「予測市場」の威力:
買い手の予測は企業の予測より正しい?

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「予測市場」という意思決定手法がある。参加者は仮想市場に起案されたアイデアを銘柄に見立て、その成否を予測してポイントを投じる。予測が正しければ報酬が得られる。市場原理と集合知を活用したこの手法は企業内での活用が広がっているが、消費者の反応を緻密に理解する方法としても、従来のアンケート調査より有効であるという。

 

 企業は市場調査に多大な時間とお金を割いているが、納得のいく結果が得られないことも多い。商品の魅力や独自性、購買意思など、様々な項目について顧客に5段階評価を求めたら、全項目の評価が3.5という結果ばかりだった――こんな経験を持つ企業も少なくないはずだ。また、明らかな高評価を得たコンセプトがあっても、実際に市場に出すと大失敗に終わることもしばしばある。

 とりわけ「購買意思」が誇張されがちなことはよく知られており、消費者の自己申告と実際の売上げはさほど相関しない。それはおそらく、人は調査に答えている時は理性的でも、買い物中は感情に突き動かされるからだろう。理由は何であれ、消費者としての私たちは自分の将来の行動をまともに予測できないのだ。

 一方、多様な人々から成る集団に「今後どうするつもりか」ではなく「今後何が起きるか」を尋ねると、結果ははるかに明確となることが多い。この現象を背景に、「予測市場」――どのアイデアや製品、選挙の候補者などが有望かを集合知的に予測する仕組み――が人気を高めている。

 予測市場の仕組みは株式市場に似ている。「投資家」――これはゲーミフィケーションを取り入れた調査および意思決定の手法なので、「プレーヤー」と考えればよい――はまとまった量の仮想通貨やポイントを与えられ、質問に答えるためにそれらを投じる。質問には二択方式のもの、たとえば「この商品は4~6歳の女の子を惹きつけるか?」「商品Aは商品Bよりも売れるか?」などもあれば、複数選択方式のものもある。「これらの商品の中で、どれが4~6歳の女の子を最も惹きつけるか?」などだ。

 従来のアンケート調査とは異なり、プレーヤーは自身が確固たる意見を持つ(つまり精通している)事項に対してのみ回答する。あるアイデアが成功する見込みだけでなく、失敗の見込みに対しても投資できる。投資額は自分の予測への自信に応じて、どれだけ少なくても多くてもよい。投資時には、予測の理由を示すある程度の根拠と、なぜその投資額なのかを示す定性的な見解を説明しなければならない。「純資産スコア」のようなゲーム要素を設けることで、参加者の評判や報酬、ステータスが確立され、「予測ポートフォリオ」の価値向上をめぐる競争の機会も生まれる。株式市場と同様に、予測を口だけでなく行動(仮想通貨の投資)で示す機会を人々に与えれば、実際の市場における価値をより正確に推し量れるだろうという理論だ。

 この手法は元々、従来の選挙調査に代わるものとして開発された。やがて企業の間で、従業員の知識を部門横断的に活用し、かつ現場・前線の知識も吸い上げる方法として興味と信頼を高めていった。ヒューレット・パッカード(HP)やモトローラ、インテル、ベストバイ、マイクロソフト、グーグル、ファイザー・アニマルヘルス(現ゾエティス)などが社内で予測市場を導入し、配送期間や販売量の予測、最も有望な商品の特定などを行っている。その成果は上々だ。HPでは従業員の予測市場のほうが、会社側の公式の予測よりもたいてい正しい。インテル社内の市場は、公式の予測より最大20%も正確に製品需要を予測している。

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