昨年7月、ソウル市松坡区馬川洞の集合住宅で履き物が盗まれる事件が立て続けに5回以上も発生した。警察は1カ月にわたって張り込んだ揚げ句、未明に履き物を盗もうとしていたオ容疑者(女)=79=を現行犯で逮捕した。廃紙を売って生計を立てていたオ容疑者は、警察で「古い履き物の値段が1キロ当たり100ウォン(約11円)の廃紙の6倍にもなることを知り、欲が出た」と供述した。警察は、貧困にあえいでいるオ容疑者が生活保護を受けていないのを不思議に思い、身元の確認作業を行った。数カ月にわたって警察庁や住民センターのデータまでを全て照会したところ、オ容疑者は「大韓民国の国民ではない」ことが分かった。オ容疑者は、韓国で生まれ育ったものの、家族関係登録簿と住民登録番号がない「無戸籍者」だったのだ。
オ容疑者は最近、松坡警察署馬川交番4チームのイ・ギョンユン警部などの支援を受け、戸籍の申請手続きを行っている。オ容疑者のような無戸籍者は約5万人に上るものと推定されている。経済的に困難だったり子どもに障害があったりするなどの理由で乳児の頃に遺棄され出生届が出されなかったり、家出や失踪後に戸籍が抹消されたりした人々は、大韓民国の法の保護を受けることができない「法外国民」となる。これにより、就職活動を行ったり婚姻届を出したりするのが容易でなく、教育や健康保険などの福祉も受けることができない。
こうした中、無戸籍者たちの生計型犯罪が増加している。昨年10月に慶尚北道大邱市で無戸籍者のチェ容疑者(38)が屋台で2羽分の鶏肉を盗もうとしたところを警察に捕まった。チェ容疑者は乳児期に孤児院に預けられたため、住民登録番号や戸籍がなかった。チェ容疑者は15歳の時に孤児院を出てソウル駅などでホームレスとして過ごした。同容疑者は、保護施設などで食事の配給は受けることができたものの、戸籍がないため病院での治療は受けることができなかったという。また、貨物トラックと接触し左足の親指を失ってしまったが、無戸籍者であるため思うように治療が受けられず、示談金なども受け取ることができなかった、と警察は明らかにした。