社説:重症障害児ケア 孤立する家族を救おう

毎日新聞 2015年05月27日 02時30分

 人工呼吸や人工栄養など医療ケアが常時必要な重症障害児が増えている。新生児集中治療室(NICU)は大幅に不足し、保育所も受け入れないため、自宅で孤立しながらケアしている家族が多い。

 高齢出産の増加を背景に遺伝性疾患や出産時のトラブルが増えているためといわれる。また、NICUが普及しており、医療現場での積極的な治療により重症児の生命を救っていることが要因とも指摘される。

 生まれてから1年以上NICUに滞在している子は毎年新規で200人以上いることが指摘され、厚生労働省は退院を促進してきた。その結果、医療ケアが必要でも病院を出される例が増え、人工呼吸器をつけたまま退院する子は10年前には年間30人程度だったが、2011年から毎年約150人にも上っている。

 一方、重症児のための保育や福祉サービスはまったく不足している。一般の保育所や幼稚園は医療の専門職員がおらず、ほとんど受け入れてくれない。児童発達支援センターは医療スタッフが配置されているが、週に数日、短時間しか利用できず、同センターがない地域も多い。

 運営する事業所にとっては、一部の自治体を除いて医療ケアに対して補助金の加算が付くこともないので、必要なスタッフの配置ができないという事情がある。

 これまで医療ケアの必要な重症児というと、ほとんど寝たきりの子のことを指していた。そうした重症児が利用できる福祉施設は少しずつだが増えてはきている。しかし、最近は歩くことやしゃべることはできるが、医療ケアが常時必要な重症児も珍しくなくなった。動けるためにかえって現場スタッフの負担は大きく、児童発達支援センターでも敬遠されることが多いという。

 地域で暮らす障害者の支援をしている社会福祉法人「むそう」は2年前、東京都墨田区と世田谷区に医療ケアの必要な子ども専門のデイセンターを開設した。地域医療を担う医師や訪問看護ステーションと連携し、重症児の療育を担っている。

 遺伝性の障害であごが極端に小さな子どもがいる。口から栄養を取れず、夜中の発作に備えて母親はいつも明かりをつけたまま添い寝している。重症児の母親の多くが仕事を辞めざるを得ず、自宅で子どものケアに追われている。「2時間以上続けて寝たことがない」「電車内で子どもたちが面白がって携帯電話で写真を撮る」。相談できる人もいない中で追い詰められている家族は多い。

 医療が救った命をどう育てていくのかが問われている。保育や福祉や教育はもっと連携し、本腰を入れて取り組むべきだ。

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