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【社説】

安保法制審議 議論深めぬ政府の不実

 安倍晋三首相ら政府側はなぜ質問に正面から答えようとしないのか。安全保障法制の法案審議がきのう衆院特別委員会で始まった。法案を正当化する見解を繰り返すだけでは、議論は深まらない。

 それだけ安保法制の成否が日本の針路を大きく左右するということだろう。質問に立ったのは各党党首級ばかり。特に野党側は党の威信をかけ、舌鋒(ぜっぽう)鋭く迫った。しかし、議論が深まったとは言い難い。政府側が質問に正面から答えようとしなかったからだ。

 例えば「専守防衛」について、である。政府はこれまで「相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使」する受動的な防衛戦略、との見解を堅持してきた。

 一方、審議中の安保法制では、日本が直接攻撃されていない場合でも「わが国と密接な関係にある他国」が攻撃を受け、新しい三要件を満たせば、自衛隊が集団的自衛権を行使できる、としている。

 民主党の長妻昭代表代行は「専守防衛の定義が変わったのではないか」とただしたが、首相は「全く変わりない」と否定した。

 他国への攻撃でも「わが国の存立が脅かされるから、これを防衛するのは専守防衛」というのが首相の説明だが、自国が攻撃されていなくても自衛権を行使できるようにするのは明らかな変更だ。それでも専守防衛に変わりないというのは詭弁(きべん)ではないのか。

 首相が中東地域で唯一、集団的自衛権の行使例として想定できるとしたホルムズ海峡での機雷除去も同様に説明を尽くしていない。

 首相は「武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領域へ派遣する、いわゆる海外派兵は、一般に憲法上許されない」と言う一方、機雷除去は「極めて制限的、受動的」として例外扱いだ。

 しかし、機雷掃海は国際法的には武力の行使に該当する。制限的、受動的だから海外派兵の例外というだけでは説得力を持たない。

 一連の安保法制は、専守防衛を柱とする戦後日本の安保政策を大きく転換するものだ。

 審議を尽くして当然だが、政府側が海外活動の拡大による自衛隊員のリスク(危険)増大を認めようとせず、野党側の指摘に耳を傾けない姿勢では、議論が深まるわけがない。

 委員会では、首相が質問に直接答えなかったり、答弁書を延々と読み続けたり、野党議員を挑発するなど不誠実な態度も見られた。そこに「一強」の傲(おご)りがあるのではないか。まず改めた方がよい。

 

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