オスプレイの低事故率 「海兵隊が損害基準引上げ”工作”」は誤報
楊井人文 | 日本報道検証機構代表・弁護士
【GoHoo5月27日】東京新聞は5月19日付朝刊1面トップで、米ハワイの米軍基地で海兵隊のオスプレイMV22が重大事故を起こしたことを大きく伝え、同じ面に「MV22『低い事故率』に疑問」と見出しをつけた記事を掲載した。この中で、海兵隊が2009年、損害100万ドル以上としていた「クラスA」の基準を200万ドル以上に引き上げ、事故率を下げる「工作」をしていたと指摘。重大事故を示す米軍の基準「クラスA」の発生率がMV22の場合、空軍特殊部隊のオスプレイCV22と比べて3分の1と低くなっていることについて「このデータは安全性を裏付けていない」と伝えた。しかし、「クラスA」の損害基準引き上げは国防総省が米軍全体に指示したもので、海兵隊だけに適用されたものではなかった。同紙が、MV22の事故率を他機種より低くみせかけるために海兵隊だけが損害基準を引き上げたかのように報じたのは、誤報だった。
中日新聞の同日付朝刊1面のほか、同社のニュースサイトにも掲載された。事実関係の誤りは、静岡県立大学の西恭之特任助教(国際安全保障論)が指摘して判明した。日本報道検証機構は22日、中日新聞社(東京本社)に指摘したが、27日午後5時までに回答は得られなかった。訂正もされていない。
米軍は現在、航空機事故について、(1)死者・全身不随の重傷者が出た場合、航空機が損壊した場合、もしくは政府関係財産に200万ドル以上の損害が出た場合を「クラスA」、(2)部分的な後遺障害をもたらす重傷者または3人以上の入院者が出た場合、もしくは政府関係財産に50万~200万ドルの損害が出た場合を「クラスB」、(3)1日以上の欠勤をもたらす軽傷者が出た場合、もしくは政府関係財産に5万~50万ドルの損害が出た場合を「クラスC」と分類している。
このうち、財産損害の基準額は、2009年10月に米国防総省が6055.07号指令で引き上げていた。この指令文書の「クラスA」の定義には「国防総省の航空機の損壊」(a DoD aircraft is destroyed)と書かれており、「海兵隊」に限定していなかった。アシュトン・カーター国防次官(調達・技術・兵站担当)=現在は国防長官=も、全米軍関係部門の責任者に向けた文書で、この損害基準の変更について「国防総省各部門」(DoD components)に適用されると説明していた。文書によれば、損害基準額の引上げは費用のインフレ増大によるもので、1989年にクラスAの損害基準を50万ドルから100万ドルに引き上げて以来のこと。損害額以外の分類基準は変更されていない。国防総省が掲げる「2012会計年度末までの10年間に事故率を75%下げる目標」については「2002会計年度の事故率を新基準で計算し直し、整合性を維持する」とも言明し、今回の基準変更は事故率低減目標に影響させないことを強調している。
オスプレイの事故率は、日本の防衛省が米軍の事故分類に基づいて「10万飛行時間」当たりの発生件数を算出して発表。最新データは、MV22のクラスAの事故率は2.12(2014年9月現在)、CV22のクラスAの事故率は7.21(2015年1月現在)とされている(防衛省が公表しているのは2012年9月現在のMV22のデータで、最新データは時事通信参照。防衛省に確認済)。こうしたデータを踏まえ、防衛省はこれまで、MV22の事故率は「米軍が運用している航空機の中でも平均以下」「海兵隊回転翼機の中で最小」などと説明してきたが、東京新聞の報道が事実だとすれば従来の説明の信憑性を揺るがす可能性もあった。(詳しい資料はGoHooレポートも参照)