社説:安保転換を問う 国会審議入り

毎日新聞 2015年05月27日 02時40分

 ◇つじつま合わせの無理

 安全保障関連法案が衆院本会議で審議入りし、早くも政府の説明にほころびが見られる。こんな状態で夏までに成立させようというのは、やはり無理がある。期限を設けない与野党による徹底論戦が必要だ。

 政府の説明が安定しないのは、法案が無理なつじつま合わせの上に成り立っているためではないか。

 法案の柱である集団的自衛権の行使容認は、本来は憲法9条改正の手続きをとるべきものだが、政府は憲法解釈の変更という手法を選んだ。

 そのため、集団的自衛権の行使は他国防衛でなく自衛のためという理屈をつくった。憲法の基本論理は維持され、専守防衛も変わらず、海外派兵はこれまでと同様に「一般に」許されないという考え方をとった。

 だから安倍晋三首相は先週の党首討論で、集団的自衛権の行使について「他国の領土に上陸して、戦闘、作戦行動を目的に武力行使を行うことはない。あるいは領海、領空でそういう活動をすることはない」と述べ、機雷掃海だけを他国の領域でも武力行使をする例外として挙げた。

 しかし、新法案は集団的自衛権について「存立危機事態」など新3要件に当てはまれば、他国の領域でも行使することを前提としている。中谷元防衛相は、新3要件を満たせば、機雷掃海以外でも、自衛隊が他国の領域で集団的自衛権を行使できるとの認識を示し、首相と防衛相の説明が矛盾していると批判を浴びた。

 結局、首相はきのうの答弁で「外国の領域でも新3要件を満たすことはあり得る」と付け足し、軌道修正をはかった。首相がこだわる邦人輸送中の米艦防護も他国の領海に入ることになるのではないか。この先、例外が次々と膨らむ危惧がある。

 また政府は、機雷掃海は受動的・限定的な武力行使だから例外というが、岸田文雄外相の説明によると、国際法上、機雷掃海のような軍事行動を受動的・限定的だとして他の武力行使と区別して扱う事例はないという。実際の活動になれば、他国は機雷掃海を他の戦闘行動と区別してくれるわけではない。

 自衛隊員のリスクが高まる懸念についても、政府の説明は混乱気味だ。首相は党首討論で「リスクとは関わりがない」と述べたが、きのうは「リスクは残る」と一定程度、認める方向に修正した。一方、中谷氏は「増大することはない」と語る。

 首相は、自民党役員会で「自衛隊員のリスクが高まるといった『木を見て森を見ない』議論が多い」とも述べたという。リスクについても丁寧に語る姿勢を示さなければ、国民の理解は得られないだろう。

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