原発再稼働への地ならしか。政府は原発から出る核のごみの処分について、自ら適地を選んで、受け入れを働き掛ける新方針に改めた。これを機に、核のごみを出さない国への転換も図りたい。
誰が、何を、どうやって処分するかは、十五年も前から決まっていた。
全国の電力会社で組織した団体が、再び燃料にするプルトニウムなどを抽出したあとの危険な廃液を、ガラスで固め、分厚い金属容器に密封して、地下三百メートル以上の安定地層に埋める。
事業主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)は、二〇〇二年に、受け入れてくれる自治体の公募を開始した。
地震歴などの文献調査に応じるだけで最大二十億円の交付金を受けられる。
にもかかわらず、これまでに手を挙げたのは、高知県東洋町だけだ。交付金目当てに応募した町長は辞職を余儀なくされた。
いま国内には、一万七千トンの使用済み核燃料がたまっており、原発施設内などにある保管場所の七割がすでに埋まっている。
そこで、国が科学的に有望な候補地を絞り込み、自治体に調査を申し入れる方式に改める。
最終処分場が必要なのは間違いない。自治体側の立候補を待つだけでは、らちが明かないのも確かだろう。
だがこのやり方は、原発の立地同様、いやそれ以上に大きな危うさもはらんでいる。
家庭ごみの焼却場や埋め立て処分場の建設さえ、極めて困難な状況だ。無害化までに十万年の管理が必要と言われる危険なごみを受け入れるには、相当な覚悟がいるだろう。候補に挙がっただけで、その地域は分断されかねない。
国土の七割、相当数の自治体が科学的に「有望」だと政府は言う。本当にそうなのか。
この国は火山国・地震国である。適地選定に際しては、十分な根拠を誰にでも分かる形で示し、質疑を繰り返す必要がある。専門家が適地と認めても、立地の過程で強制感があってはならない。受け入れの合意形成には、十分時間を割かねばならない。
核のごみ処分の転換点に立ち、もう一度確かめておきたいことがある。
原発を使い続ければ、必ず核のごみは出る。発生抑制こそ、最善のごみ対策だということだ。
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