エチオピアで330万~350万年前の新種の猿人化石を発見したと、米クリーブランド自然史博物館ほかの国際研究チームが5月28日付け『ネイチャー』誌に発表した。
新たに見つかった猿人の名は、アウストラロピテクス・デイレメダ(Australopitecus deyiremeda)。今から300万年以上前、アウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)の「ルーシー」が今日のエチオピアにあたる地域のサバンナを2本の足で歩いていたとき、自分とよく似ているが少しだけ風変わりなこの猿人に出会っていたかもしれない。
ルーシーとは食べるものが違っていた
近年、300万年以上前のアフリカ東部で複数種のヒト族が生息していたことを示唆する証拠がばらばらに発見されているが、今回見つかった3体分の猿人の顎の骨は、その新たな証拠となる。この発見は、複数種の猿人たちが、食べ物やその探し方をはじめとする行動の違いに基づいて、それぞれ異なる生態的地位を築き上げていたことを意味しているのかもしれない。「現時点では、二つの猿人の交流や生態の違いは解明されていません」と、共著者であるマックス・プランク進化人類学研究所のステファニー・メリロ氏は言う。
今回の論文によると、猿人の化石は、上顎の骨の一部が1つ、下顎の骨が2つとその他の破片で、エチオピアのアファール三角地帯のバーテレという場所で発見された。1974年にルーシーが発見されたハダールから歩いてわずか1日の距離のところである。骨のまわりの堆積物は330万~350万年前のもので、アファール猿人が暮らしていた時代と同じである。今回の顎の骨は、アファール猿人の顎の骨と似ている点があるが、似ていない点もある。一部の歯は根の構造が違っていて、全体に小さいため、食べ物が違っていた可能性がある。
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンとマックス・プランク進化人類学研究所に所属するフレッド・スプーア氏は、「歯の小ささは、肉をどれほど食べるかと関連していることが多いのです」と言う。「また、咀嚼筋が前方に移動していることは、咀嚼圧の分布の変化を意味します」。
「近くの親戚」
アウストラロピテクス・デイレメダ(Australopitecus deyiremeda)という種名は、「近い」という意味の現地語「deyi」と、「親戚」という意味の現地語「remeda」を組み合わせたもので、この猿人が他のヒト族と近い関係にあることを表している。けれどもその類似は限定的だ。
今回の論文の著者であるクリーブランド自然史博物館のヨハネス・ハイレ-セラシエ氏は、「私たちは、この猿人がアウストラロピテクス・アファレンシスとは異なるものであることを確信しています。バーテレの発掘現場から得られた証拠には今回発表したものも未発表のものもありますが、そのすべてが私たちの結論を裏づけています」と言う。彼は、今回の化石をアウストラロピテクス・アファレンシスに含めてしまうと、既存の種に異常に広範な身体的変異を認めることになってしまうと主張する。
けれども、人類起源研究所の古人類学者ビル・キンベル氏は、「区別はきわめて微妙です」と釘をさす。「著者らはこの化石をよく分析したと思いますが、その差異が種のレベルであるかについては、議論の余地があると思います」
アウストラロピテクス・アファレンシスの化石は、中期鮮新世と呼ばれる300万~400万年前のアフリカ東部のヒト族の化石記録の中で異彩を放っている。けれどもこの20年間、科学者たちは同じ時代の同じ地域に、チャドのアウストラロピテクス・バーレルガザリ(Australopithecus bahrelghazali)やケニアのケニアントロプス・プラティオプス(Kenyanthropus platyops)など複数種の猿人を発見していて、今回さらにアウストラロピテクス・デイレメダが加わったことになる。
ものを掴める謎の足も
著者らは論文で、「中期鮮新世のアフリカ東部に複数のヒト族が同時に生息していたことを示す証拠に、今や疑問の余地はない」と述べている。
ここで興味深いのは、今回アウストラロピテクス・デイレメダが発掘された場所から非常に近いところで2009年に発掘されたヒト族の謎めいた足の骨だ。この骨の持ち主は、440万年前のアルディピテクス・ラミダス(Ardipithecus ramidus)のように、ものを掴むことができる柔軟な足と親指を持っていたと考えられる。(ラミダス猿人について詳しくはこちらをご参照ください:「新・人類進化の道」)
けれどもややこしいことに、バーテレで発見された足の骨は、わずか340万年前のものだ。これは、アウストラロピテクス・デイレメダが生きたのと同じ時代である。場所的にも年代的にもその近さを無視することはできない、とキンベルは指摘する。
「このきわめて原始的な足の持ち主が、今回発見されたいかにもアウストラロピテクスらしい歯や顎の持ち主と同じであるかどうかを明らかにすることが重要です」とキンベルは言う。「アウストラロピテクスのような頭部を持ち、より多様な移動方法を持つ、私たちがこれまで想像したこともないような生物だったのかもしれません」