【コラム】「育児ファンタジー」に毒された韓国社会

 最近の未婚男女はバーチャルリアリティー(仮想現実)を通じて育児を体験する。テレビ・インターネット・スマートフォンでさまざまな育児バラエティー番組を見ているからだ。「スーパーマンが帰ってきた」「ママ人」「オー!マイ・ベビー」「パパ、どこに行くの」などの番組やコーナーは、おなじみの芸能人・有名人が小さな子を育てる中で起こる「騒動」をカメラに収めたものだ。最近では思春期の中高生物(「同床異夢」)や親子物(「お父さんをお願い」)まである。子育て仮想体験の範囲が急速に拡大しているのだ。

 これらは現実で起きたことを取り上げる「リアリティー(reality)」番組であることを強調している。しかし、視聴者は画面の姿が百パーセント「ありのまま」だとは信じていない。撮影の過程には自然と設定や編集が介入するものだと思っている。そして実際にそうなのだ。

 本当の問題は、テレビの中の子育てが普通の人々の子育てとは懸け離れているということだ。職場から給料をもらい、生計を立てるのに忙しい共働き夫婦のほとんどは、週末もじっくりと子どもの世話をする時間がなかなかない。「戦争」はすでに出産前から始まっている。「生まれたばかりの子どもを夫の実家・妻の実家・ベビーシッターのうちどこに預けるか」からいろいろ考えなければならない。子どもが少し大きくなると、状況はさらに複雑になる。子どもの幼稚園の入園式や小学校の入学式・卒業式でもほとんどの親は落ち着いて座っていられない。ガッカリした子どもたちが文句を言うと、「出来の悪い」親たちは言葉を失うことになる。

 だから、平日でもハーフパンツ姿のパパが広い家で愛情たっぷりに子どもたちと遊んでくれたり、頻繁に海外旅行に行ったりするテレビの映像は「リアリティー」を装った「ファンタジー(fantasy)」でしかない。経験していなくても、推測で世の中のことが分かる今の若い世代が、こうした現実を知らないはずがない。先輩や同僚の育児に関する悩みを何度も聞いている人たちは、テレビの育児番組の虚構性を誰よりもよく知っている。それでも、かわいらしい子どもたちの姿を楽しみにしてテレビのリモコンを手に取るのは「どうせ現実の子育ては私に関係ない問題だから」という心理からだろう。

 韓国の出生率は世界224カ国のうち219位だ。「少子化問題は社会発展を妨げる深刻な障害になるかもしれない」と懸念の声が上がってから10年が過ぎた。これまで左派政権と右派政権を経てきたが、どの政権もこれといった対策を打ち出せなかった。その間に結婚や出産に興味をなくした若い世代は、テレビを通じた子育て仮想体験に満足するようになった。同じような作りの育児番組が幾つもあるのに、ほとんどが高視聴率をマークして安泰な理由はこの点にある。

 昨年1年間で政府の少子化関連予算は14兆ウォン(約1兆5000億円)に達するという。しかし、国民が実感できる政策はなかなかない。与野党からは「韓国も本格的な移民受け入れ政策を検討すべきではないか」という声も上がっている。こうした中身のない政争をやめ、知恵を寄せ合えば解決策が生まれるかもしれない。

政治部=崔承賢(チェ・スンヒョン)次長
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