「『リバー・ランズ・スルー・イット』や『ショーシャンクの空に』のような、静かな物語にひかれる。『悪の年代記』も派手なアクションはなく、心理を描写しなければならない映画。緊張感がよくて選んだのに、誰に不平を言えるのか。チェ・チャンシクは加害者で悪い奴だ。生活感があり、適度に堕落していて『これくらいでいいだろう』という感じの刑事。しかし、罪を犯したからといって皆が悪人なのか、尋ねてみたかった」
ソン・ヒョンジュンは演劇映画科を卒業後、劇団に所属していたが、1991年にタレントになった。名前のある初の役は作男ナクチョル。2012年にドラマ『追跡者THE CHASER』(SBS)でSBS演技大賞を手にし、翌年映画『かくれんぼ』で観客560万人を動員するまで、視聴者にとっては憎らしくない程度の夫、近所のおじさんのようなイメージだった。ドラマ『初恋』で演じた無名の歌手チュ・ジョンナム役、『バラ色の人生』の浮気夫パン・ソンムン役がまさにそうだ。
「チャンスを得たというより、愛されたという方が正しいかもしれない。母親やおばくらいの年齢の女性ファンが多かったが、ここ4、5年、とても遠くに来てしまったと思うことがある。あのときが懐かしい。月の満ち欠けのように、また戻るつもり」
ソン・ヒョンジュはやきもきしない。「後輩たちに『急いで進もうとせず、ゆっくり行け』と言っている」というソン・ヒョンジュは、25年かけて少しずつ成長してきた。作男から大統領(ドラマ『スリーデイズ-愛と正義-』)まで、演じた「他人の人生」は100個ほどになる。俳優にとって、配役に染み入るのと同じくらい、役から離れ自由になることも重要だ。ソン・ヒョンジュンは「数学ではないので公式はないが、払い落とさなければ生きていけない」「チェ・チャンシクと別れるのはつらかった。山にも行ったし、自転車にも乗った」と語った。最近撮影しているのはホラー映画『ザ・フォン』(仮題)。1年前に死んだ妻から夫のもとに電話がかかってきたことから繰り広げられるエピソードを描く。『かくれんぼ』も『悪の年代記』も『ザ・フォン』も、ヒット作がなかったりまだ新人の監督の作品だが、ソン・ヒョンジュは「シナリオが魅力的で、監督の真心が伝われば出演する」と話す。
「生まれ変わっても俳優になる」というソン・ヒョンジュにその理由を聞くと「俳優は世を映す鏡」と言って冷ややかに笑った。『悪の年代記』は、世の中を逆さに映し、正しく見せる鏡。このように生きろと教訓のように伝えるのではなく、あんな風に生きてもよいのかと観客自らが反省するようになる。インタビューが終わった午後9時10分、ソン・ヒョンジュは弁当で遅い夕食を済ませた。