社説:新銀行東京 税金損なった責任問え
毎日新聞 2015年05月28日 02時30分
東京都がようやく、銀行経営から手を引くことになった。都が出資する新銀行東京が、地方銀行グループの「東京TYフィナンシャルグループ」と経営統合し、傘下に入る方向で交渉が進んでいる。
ずさんな中小企業向け融資のために、1400億円もつぎ込まれた都民の税金は、その多くが損なわれた。なぜそんな「でたらめ」がまかり通ったのか。責任をうやむやにしたままでの幕引きは許されない。
新銀行は10年前に、当時の石原慎太郎知事の発案で、資金繰りに苦しむ中小企業を支援しようと都が1000億円出資して設立した。しかし、貸出先企業の経営内容を精査するという審査の基本を無視した融資のために焦げ付きが相次ぎ、経営が悪化した。破綻を回避するため、2008年には400億円の追加出資を余儀なくされた。
追加出資に関して新銀行は、外部の弁護士らに調査を依頼し、旧経営陣が「注意義務を怠り損失を拡大させた」と結論づけた。当時の都議会での石原知事の答弁も、責任は旧経営陣にあるという主張に終始した。
しかし、新銀行は石原都政2期目の目玉として設立され、実質的には都営の「石原銀行」だった。既に民間銀行の不良債権処理が進展し、都が新銀行をつくって中小企業を支援する必要性は乏しくなっていた。それにもかかわらず開業を強行し、結果的に、民間と差別化するための緩い審査で巨額の焦げ付きを招いた。責任の一端は石原氏や都にもあるはずだ。
新銀行は旧経営陣を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしたが、東京地裁は都が当時、銀行に不良債権問題について報告を求めていなかったことなどから「(経営者に)融資中止を取締役会に提案する義務はなかった」などとして、今年3月に請求を棄却した。経営監視できなかった都の責任を指摘された格好だ。
今回の経営統合で、遅まきながらも石原都政の失策に対する清算に乗り出したことは自然な流れだ。しかし巨額の税金を無駄にした責任を不問に付すことは都民が許さないだろう。新銀行構想を追認してきた都議会の責任も重い。議会は第三者機関を設けるなどして、こうした事態を招いた原因や責任の所在を徹底的に究明する必要がある。
都は東京TYと新銀行の株式を交換することになるが、交換比率によっては投入した税金がさらに目減りする可能性がある。都民の損失を可能な限り少なくする交渉が求められる。新銀行に経営を支えられている中小企業もある。統合後も支障が出ないように統合の条件を整えることも都の責任と言える。