社説:安保転換を問う 集団的自衛権

毎日新聞 2015年05月28日 02時35分

 ◇「専守防衛」とは言えぬ

 専守防衛は、憲法の平和主義の精神にのっとり、戦後日本が維持してきた防衛政策の基本姿勢だ。日本が直接攻撃されていないのに他国への攻撃に反撃する集団的自衛権の行使は、そもそも専守防衛に反する。

 しかし安倍政権は、安全保障関連法案の国会審議で、集団的自衛権の行使によっても「専守防衛の考え方は全く変わりがない」(安倍晋三首相)と繰り返した。

 政府は、専守防衛について「相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢」と定義している。

 専守防衛のもと自衛隊は、大陸間弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母などの攻撃的兵器を保有することは認められていない。

 審議では、専守防衛は「相手から武力攻撃を受けたときに初めて」防衛力を行使すると明確に定義されているのに、集団的自衛権は日本が武力攻撃を受けていない状態で武力を行使するのだから、専守防衛ではないのではないか、定義を変えるべきではないかとの趣旨の質問が出た。

 この疑問に政府は「武力攻撃を受けた」国というのは、日本に限らず、日本と密接な関係にある他国も含まれるという新解釈を打ち出した。

 しかも、集団的自衛権を巡る憲法解釈変更の基本論理となった1972年の政府見解にさかのぼって、もともとそう解釈されるのだという。

 72年見解は「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態」に対処するための自衛の措置を認めている。

 政府の説明では「外国の武力攻撃」とは、日本への攻撃に限らず、日本と密接な関係にある他国への攻撃も含まれるという。横畠裕介内閣法制局長官が答弁し、安倍首相も追認した。明らかなこじつけである。

 政府内でも、専守防衛の定義を変えるべきか悩みはあったようだ。だが、変更しないという政治判断をした。集団的自衛権が専守防衛を逸脱していると認めれば、憲法解釈の変更ではすまなくなるからだろう。だから新3要件を満たした集団的自衛権の行使も、専守防衛の範囲内だという無理な理屈を作り上げた。

 民主党の長妻昭代表代行は「定義を変えたとはっきり言うべきだ」と批判し、維新の党の松野頼久代表も「専守防衛からずれてきている」と指摘した。政府は正直な議論に立ち返るべきだ。

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