東京都立川市の市立小学校の30代男性教諭が担任する6年生のクラス全員から指紋を採取した問題で、市教育委員会は「いじめに対処しようとした結果であり、今後も担任は据え置く」と決めた。児童や生徒の問題行動への指導で、子どもたちから指紋を採取した例は断続的にある。なぜ繰り返されるのか。

 市教委によると、この教諭は採用されて数年。「熱心で期待できる教員」として、クラスを5年生から持ち上がりで担任していた。今年度に入って、1人の女児がいじめられていると思われる出来事がいくつか発覚した。何度か児童たちに指導したが、今月になり、女児の靴に画びょうが入れられる事件が起きた。

 教諭はクラス全員から個別に聞き取りをし、その際に指紋を採取した。「いじめの抑止につながると思った。犯人捜しのつもりはなかった」と説明しているという。

 問題発覚後に開かれた同校の臨時保護者会では、教諭が経緯を説明して謝罪。保護者からは「処分しないで」「いじめにはこれからも厳しく対処してほしい」などの声が上がったという。インターネット上でも「いじめに毅然(きぜん)とした態度を取ったことは悪くない」「指紋を採るのはどうか」といった議論がある。

 1950年代、一部の地域で、全生徒の指紋を学校が採っていたことが問題になった。中学や高校の校内暴力が沈静化した90年代になっても、窃盗やいたずらに対する指導の中で、教員が児童生徒の指紋を採取する問題が何度か起きた。

 いじめ問題や生徒指導に長年取り組んできた折出健二・元愛知教育大副学長(教育学)は、人権が重視される昨今も繰り返される背景として三つの要因を挙げる。

 一つは、教員養成の段階で、授業技術などが優先され、子ども一人ひとりの尊厳に関する教育が後回しになっていること。

 二つ目は、米ニューヨーク市などで行われた、全体の秩序維持のために一部の生徒を排除して健全化するという「ゼロトレランス」の生徒指導方針が日本でも広がり、すばやく加害者を突き止め、押さえ付けるという対応が学校現場で求められる傾向にあること。

 三つ目は、子どもたち自身が自分たちの言葉で起きたことを説明し、自浄する教育がなされていないことだという。

 折出さんは「加害者の側にもストレスなど原因がある。そこにも寄り添い、一人ひとりの心を大切にする学級の雰囲気があれば、指紋などで圧力をかけなくても、いじめをやめる動きは子どもの側から出るはず」と話す。(鬼頭恒成、宮坂麻子)