意外と一般的なのに知られていない「Aセクシャル(asexual)」という言葉について解説してみます。
他者に対して恋愛感情を持てないセクシュアリティ
「Aセクシャル(アセクシュアル、またはエーセクシュアルと読みます)」は、異性・同性問わず、他者に対して恋愛感情を持てないというセクシュアリティを持つ人々。
無性愛(むせいあい、英: asexuality)とは、『他者に対して性的な関心・欲求を抱かない』性的指向のことである。他者との性的なコミュニケーションを望まない、このような性質を持つ人々を無性愛者という。
その数は多く、人口の1%がasexualであるとも言われます。
無性愛は、異性愛、同性愛、両性愛に並ぶ性質であると言われている。ブロック大学のアンソニー・ボガード教授は「世界人口の1%が無性愛者に当てはまる」と自身の著書に記している。
asexualのなかでもさらに細分化され、「ロマンス(恋愛感情)に対して魅力を感じるか(aromantic/romantic)」「性的欲求への嫌悪感の有無」といったカテゴライズがされることがあります。たとえば、「恋愛感情を持つことができず、恋愛小説のようなロマンスには魅力を感じるけれど、性的なことに特別な嫌悪感は抱かない」なんてパターンがあるわけですね。
「大人になれば恋愛が分かるよ」
アセクシュアルの人たちは「未成熟」のレッテルを貼られることがある、としばしば伺います。当事者によるこんな書き込みを見つけました。
おそらくAセクシャルは、同性愛者の方のように具体的な実感がないために「未成熟なだけ」「臆病なだけ」と言い聞かせ、自認を拒否しがちではないでしょうか。自分もまたそうなのですが…。(自己否定感が拭えず、辛いものです)
それでも少なくとも「性的欲求がない・恋愛感情がない」状態があり、それが自然体だという人々が世の中に存在することは認知されていって欲しいと思います。
「大人になれば恋愛が分かるよ」という言葉を投げかけられて困惑した、という当事者の声を聞いたことがあります。まさに、自分を承認するのが難しいタイプのマイノリティなんでしょうね。
この書き込みは象徴的です。
Asexualityの研究をされている方が存在していることを知り、非常にうれしく思います。 無いものの証明は難しく、非常に理解されにくいものです。
おそらく、本人たちですら、不安(マジョリティとの違い)と疑問(では、いったい自分はなんなのか)と希望(もしかしたら、いつかは持てるものなのか。あるいは、そういうものも存在するのだから自分はこのままでもおかしくはないのだ)等々、を持ちながら、日々を過ごしているのではないでしょうか。
本当の意味で、このカテゴリーの人間は、死ぬときになって初めて、(例えば、性愛は)なかったのだと証明できるのだろう、と。
他者はおろか自分自身でさえ、自分のセクシャリティを疑いながら不安定な状態で生き続けなければならない、苦悩、というものがあるのかもしれない、と思います。
ぼくの知っている範囲でも、多分「asexual」に分類されるであろう人はちらほら見当たる感じです。多分、みなさんの周りにも「あの人はそうだったのかも?」という方がいらっしゃるかもしれません。もしくはこの説明を読んで、「私がそうかも」とピンと来た方も。アセクシュアルというのは、同性愛と同様、なんら特別なことではないわけですね。
アセクシュアルの人々を理解するために必要な8つのこと
海外ではけっこう一般的なキーワードのようで、「asexual」で検索すると色々な情報がヒットします。こちらは「asexualの人々を理解するために必要な8つのこと」という記事。箇条書きでまとめます。
- 独身主義(celibacy)とアセクシュアルを混同してはいけない。
- 同性愛とアセクシュアルを混同してはいけない。
- 性欲を押さえ込んでいるわけではないことを理解する。
- 変わることを期待しない。
- 彼らの動機をよく観察する。
- アセクシュアルだからといって、肉体的な接触(抱擁など)を嫌っているとはかぎらない。
- アセクシュアリティを「障害」だと考えない。
- アセクシュアルの人々は性的虐待を受けたからアセクシュアルになったのだ、と思い込まない。
8つ目は「あるある」な感じですが、マイノリティを理解しようとするがあまり、変に色眼鏡で見てしまうのは気をつけたいところです。ごくごく普通に「あー、世の中には男女問わず、恋愛とか性交渉に関心がない人もいるんだなぁ」という程度に捉えるのがよいのでしょう。
アセクシュアルかどうかを判別するクエスチョン
アセクシュアリティの入門書「The Invisible Orientation: An Introduction to Asexuality」の著者、Julie Sondra Deckerさんは「完璧に診断を下せる専門家はいない。あなたが自分で答えを見つけるだけ」と前置きをしつつ、以下の質問を提供しています。訳しにくい文章なので、意訳&省略を含んでいます。
- 他者に性的な魅力を感じることはありますか?
- しばしば他者に性的な魅力を感じるけれど、その道に入り込むことに対して違和感がありますか?
- セックスをすること(または、セックスをしようと考えること)は大丈夫だけれども、そこに関心や重要性を見出すことができない、ということはありませんか?
- 性的な魅力を感じることはあるけれど、それはごくごく稀なことだ、ということはありませんか?asexualと共通する性質の多い「graysexual」かもしれません。
- すでに関係のある他者に対して性的な魅力を感じることはあるが、他人、芸能人、単なる知り合いに対しては魅力を感じることがない、ということはありませんか?あなたは「demisexusual」かもしれません
誤訳・ニュアンスを誤解している可能性があるので原文も。英語に強い方はこちらを読んでくださいませ。
- Do you find other people sexy—in a way that makes you feel sexual desire or arousal, or a way that makes you think sex or sexual touching with that person would be satisfying (regardless of whether you’d actually do it)? If you don’t feel this with anyone, you may be asexual.
- Do you develop sexual attraction every once in a while, but don’t find its pursuit or satisfaction intrinsically rewarding? Some people would call that asexual.
- Do you think having sex (or the idea of having sex) is okay, but not very interesting or important? Could you take it or leave it, and find leaving it more convenient or preferable? Some people would call that asexual.
- Do you feel sexual attraction sometimes, but only rarely? You may be graysexual,* and you’ll have a lot in common with asexual people if you are.
- Do you sometimes develop sexual attraction when you’ve already developed other important connections with someone, but never feel sexually attracted to strangers, celebrities, or mere acquaintances? You may be demisexual,* and you’ll also have a lot in common with asexual people if you are.
すでに「asexual」という文脈のなかで「aromatic」だったり「graysexual」「demisexual」という言葉が登場しており、何だかたいへん複雑な感じに見えてきます。
が、自分がどのセクシュアリティにカテゴライズされるか(またはカテゴライズされないか)は、本人の選択の問題にすぎません。
自分が自分のことをasexualだと思う/思わないのなら、それでいいと思います。ぼくはわかりやすいセクシュアル・マイノリティではありませんが、多分こういうキーワードは、「同じような悩みを持つ人と繋がるツール」にすぎないと思いますので。
男女以外の性別は無数にある
21世紀の新しい常識として、ぼくらは「男女以外の性別がある」ことを認識しないといけません。フェイスブックはこういう新しい常識を採用して、50以上の性別を設定できる仕様となっています(英語版のみ)。
セクシュアリティに対する理解については、日本はかなり遅れているように感じます。もっと情報が広く行き渡り、変に悩んで苦しむ人が少なくなるといいですね。
うちのブログはちょいちょいセクシュアリティに関する記事を投稿していて、過去にはこんな記事をアップしています。
- LGBTsの人たちが「当たり前」に話せる空間をつくる:「Queer & Ally」代表・はるさんインタビュー
- 「LGBT」ではなく「LGBTQ」または「LGBTs」と表記する理由とその意味
- Facebookでは50種類の性別を設定できる:「男」「女」以外の性別は山ほどあるのです
関連書籍もおすすめです。
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