上げるには金融機関が日銀に預けている当座預金の金利を現行の0.1%から引き上げる必要があるとみられるためだ。米連邦準備理事会(FRB)は利上げの局面でその手法をとる方針。日銀もいずれ引き上げると市場はみている。
その局面では日銀は多額の利払い負担を強いられる。一方、これまで低利の国債を買っているため、収入は増えづらい。JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは「政府からの利息収入で金融機関への利払いをまかなえない逆ざや状態になり資本不足に陥る恐れもある」と指摘する。
日銀は16年度前半に物価上昇率が目標の2%に達するとみており、少なくとも15年度中は大量の資産買い入れを続ける公算が大きい。その分、日銀が抱える財務リスクは高まる。市場では「日銀は現状の金融緩和のコストや持続可能性をより丁寧に説明すべきだ」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)との声が増えている。
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