皆さん、学校での授業の進め方に疑問を持ったことはありますか?
公立校や私立校で違いはあるものの、公立校の多くは横並びの授業を行っていることがほとんどで、授業を受ける子ども達に選択肢が与えられていません。
そんな日本の教育環境に対して、子ども自身が選べるような多様性を求めている少年がいました。
僕を見て、僕に障害があると気づく人はほとんどいません。なぜなら、僕は発達障害という見えない障害だからです。
僕は、集中するのが難しかったり、忘れものが多かったり、音がいっぺんに入ってくる聴覚過敏や、触られただけでも叩かれたと感じる触覚過敏があります。
今、僕が歩き回りながら話をしているのは、じっとしていられないからです。そして、今一番困っているのは、学習障害です。
一目見て分かる障害ではないのです。そして、松谷くんが言う学習障害とは具体的にどんなものなのか、その障害によって苦労したことをTED×Kids@Chiyodaで行ったスピーチの中で語っていました。
字を書くこと、読むことが苦手
松谷くんの学習障害は、字を書いたり読んだりすることが難しい障害です。
赤いメガネをかけていることに驚いている方もいるかもしれませんが、このメガネをかけなければ画像のように字が滲んで見えてしまいます。
こちらは、松谷くんが書いた自分の名前です。決してふざけて書いているわけではなく、一生懸命書いた末のものだと、スピーチの中でも話していることから勉強をしたい気持ちはあるのに、思うように書けないことへのジレンマを感じます。
そして、その原因は思わぬところにあったのです。
“みんなと同じ”勉強方法は合わなかった
皆さんがイメージする勉強とは、紙と鉛筆を使うものではないでしょうか?
しかし松谷くんは、みんなと同じように紙と鉛筆で勉強をすることが出来ず、「自分には価値がない」とまで思いつめてしまっていたそうです。
お母さんもドリルなどを作ったり、必死で松谷くんの勉強をサポートしていましたが、小学校5年生になると勉強量も増え、限界状態に…。
結果的に松谷くんは、不登校になってしまいました。
その後、松谷くんはお母さんの勧めで「DO-IT Japan」という障害者の就学や就労を支援する団体が行っている人材育成プログラムに応募することにしたのです。
自分にも出来る勉強方法を見つけたい
松谷くんは、お母さんから「DO-IT Japan」の概要について聞いた時、「ここに行けば自分でも出来る勉強方法が見つかるかもしれない」と感じたのだそうです。
そして、松谷くんは同団体のプログラムに参加し、そこでiPadと出会いました。
松谷くんとiPadの出会い
松谷くんの生活は、iPadとの出会いで一変したと言っても過言ではありません。スピーチの中で、iPadについて次のように述べています。
「これだったら勉強ができる! 作文が書ける! 本が読める!」と思いました。
そして、この年の夏に、学習障害のことやiPadについての自由研究をまとめました。
“紙と鉛筆”を使った勉強方法は松谷くんに合わなかっただけで、勉強方法をiPadに変えたことでスムーズに勉強することが可能になったのです。
例えば、黒板に書かれたことをカメラで撮影したり、キーボードで入力してノートをとったり、デイジー教科書を読み上げて内容を理解しています。
カメラ、入力、読み上げなどあらゆる機能を利用することで、授業の内容を理解しているのです。
松谷くんは、iPadが自身にとってどんな存在なのかについても話していました。
iPadは僕にとって教科書であり、ノートであり、鉛筆であり、消しゴムです。
松谷くんにとっては勉強をするための大切な道具なのだと言っています。
自分の障害を補う道具として、学校で使えれば授業にも役に立つはず!
しかし、日本の教育現場は前述の通り「横並び」、「みんな一緒に」が基本です。このことが、またしても壁になりました…。
しかし、夏休みが終わって、しばらく経っても、iPadを学校には持っていけませんでした。なぜなら、学校がなかなかOKしてくれなかったからです。
先生からは「これが壊れたらどうするの?」や「ずるいと言われたらどうするの?」などと言われました。
遊びのために持っていくのではなく、あくまでも授業を理解するための道具として持ち込みを許可して欲しいと言っても、このような対応だったそうです。
結果的に「DO-IT Japan」の先生から、学校側に説明をしてもらい、やっと持ち込めるようになったのです。
このiPad持ち込み許可の話だけではなく、他にも学校での苦労を松谷くんは話しています。
フォントの変更を断られた
出典 http://www.gettyimages.co.jp
文字が読める人達は、どんな書体であろうと見て理解することが可能です。
しかし、松谷くんの場合は識別することが困難な書体もありました。
6年生の修学旅行の時、しおりをiPadに入れることが難しいので「しおりの書体を、僕でもなんとか読めるゴシック体に変えてほしい」とお願いしたところ聞いてもらえませんでした。
パソコンを使っている人であれば分かると思いますが、書体の変更ってそんなに時間を取るものでしょうか?
結果的に、松谷くんのお母さんが徹夜でiPadに入力したそうです…。
松谷くんは、このような教育に関する数々の困難に直面した経験から、次のように話しています。
そんな経験をする中で、もっと学び方が選べるようになるべきではないか? と考えるようになりました。選べることで、自分にあった学び方を選択することができると思います。教科書や教材、教育の受け方をもっと選べるようになればいいと思います。
そして、教科書や教材はデジタルや紙媒体などから選択でき、僕のように読み上げ機能やキーボード入力が必要な人はデジタルを、さっと広げて学習したい人は紙を、というように、自分にあった媒体を選べるといいと思います。
障害のある人、障害のない人、得意分野、不得意分野など、全員が全く同じではありません。
だからこそ、自分にあった学び方の選択が出来る環境が必要なのではないかと、問題提起しています。
そして、同じように読み書きが苦手な人、松谷くんと同じような人から相談を受けた人、読み書きに困っていない人へメッセージも送っていました。
そして、みんなに伝えたいことがあります。この中にも何人か、僕みたいに読んだり書いたりすることに困っている人がいるかもしれません。そんな人は、僕のことを思い出してください。そして、両親や先生にそのことを相談してみてください。そして何より、「学びたい」という気持ちを諦めないでください。
自分にあった方法が見つかれば、読んだり書いたりすることが可能になるかもしれないからです。松谷くん自身が経験者だからこそ、この言葉は同じ境遇の人に響くのではないでしょうか。
相談を受けた大人の人にお願いしたいことがあります。「もっと頑張ったらできるんじゃないの?」とか「なんでできないの?」とは言わないでください。
「なんでできないの?」それがわかっていたら、僕たちはこんなに苦しい思いをしてこなくてもよかったと思います。
そして「なんでできないの?」ではなく「どうやったら一緒にできるようになるか、一緒に考えよう!」って、僕も言ってほしかったです。
読み書きを頑張らせることで、学ぶ機会を奪わないでください。
なぜ読み書きが出来ないのかがわかっているなら、当事者は誰も苦しみません。
「なんでできないの?」と言ってしまうのは、こういった障害に対する理解が足りていないという証拠でもあります…。
そして、どうすれば出来るようになるかを共に考えることが、一番求められているのです。
松谷くん自身、読み書きを強いられたことで不登校になった経験があるだけに、「学ぶ機会を奪わないでください」という言葉には、ただただ胸が痛みます。
それから、読み書きに困っていないお友達にお願いです。
字を書くこと、読むことが苦手な子がいても、からかったり笑ったりしないでください。
みんなが違うから、みんな助け合っていける、そして、自分らしく学べるのではないかと僕は思います。
子ども達は、周りと違うことに敏感です。
悪気がなくても、からかったり笑ったりすることは十分に有り得ます。大人が、こうした障害を理解した上で、子ども達に説明することも必要です。
そして、子どもに対して「周りと同じようにしなくてはいけない」と言うのも問題な気がします。「周りと違う」と「おかしい」と認識してしまう可能性があるからです。
「みんな違って当たり前。だから、困ったら助け合いましょう。」と大人が率先して教えることも必要なのではないでしょうか。
スピーチの最後に、松谷くんは障害に対する持論を次のように話しています。
僕は、障害は僕の中にあるのではなく、僕の外、社会の中にあると考えています。「障害」は困っていることで、「障害者」は困っている人です。
学び方の選択肢が増えることは、学ぶことへの困っていることを減らすことにつながると思います。
障害は、困っていることがなくなれば、障害は障害ではなくなり、個性になると思います。
困ることが限りなく少ない選択をすることで、障害が障害ではなくなるという持論を展開しています。
選択肢が増えることが、障害を減らすことに繋がっているとも言えるのではないでしょうか。
障害を持っていることで、勉強したい気持ちを諦めてしまうというのは余りにも悲しいことです。
それぞれ自分に合った学び方を選択できるような教育環境が、求められています。
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