石炭火力発電所の建設計画が活況-小型化で環境規制の対象外に
2015/05/28 06:00 JST
(ブルームバーグ):原発事故後に不足した電力供給を増やすため石炭火力発電所の新設が計画されているが、このうち3分の1が、環境に影響を及ぼす恐れのある事業に求められた国の環境アセスメントの対象にならない事業であることが、環境団体が発表したデータで明らかになった。
NPO法人「気候ネットワーク」が企業や政府の発表、報道を基にまとめたデータによると、現在国内で45基の石炭火力発電所建設が計画されている。そのうち15基が、環境アセスの対象とならない出力11万2500キロワット以下の小型石炭火力発電所となっている。
石炭火力建設の反対派は一定の規模以下の発電設備が環境アセスの対象外となっている点を問題視しており、小型の発電所を計画することで規制を回避していると批判する。
気候ネットワークは、震災後に政府が石炭火力の活用を後押しする中「電力会社を始め多くの事業者が猛烈な勢いで石炭火力発電の新規建設計画を推し進めている」と指摘。このままでは発電燃料として最も環境負荷の高い石炭火力への依存が続き、二酸化炭素(CO2)を「大量に排出し続けることになる」との見解を示したリポートを4月に発表した。
小型石炭火力発電所2カ所の建設を計画している日本製紙 はブルームバーグの取材に対し、「大型火力発電所を建設するとなると、必要な事業用地面積や港湾等のインフラ面での制約から、非常に困難なものになる」と電子メールでコメントした。
同社は小型でも高効率の設備を導入する予定で「大型並みの効果が得られ、さらにバイオマス燃料を混焼することで、二酸化炭素の発生を抑制して環境負荷の低減を図る」としている。さらに、静岡県内で計画中の発電所では自主的な環境アセスも実施している。
バイオマス燃料との混焼小型石炭火力事業の大半が木質ペレットやリサイクル木材など木質バイオマス燃料との混焼を想定している。混焼することで再生可能エネルギーの普及拡大のために導入された政府の補助金が交付される。
前日本環境学会会長で3月まで経済産業省の有識者会合で委員を務めていた和田武氏はバイオマスとの混焼は「批判かわす意味合いがある」と指摘。「混焼は石炭のみよりCO2の排出が下がることになるが、本来は石炭そのものを増やすべきでない」との見解を示した。
原発の停止で不足した電力を補うため、石炭への依存度が増加。再生可能エネルギーの普及促進を目指して世界でも有数の補助金制度が確立されたものの、13年度の全発電電力量に占める石炭火力の割合は30%と、10年度の25%を上回った。
環境アセスでは大気汚染や騒音、水質や景観への影響などの点について評価することを求めているほか、評価の過程で住民、地元自治体や環境相などが意見書を提出することもできる。審査期間には数年を要することから、環境アセスが不要で完成までに必要な期間を省略できる小規模な石炭火力に注目が集まった。
小規模は非効率CO2排出量の少ない石炭火力発電の技術の推進派も、小型石炭火力の利用については疑問を呈する。コマツの坂根正弘相談役は経産省の有識者会合で「日本の石炭技術は世界一といいながら、一方で原発すべてを止めている中で小規模な非効率な火力発電所をどんどん作っている。果たしてこれでいいのかという疑問を持っている」と述べた。
気候ネットワークの平田仁子理事は小型の石炭火力について「10基建てば大型1基に相当する。効率も環境影響も悪く、アセス逃れの計画があることは問題」と指摘。その上で「小型への対応を考えることが大型の建設を加速させることになってはならず、大型、小型両方への対策が必要だ」と話した。
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更新日時: 2015/05/28 06:00 JST