<鈴木商店>再び脚光 日本の近代化の歴史を振り返る
毎日新聞 5月27日(水)15時1分配信
明治から昭和にかけて発展し、大正期に当時日本一の総合商社として産業革命をけん引した「鈴木商店」(本社・神戸市)を通じて、日本の近代化の歴史を振り返る動きが活発化している。29日に東京都千代田区で研究者やゆかりの人らによる初のシンポジウムが開かれるほか、関連の建築物が多数残る北九州市門司区では、産業観光の目玉として活用していこうという取り組みも始まっている。【長谷川容子】
【明治日本の産業革命遺産】八幡製鉄所旧本事務所「壊されずによく残った」
鈴木商店は1874年に創業。砂糖から鉄鋼、造船、レーヨンなど多様な商品を取り扱い、総合商社として大正期に三井物産を抜いて日本一の年商を誇った。しかし第一次世界大戦、米騒動、金融恐慌と時代の荒波をかぶり、1927年に倒産。社名は消えたが、政財界に多くの人材を輩出し、総合商社「双日」など多数の会社が鈴木商店の流れをくんでいる。
創業140年にあたる2014年4月、流れをくむ会社の社員らが中心となり、インターネット上にウェブサイト「鈴木商店記念館」を開設。それを機に「幻の商社」に対する関心が高まった。
同社ゆかりの地は本社の神戸市だけでなく、旧社宅街のあった兵庫県相生市、炭鉱のあった北海道、台湾など国内外に及ぶ。中でも関連会社の工場として使われた煉瓦(れんが)造りの建築物が多く残るのが、北九州市門司区の大里地区だ。
門司港は大陸や半島に近い交通の要衝で、豊富な石炭や労働力にも着目した同社は1904年、大里製糖所(現・関門製糖)を設立した。続いて、大里製粉所(現・日本製粉)▽帝国麦酒(現・サッポロビール)▽大里酒精製造所(現・ニッカウヰスキー)▽神戸製鋼所(現・神鋼メタルプロダクツ)−−などの工場を次々に進出させ、対岸の山口県下関市も含め工場群が形成された。
当時の大里製糖所は現在も関門製糖の工場として使われ、帝国麦酒工場は市が門司麦酒煉瓦館として活用。残っている建物の多くが経済産業省認定の近代化産業遺産として市民に親しまれている。
市門司麦酒煉瓦館の市原猛志館長は「鈴木商店の再評価でこれらの建物への注目も高まる」と期待する。世界文化遺産に登録される見通しの「明治日本の産業革命遺産」の一つ、官営八幡製鉄所施設(北九州市)などと連携し、バスや連絡船運航による観光ルートの設定を急いでいる。
29日のシンポジウムには関係者ら約120人が集まり、今後の活動を話し合う。市原館長は大里地区での関連産業遺産の活用策を報告する予定で「下関や佐賀、筑豊など鈴木商店にゆかりの深い近郊地域と連携したシンポジウムも開き、関連遺産を研究する施設も誘致したい」と話している。
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