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河童のひとりごと

完全に趣味です。誤り多数ご勘弁

論点出題年度,関連論点出題年度

索引:論点出題年度,関連論点出題年度

 

 以下は,今までで取り扱った論点の出題年度とそれに関連する論点の出題年度です。私見としては,平成14年度から平成22年度まで論点はかなり網羅できると考えています。もっとも,それで全ての論点を網羅できるわけではなく,平成13年度以前には,平成14年度以降に出題されておらず,かつ,重要な論点が多々あります。そこで,以下では平成24年から平成13年度までの出題のうち,あまりに試験対策として意味がないと私が判断したものを除き,体系順にまとめました(解説はありません。各自市販の問題集を参考に取り組んでみてください)。一応一行問題も記しておきましたが,まずは飛ばしていいかと思います。私見としては,平成10年度第1問,平成11年度第1問,平成12年度第1問,第2問,平成13年度第2問については,ぜひ,解いていただければと思います。

 

第1 総則

1 意思能力・行為能力

  • 意思無能力者の意思表示の効力(平成22年度第1問)
  • 意思無能力による無効の意義(相対的効力)(平成22年度第1問)
  • 意思無能力者保護と双務契約の対価的均衡の関係(平成22年度第1問)
  • 意思無能力と制限行為能力制度の調整(平成22年度第1問)

 

2 意思表示

  • 94条2項の類推適用(平成18年度第2問)
  • 94条2個項の類推適用(昭和48年度第1問,昭和62年度第1問,平成6年度第2問)
  • 二重譲渡と94条2項(平成19年度第1問)
  • 二重譲渡と94条2項(平成6年度第2問)
  • 取消前後の第三者の保護(平成18年度第1問)
  • 取消前後の第三者の保護(昭和35年度第2問)
  • 解除後の第三者(昭和63年度第2問)
  • 相続と登記(昭和49年度第2問)
  • 遺産分割と第三者(昭和36年度第2問)
  • いわゆる復帰的物権変動の是非(平成18年度第1問)

 

 

  • その他
  • 動機の錯誤(昭和44年度第2問,平成12年度第1問)
  • 詐欺と錯誤の関係(平成11年度第2問)
  • 代理と詐欺(昭和52年度第2問)

 

3 代理

  • 「表示」の撤回(平成21年度第1問)
  • 「表示」の撤回(昭和39年度第1問,平成3年度第1問)
  • 法定代理権と表見代理(平成21年度第1問)
  • 他人物賃貸借と相続(平成18年度第2問)
  • 無権代理と相続(昭和40年度第1問,昭和42年度第2問)
  • 他人物売買と相続(昭和53年度第2問(一行問題),昭和58年度第1問)
  • その他
  • 他人物贈与と後見人就任(昭和48年度第2問)
  • 直接本人名義による顕名(昭和40年度第1問,平成2年度第1問)
  • 表見代理無権代理人の責任の関係(平成2年度第1問)
  • 日常家事(昭和37年度第2問,昭和42年度第2問,昭和43年度第2問,昭和46年度第1問,昭和54年度第1問,平成2年度第1問)

 

4 時効

  • 時効の援用権者である「当事者」の意義(後準位抵当権者,物上保証人)(平成16年度第2問)
  • 物上保証人の時効援用(昭和43年度第1問)
  • 時効の援用の代位行使(平成16年度第2問)
  • 物上保証人に債務承認行為と時効中断(平成16年度第2問)
  • 時効の援用と信義則(平成16年度第2問)
  • 時効完成後の債務承認(昭和43年度第1問)
  • その他
  • 消滅時効除斥期間(平成)10年度第2問(1行問題))
  • 消滅時効の起算点(昭和61年度第2問)
  • 賃借権の時効取得(昭和47年度第2問,平成4年度第1問)

第2 物権

  • 178条の第三者(平成17年度第2問)
  • 177条の第三者(昭和49年度第1問,昭和60年度第1問)
  • 背信的悪意者からの転得者(平成17年度第2問)
  • 背信的悪意者からの転得者(昭和60年度第1問)
  • その他
  • 物権的請求権の法的性質(平成7年度第1問)
  • 占有改定と即時取得(昭和53年度第1問)
  • 自動車の即時取得(昭和50年度第2問)
  • 盗品等の特則について(平成元年度第1問)
  • 共有者の一部からの明渡請求,共有物権の賃貸借の解除(平成3年度第2問)

 

第3 担保物権

  • 請負代金債権に対する物上代位(平成22年度第2問)
  • 304条1項ただし書きの「払渡し又は引渡し」の意義(平成22年度第2問)
  • 付加一体物の意義(平成17年度第2問)
  • 抵当権設定後の従物(昭和53年度第1問)
  • 賃借権への効力(昭和63年度第1問,平成9年度第1問)
  • 抵当権の搬出物に対する効力(平成17年度第2問)
  • 抵当権の搬出物に対する効力(昭和53年度第1問)
  • 譲渡担保と物上代位(平成22年度第2問)
  • その他
  • 占有継続と動産質権,責任質の法的性質(平成2年度第2問)
  • 抵当権に基づく妨害排除請求(昭和57年度第2問)
  • 抵当権侵害に基づく損害賠償請求(昭和53年度第1問)
  • 譲渡担保の法的性質(昭和50年度第1問,昭和57年度第2問,平成4年度第1問)
  • 受戻権の消滅時期(平成4年度第1問)

第4 債権総論

1 責任財産保全

  • 債権者代位の法的効果(平成17年度第2問)
  • 債権者代位の転用(平成19年度第1問)
  • 債権者代位の転用(昭和54年度第1問,昭和57年度第1問)
  • 詐害行為の意義(平成14年度第1問,平成19年度第1問)
  • 代物弁済と詐害行為(昭和63年度第2問)
  • 特定物債権と詐害行為(平成19年度第1問)
  • 特定物債権と詐害行為(昭和63年度第2問,平成12年度第2問)
  • 財産分与と詐害行為(平成12年度第2問)
  • 詐害行為取消権行使後の法的効果(平成14年度第1問,平成19年度第1問)
  • 転得者に対する詐害行為取消権(平成19年度第1問)
  • その他
  • 詐害行為取消権の相対効(平成4年度第2問,一行問題)

 

2 保証

  • 保証人のする主債務者抗弁の主張(平成17年度第1問)
  • 保証人の履行義務の範囲(平成元年度第2問)
  • 求償権行使のための事前通知(昭和55年度第1問)
  • 連帯債務と連帯保証の関係(平成9年度第2問,1行問題)

 

3 債権譲渡

  • 将来債権譲渡の有効性と対抗要件(平成20年度第1問)
  • 468条2項の「事由」の異議(平成20年度第1問)
  • その他
  • 債権の二重譲渡(昭和60年度第2問)
  • 債権譲渡と相殺(昭和60年度第2問)

 

 

 

4 弁済

  • 第三者弁済の「利害関係」(平成14年度第2問)

 

5 債務引受

  • 債務者の意思に反する免責的債務引受

 

6 その他

  • 債権の相対効(平成6年度第1問,一行問題)
  • 特定(昭和52年度第1問,昭和55年度第2問,平成5年度第2問)
  • 変更権(昭和55年度第2問,昭和61年度第1問)
  • 受領遅滞の法的性質(平成11年度第1問)
  • 履行補助者の故意・過失(昭和33年度第1問,昭和57年度第2問,平成元年度第1問,平成8年度第2問)
  • 拡大損害(平成5年度第2問)
  • 損害賠償の範囲(昭和46年度第2問,昭和60年度第1問,平成8年度第2問)
  • 賠償額の予定(平成8年度第2問)
  • 安全配慮義務(昭和61年度第2問)
  • 代償請求権(平成8年度第1問)
  • 分割債務と不可分債務(平成3年度第2問)
  • 連帯債務と連帯保証の比較(平成9年度第2問,一行問題)
  • 逆相殺(昭和60年度第2問)

 

第6 契約

1 契約総論

  • 解除の効果と「第三者」の意義・要件(平成20年度第1問)
  • 解除の効果と「第三者」の意義・要件(昭和44年度第2問,昭和50年度第2問,昭和63年度第2問)
  • 動産賃貸借の対効力の有無とその根拠(平成20年度第1問)
  • その他
  • 危険負担の適用範囲(昭和61年度第1問)

2 契約各論

(1)売買

  • 数量指示売買の意義(平成15年度第2問)
  • 数量指示売買損害賠償請求権の範囲(平成15年度第2問)
  • その他
  • 瑕疵担保責任の法的性質(昭和34年度第2問,昭和50年度第1問,昭和52年度第1問,昭和59年度第2問,平成5年度第2問)
  • 法律上の制限と瑕疵担保(昭和44年度第2問)
  • 瑕疵担保と錯誤無効の関係(昭和34年度第2問,平成12年度第1問)

(2)賃貸借

  • 転貸人に対する合意解約の対抗と転貸人たる地位の移転(平成19年度第2問)
  • 土地賃貸借の合意解釈と建物賃貸人への対抗(昭和63年度第2問)
  • 転貸借人に対する債務不履行解除の対抗(平成10年度第1問)
  • 敷金返還債務の承継(平成19年度第2問)
  • 敷金返還請求権の発生時期(平成18年度第2問)
  • 賃借権の混同(平成15年度第2問)
  • 賃借権の混同(昭和38年度第2問)
  • 賃貸人たる地位の移転(平成15年度第2問)
  • 賃貸人たる地位の移転(昭和38年度第2問,昭和41年度第2問,昭和51年度第1問,昭和54年度第2問)
  • その他
  • 賃借権の無断譲渡と解除(昭和49年度第1問,昭和63年度第1問)
  • 信頼関係破壊の法理(昭和51年度第1問)
  • 賃借権に基づく妨害排除請求(昭和54年度第1問,昭和57年度第1問)
  • 二重譲渡と賃借権の対抗力(平成13年度第2問)
  • 賃貸目的物の滅失と賃貸借の帰趨(昭和33年度第1問)

(3)請負

  • 請負契約の解除(平成16年度第1問)
  • 請負契約における同時履行の抗弁権・相殺(平成16年度第1問)
  • 瑕疵担保責任(請負契約)に基づく損害賠償請求権の損害範囲(平成16年度第1問)
  • その他
  • 請負の危険負担(平成8年度第2問)

 

(4)その他

  • 贈与の「履行の終わった」の意義(平成元年度第1問)
  • 和解の確定効(昭和40年度第2問)

 

第7 不当利得

  • 横領金弁済と不当利得(平成14年度第1問)
  • 転用物訴権(平成17年度第1問)
  • 三者間における不当利得とその瑕疵(平成20年度第2問)
  • 転売時の不当利得の価格(平成22年度第2問)
  • 不当利得返還請求権と盗品取得者保護(平成22年度第2問)
  • その他
  • 事務管理の有益費,対外効(昭和58年度第2問)
  • 利得の押しつけ(平成3年度第1問,平成9年度第1問)
  • 不法原因給付の「不法」(昭和48年度第2問)

 

第8 不法行為

  • 動物占有者責任(平成15年度第1問)
  • 共同不法行為の要件(平成15年度第1問)
  • 共同不法行為の要件(昭和45年度第2問,昭和62年度第2問)
  • 寄与分減責の抗弁(平成15年度第1問)
  • 被害者の素因と過失相殺(平成15年度第1問)
  • 過失相殺能力(昭和39年度第2問,昭和45年度第2問)
  • 被害者側の過失(昭和45年度第2問,昭和62年度第2問)
  • 競合事例における過失相殺の方法(平成15年度第1問)
  • その他
  • 企業損害(昭和47年度第1問)
  • 不法行為責任と責任能力(平成13年度第2問,一行問題)
  • 近親者による慰謝料請求(昭和39年度第2問,昭和45年度第2問)
  • 親権者の不法行為責任(平成13年度第2問,一行問題)
  • 使用者責任事業の執行(昭和39年度第1問)
  • 使用者責任,監督義務責任と失火責任法(昭和51年度第2問)
  • 表見代理使用者責任の関係(平成5年度第1問,一行問題)

 

  • 第9 親族・相続
  • 親権者の利益相反・代理権濫用(平成14年度第1問,平成21年度第1問)
  • 後見人の利益相反・代理権濫用(昭和48年度第2問)
  • 相続時の債務分割(平成21年度第2問)
  • 相続時の債務分割(平成元年度第2問)
  • 遺産分割と解除(平成21年度第2問)
  • 遺産分割と錯誤無効(平成21年度第2問)
  • その他
  • 内縁の妻と賃借権の相続(昭和42年度第1問)
  • 離婚意思の内容(平成12年度第2問)
  • 無効行為の転換(昭和49年度第2問)
  • 死者の損害賠償請求権の相続(昭和58年度第2問,昭和61年度第2問)
  • 慰謝料の相続(昭和58年度第2問,昭和61年度第2問)

以 上

 

 

 

 

実践編:未知の論点に条文と趣旨から食らいつく

実践編:未知の論点に条文と趣旨から食らいつく

 

問題

 

1.甲土地は,平成22年5月当時,Aが所有しており,Aを所有権登記名義人とする登記がされていた。また,乙土地は,その頃,Bが所有しており,Bを所有権登記名義人とする登記がされていた。

2.Bは,医療機器の製造と販売を主たる事業としていたが,事業用の建物を賃貸して収益を得たいとも考えていた。Bは,事業用の建物を所有するのには甲土地が立地として適しているの に対し乙土地が必ずしも適さないことから,乙土地を売却処分して甲土地を取得したいと考え Aとの間で甲土地の売買について交渉を試みた。この交渉において,Bは,Aに対し,代金を支払うための資金を乙土地の売却処分により調達する予定であることを説明し,Aは,その事情に理解を示すとともに,代金債務の担保として適当な連帯保証人を立てることを求めた。

3.この交渉の結果として,A及びBは,平成22年6月11日,代金を6000万円として甲土地をAがBに売る旨の契約を締結した。この契約においては,代金のうち1500万円は同月中にBがAに支払うこと,残代金4500万円の支払の期限は平成22年8月10日とする こと並びに代金の全部が支払われた後に甲土地についての所有権の移転の登記及び甲土地の引渡しをするものとすることが約された。

4.また,保証人を立てることについて,Bは,Aに対し,Bの友人であるCを連帯保証人とすることを提案した。Bは,このことについてCの了解を得ていなかったが,Bと長く交友関係 があったCに事情を説明すれば,甲土地を入手するためにCが協力をしてくれるものと想定していた。 Aは,Bの提案を了承し,【事実】3の売買契約が締結された平成22年6月11日,A及びBは,Cがその売買契約に係る代金債務の連帯保証人になる旨の書面を作成した。その書面 は,2通作成され,それらの内容は同じものである。すなわち,そこには,【事実】3の売買 契約に基づきBが負う代金債務についてCが連帯して保証する旨が記され,A及びBが署名し,Bの署名には,BがCの代理人である旨が示されていた。A及びBは,この書面をそれぞれ1 通ずつ持ち帰ることとした。Bは,この書面を作成する際,Cが連帯保証人になることについて,Cから代理権を授与されてはいないが,Cの追認を速やかに得たい,とAに説明した。

5.Bは,平成22年6月15日,Cと会い,Cに対し,【事実】4の連帯保証の書面を示し,その書面に記されているとおり,【事実】3の売買契約に基づきBが負う代金債務についてCが連帯して保証する旨の契約をしたこと,及び連帯保証人になることについてのCの追認を後日に得たいとAに告げたことを説明した。その上で,Bは,Cに対し,Cを連帯保証人にする旨の契約をしたことを認めて欲しい,と要請した。Cは,これを承諾して,その席からAに電話をし,連帯保証人になることに異存はない旨を告げた。

6.【事実】3の売買契約の代金のうち1500万円は,平成22年6月25日,BがAに支払った。しかし,残代金の支払のためにBが進めた乙土地の売却処分は実現しないまま,やがて平成22年8月10日が到来した。そこで,Aは,同月18日,Bに対し残代金4500万円 を速やかに支払うよう求めるとともに,Cに対し同じ額の支払を求めた。これに対し,Cは,AC間の連帯保証契約は書面でされておらず,その効力を生じないから Aの求めに応ずるつもりがないことを告げた。

〔設問〕

【事実】1から6までを前提として,次の問いに答えなさい。 Aが,Cに対し,保証債務の履行を請求するには,どのような主張をする必要があるかを検討し,また,その主張に含まれる問題点を踏まえてその当否を論じなさい。

 

  • こちらについても自分なりに検討してみてください。平成25年度の司法試験の設問1が基になっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1 はじめに

 本問は私が実際に司法試験を受験した際に出題された問題です。当日,この問題を見たときに,私は,全く考えたこともない論点が出てしまったなと感じました。しかし,本番今まで話してきた思考方法を使って,何とか解くことが出来ました。

 本問を解くカギは,条文に食らいつくことと,趣旨からしっかりと考えていくことです!それでは実際に検討していきましょう!

 

第2 保証債務の履行請求の要件事実[1]

(1) 主債務

本件においては,AがCに対し,保証債務の履行請求をする場合に,いかなる主張をする必要があるのかが求められています。まずは,保証の要件がどうなっているのか,条文にあたりながら考えてみましょう。前述の様に,法的効果は要件の充足がなくして発生しませんし,要件は基本的には条文に規定されています。事案分析は,まず,条文を検討するところから始まります。

 保証は446条以下に定められているところ,保証の性質である不従性から,「主たる債務」(446条1項)の存在が要求されます。本件では,BがAに負っている売買契約に基づく代金支払債務を保証するものですから,かかる代金債務の発生を主張しなければなりません。具体的には,AはBに対し,平成22年6月11日,甲土地を代金6000万円で 売ったことを主張します(555条)。

 

(2) 保証契約の合意,代理[2]

 次に,保証契約も「合意」(446条2項)によって生じるわけですから,かかる合意の存在を主張しなければなりません。しかし,本件で,Aと合意したのは,保証人とされるCではなく,Bです。このような場合に,Bのなした意思表示をCに帰属させるにはどうしたらよいでしょうか。これは,代理によることになります。そこで,あわせて代理の検討をする必要があります。

 任意代理については,99条1項が規定するところ,この要件としては,①代理人と相手方の法律行為,すなわち,本件ではAとBが,平成22年6月11日にCを代理人とすることを合意したことです。また,①の合意に先立って,BがCのためにすること,すなわち,顕名があったことも主張しなければなりません。本件で,Bの署名には,BがCの代理人である旨が示されていたわけですから,これも満たすと考えていいでしょう。

 最後に,①の合意に先立って,本人が代理人に代理権を授与したことも主張しなければなりません。しかし,本件では,Bが勝手にCを保証人にしたわけですから,代理権の授与があったとはいえません。つまり,無権代理(113条1項)です。しかし,本件では,CがAに電話をし,連帯保証人になることに異存はない旨を告げ,「追認」(113条1項)しています。これにより,無権代理が追完されるわけです(116条本文)。

(3) そして,最後に上記保証の合意が「書面」(446条2項)によってなされているか考えていくことになります。すなわち,本件では,AとBが合意の際に勝手に作成した書面がありますが,これが「書面」といえるのかを考えていくことになります。

 

第3 書面性

(1) 本件で,Cは「AC間の連帯保証契約は書面でされておらず,その効力を生じないから Aの求めに応ずるつもりがない」として請求を拒んでいます。本件の事案経過も併せて考えるに,Cがこのように主張しているのは,自分は書面作成に関与していないからでしょう。これが,Cの生の主張であり,あとは,かかる主張が446条2項との関係で認められるかということです。

かかる論点はおそらくどの受験生も考えたことがなかったような未知の論点です。筆者も試験場で初めて考えることとなりました。司法試験は,このような,論証パターンで対応できないような未知の論点が出題されます。その際に,知らないから諦めるのではなく,今までの勉強を総動員して,どうにか考えることはできないかと粘りを見せられる人は司法試験に合格できる人です。皆さんも諦めず,考えてみましょう。その際に重要なのが,趣旨から考えることです。

 

(2) 446条2項の趣旨[3]

 446条2項の趣旨については,保証人を保護するために,保証意思が外部的に明らかになっている場合に限り契約としての効力を認めた点とされています(軽率な保証の防止)。

 かかる趣旨からしたときに本問はどうでしょう。

 本件では,CがBに電話をし,保証人になる旨を告げています。かかる事実に着目すれば,保証意思は外部的に明らかになっているのでは,とも思えるかもしれません。実際に,当時の受験生の多くの答案はそのような論述になっていました。しかし,直ちにそのような結論を出していいのでしょうか。すなわち,446条2項の趣旨は,上記のように軽率な保証の防止です。自分が関与していない保証契約を追認してしまう,これは軽率な保証ではないのでしょうか。おそらく,Cの主張の背景にはそのような考えがあるはずです。そうすると,保証の書面性を満たさないとする結論も当然取りうるわけです。

 もっとも,他方で本件を検討したみなさんの中には,その結論はおかしいと感じる方もいるのではないでしょうか。それが,Aの生の主張です。それでは,なぜ,おかしいと感じるのでしょうか。それは,本件でCがBから説明を受け,実際に書面を確認して追認しているという事実からではないでしょうか。そうすると,しっかりと保証人になることを吟味した上で追認したのであれば,軽率な保証ではなく,「書面」といえる,という結論もとれるのではないでしょうか。

 結論はいずれでも構いませんが,大事なことは,まず,未知の論点は趣旨から考えてみることです。そして,その趣旨に当事者の生の主張を投影し,説得的な説明をすることです。

 なお,以下は筆者が当時試験場で書いた答案の再現です。

 

第1 AのCに対する請求は保証契約に基づく履行請求権によるものである。

第2 かかる場合,まず,付従性より「主たる債務」(446条1項)の存在を主張しなければならない。具体的には本件では「主たる債務」は平成22年6月11日のAB間の売買契約(555条)におけるBの代金債務である。この契約の締結について代金額たる6000万円と目的物たる甲土地について合意がされたことを主張する(555条)。

第3 そして,保証契約である以上保証契約の締結を主張しなければならない。

 もっとも,本件ではそれは代理人Bによってなされている。そのため,99条1項より①顕名②それに先立つ代理権授与③代理権内の法律行為を主張する。本件では①BがCの代理人であることは示され,③なした法律行為は後述の追認された範囲内である。もっとも,本件でBは先立つ代理権授与を受けていない(②)。そのため,原則無権代理である(113条1項)。もっとも,本件では平成22年6月15日においてCは連帯保証人になることは異存はないとªに電話で告げ,Aに対して「追認」(113条1項)している。

 そのため,かかる事実も主張することで契約の締結の主張となる。

第4 そして,上記保証契約について「書面」(446条2項)でなされたことを主張しなければならない。もっとも,本件ではCが連帯保証人にとなるという内容の書面を作成しているが,Cはこれに関与していない。かかる書面も「書面」といえるか。条文上明らかでなく問題となる。

(1) 446条2項の趣旨は保証の負担の重大性に鑑み,後発的紛争の防止から「書面」という客観的証拠を要求する点にある。そして,かかる趣旨からすれば,保証人が契約書作成に関与して作成された書面が「書面」といえるのが原則である。

 もっとも,①第3者が作成した書面でも②保証人がその内容を理解した上で③追認した場合は関与した場合と同視でき,上記趣旨は没却されないため「書面」いえる。

(2)本件で書面は第3者Bの手によって作成された(①)。もっとも,本件でCは平成22年6月15日において上記書面を示され,その内容を理解した上で(②),連帯保証人になるとAに告げ書面内容について追認している(③)。

 よって,本件書面は「書面」といえる。

第5 かかる主張のもと,請求できる。なお,この場合本件で結ばれたのは連帯保証であるものの連帯(454条)の特約は不要である。これは,催告(452条)・検索(453条)の抗弁がなされた場合の再抗弁だからである。

以 上

 

※ 学説の見解対立

 さて,かかる論点について,学説はどのように考えているかというと,保証人が書面作成に関与していなければならないという見解と,しっかりと確認した上で追認していればよいという学説の2つが対立しています[4]。ただ,かかる学説の対立を知らなくとも,上記回答にはたどり着けるはずです。

 なお,本件に似た事案の裁判例として,東京高判平成24年1月19日金融法務事情1969号100頁があります。同裁判例は,「保証契約は,書面でしなければその効力を生じないとされているところ(民法446条2項),同項の趣旨は,保証契約が無償で情義に基づいて行われることが多いことや,保証人において自己の責任を十分に認識していない場合が少なくないことなどから,保証を慎重にさせるにある。同項のこの趣旨及び文言によれば,同項は,保証契約を成立させる意思表示のうち保証人になろうとする者がする保証契約申込み又は承諾の意思表示を慎重かつ確実にさせることを主眼とするものということができるから,保証人となろうとする者が債権者に対する保証契約申込み又は承諾の意思表示を書面でしなければその効力を生じないとするものであり,保証人となろうとする者が保証契約書の作成に主体的に関与した場合その他その者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で明確に保証意思を表示した場合に限り,その効力を生ずることとするものである。したがって,保証人となろうとする者がする保証契約の申込み又は承諾の意思表示は,口頭で行ってもその効力を生じず,保証債務の内容が明確に記載された保証契約書又はその申込み若しくは承諾の意思表示が記載された書面にその者が署名し若しくは記名して押印し,又はその内容を了知した上で他の者に指示ないし依頼して署名ないし記名押印の代行をさせることにより,書面を作成した場合,その他保証人となろうとする者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で上記と同視し得る程度に明確に保証意思を表示したと認められる場合に限り,その効力を生ずるものと解するのが相当である。」としています。

 

  • 連帯保証であることについて[5]
  • 本件は連帯保証契約が締結されています。そのため,上記解説を読む中で,「連帯の合意をしていることは主張しなくていいの?」と考えた方もいるかもしれません。しかし,一般的には,連帯の約定は,保証契約の特約であり,保証人が催告や検索の抗弁権を主張した時に初めて主張することになるとされています(再抗弁)。そのため,本件でいきなりそれを主張する必要はありません。

 

平成25年司法試験論文式試験問題出題趣旨民事系科目第1問

設問1は,無権代理人が保証契約を締結し,それが後に追認された場合の保証契約の効力を検討する問題であり,保証契約の成立要件についての基礎的知識,特に書面の作成が必

要であること(民法第446条第2項),及びこの要件に関連して従来は必ずしも十分に議論されていなかった問題について,自らの見解を説得的に展開する能力を問うものである。

設問1では,「保証債務の履行を請求するには,どのような主張をする必要があるか」が問われているから,主債務の成立の指摘を含め,保証債務の履行を請求することができるための要件を網羅して掲げる必要がある。

その上で,考察を要する問題点としては,第一に,契約締結時(平成22年6月11日)にはBに代理権がなかったことをどのように考えるべきであるか,第二に,無権代理人Bが作成した契約書が民法第446条第2項の要件を満たすのか,という点が挙げられる。もっとも,前者の問題は,同月15日にCはBから説明を受けた上で承諾したのであるから,追認があったものと評価することができる(同法第116条)。したがって,後者の問題が,本問の中心的な論点となる。

本問の事実関係において,書面の作成という保証契約の要式性を充足するとみるかどうかについては,両様の考え方が成立可能であると考えられる。同法第446条第2項の規定の趣旨は,保証契約の内容を明確に確認し,また,保証意思が外部的に明らかになることを通じて保証をするに当たっての慎重さを要請するものである,というような説明がされてきた。無権代理人が作成した書面でも本人の追認があったことにより要式性の要件を充足することになるか,という問題を考察するに当たっても,このような立法趣旨の説明が参考となる。ただし,これのみから直ちに結論を導くことには,やや論理的に無理があり,より説得力のある論述にするためには,有権代理の場合に書面性の要件を充足するのはどのような場合かといった点を含め,更に深く立法趣旨を検討することが望ましい。考え方としては,保証をすることやその契約内容が書面により明確に確認される契機を重視するものと,保証人が主体的に書面を作成することを重視するもの等が想定される。前者は,本問における書面性を肯定する見解に,後者であれば否定する見解に,それぞれ結び付きやすいと思われるが,いずれにしても,立法趣旨について深く検討して理解した上で,本問での事実関係を検討することが求められる。

 

平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第1問)

(1)  設問1について

ア 設問1の全般的な採点実感

設問1は,保証契約の要式性を題材とし,無権代理人が作成した保証契約書であっても要式性を満たす場合があるのか否かを問題とするものであり,判例や学説によって未だ十分には議論されていない問題について,自らの見解を説得的に展開する能力を問う問題である。議論が熟していない論点であり,様々の結論があり得るが,立法趣旨を的確に把握し,それからの論理的な演繹により規範を定立し,さらに,本問の具体的事実を丁寧に当てはめて論述することが求められる。

実際に作成された答案は,契約内容を明確にして確認し,保証意思を外部的にも明らかにすることを通じて保証を慎重ならしめる等との立法趣旨を指摘した上で,Cは書面を見て追認したのであるから立法趣旨に反するところはないとするものがほとんどであった。他方で,上記の立法趣旨からは,あくまでもC本人が書面を作成することが必要であり追認したのみでは足りないとの結論も可能であり,実際,このような答案も少なからず見受けられた。

このように立法趣旨に着眼することは必要であるとしても,立法趣旨のみから一義的な結論を論理的に導くことにはやや不自然さが残るものであり,そのことを自覚して,一部の答案は,立法趣旨からの説明を詳しくしたり事実関係を丁寧に検討したりする等の工夫をしていた。

その反面において,立法趣旨と結論とを平板に併記するにとどまる答案も多かった。例えば,保証契約の内容について保証人に明確な理解があるということのみを根拠にして保証契約を有効と見るという推論は,極端には,一切書面がない場合でも明確な理解があるからよい,ということになりかねない。法解釈としては,最終的には,書面の要件に結び付けて論じる必要があり,その工夫が不十分なものも見られた。通り一遍の説明で満足するのではなく,辛抱強く緻密に論理の流れを追求する態度を望みたい。

なお,設問1では,上記の論点以外にも,無権代理人による契約の効力について論じるべきであるが,必要以上に詳細に検討する答案や,逆に,全く言及しないものも散見された。問題点を網羅的に指摘しつつも,その重要性に応じて適切なバランスによって論述する能力も求めたい。また,ごく少数ではあったが,無権代理人による契約でも追認によって有効となる旨を指摘した上で,そのことのみから書面も有効となるとする答案があった。無権代理人による契約の効果を本人に帰属させるための要件と,要式性を満たすための要件とは区別するべきであるから,このような論述では要式性の検討として不十分である。

なお,用語法に関する注意として,保証債務は,「主たる債務」が履行されない場合において履行を求められるものである。これを「被担保債務」とするものが見られた。

イ 答案の例

優秀に該当する答案の例としては,上記の立法趣旨から原則として本人が作成した書面による保証意思の確認が必要であるとし,しかし,本問では,Cは経緯の説明を受けて書面を見た上で追認したことを指摘し,この追認には書面を認める趣旨も含まれていると解釈して本人が作成した書面と同視することができるとするものや,民法第446条第2項は,その文言に照らしても,代理による保証契約の締結の場合に必ずしも本人による書面の作成を要求するものではないとした上で,無権代理の追認の場合に書面性の要件を満たすためには,上記の立法趣旨に照らし,本人が自ら書面の内容を確認した上で追認することを要求すべきであるとする解釈をして,保証契約の有効な成立を認めたものがあった。また,結

論は逆ではあるが,上記の立法趣旨から本人が主体的に書面を作成したことが必要であるとし,本問ではCは追認しているものの,C自身が主体的に書面を作成したものではないことを指摘し,さらに,追認の際に新たに書面を作成することもできたはずであるとして,保証契約の効力を認めない答案も,前例と同様に,立法趣旨と結論との論理的関連に配慮したものと評価することができる。

良好に該当する答案の例は,立法趣旨と結論とを論理的に結び付けようと努力はしているものの説得力が十分ではないものである。例えば,上記の立法趣旨から原則として本人が作成した書面が必要であるとしつつ,本問での状況を詳しく述べた上で「したがって例外的に有効としてよい」とするもの等があった。

一応の水準に該当する答案の例は,立法趣旨は的確に指摘するものの深く検討することなく,本問では書面を見た上で追認したのであるから「立法趣旨に反するところはない」等とするものである。

不良に該当する答案の例は,立法趣旨について単に「保証人保護」とする等そもそも立法趣旨を的確に指摘することができていないものや,前述のように,契約の効果を本人に帰属させるための要件と要式性を充足するための要件とを区別しないで「追認により契約の効果はCに及び,書面も有効となる等と論述するものである。

以 上

 

[1] 類型別39頁

[2] 類型別41頁

[3] 中田債総483頁

[4] 中田債総483頁は,「保証意思の事後的確認という観点からも,少なくとも差し入れた書面の写しを保証人に交付することが望ましい」としています。

[5] 類型別40頁

実践編:生の主張を考える

実践編:生の主張を考える

 

Z飲食店経営者のAは,不要になった業務用冷蔵庫を,知人のBに頼んで廃棄してもらうことにした。Aが,店の裏の空き地にその冷蔵庫を出しておいたところ,近所の住人Cも,不要になった冷蔵庫を廃棄したいと思い,勝手にAの冷蔵庫のそばに自分の冷蔵庫を捨てた。Bは,トラックで空き地に乗り付け,そこに置いてあった2つの冷蔵庫を回収して,Dの所有する山林に不法に投棄した。これを発見したDは,付近が近所の子供達の遊び場になっているため,2つの冷蔵庫に各5万円の費用を費やして危険防止に必要な措置を講ずるとともに,A,Cをつきとめた。なお,Bの所在は,不明である。  この場合に,DがA,Cに対してどのような請求ができるかについて,A,Cからの反論を考慮して論ぜよ。

 

※自分なりに考えてみてから,以下の解説を読んでみてください。平成7年度の旧司法試験第1問が基になっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1 Dの請求

 さて,上記の民法の思考方法を実際の事案から検討していきましょう。

 まず,本問でDはだれにどのような請求をしていくのでしょうか。民法のスタートは請求を考えることから始まりますが,その際に重要なのが上記の通り,生の主張を考えることです。

 ここで注意してほしいのは,事案に「5万円の費用を費やして」と書いているからといって,安易に措置費用を考えてはいません。Dの立場になって考えてみましょう。もし,自分の土地に,ある日,急に冷蔵庫が不法投棄されたらどう感じるでしょうか。まず,“それをどけて欲しい”と感じるのではないでしょうか。そして,それを解決して初めて措置費用について請求していくのではないでしょうか(ゼミをしているとよく損害賠償請求から論じてしまう答案を目にしますが,その学生の目の前に六法を積み上げると,皆どけてほしいといいます。要はそういう話です。)。

 そのため,本問でDがAⅭそれぞれに請求していくのはまず,①冷蔵庫の撤去とかんがえるべきでしょう。そして,それを解決して初めて②措置費用が問題になります。

 

第2 冷蔵庫の撤去

(1) 法律構成,要件検討

 冷蔵庫の撤去については,所有権に基づく妨害排除請求権としての冷蔵庫撤去請求権を根拠とすることになります。そして,その要件は①所有と②それに対する妨害です。

※物権的請求権の中で妨害排除か返還請求かはその侵害が占有によるかどうかです。占有による場合は返還請求です[1]

 

(2) 所有権の放棄:相手方の生の主張を考える

 それに対して,ACは,当該冷蔵庫は捨てたと反論するでしょう[2]。これはいかなる法的な主張を基礎づけるでしょうか。

 これは所有権を放棄したことにより,自己は物権支配をしていない。侵害者にはならないということを基礎づけるでしょう。

 確かに,権利の放棄は原則自由です(所有権について206条)。しかし,だからといって他人の権利を害するような権利放棄を認めるべきではないです。かかる,放棄を主張することは信義に反し(1条2項),または,権利の濫用(1条3項)[3]として許されないといえるでしょう。

 

(3)費用負担[4]:発展論点

 なお,この場合に費用負担者は誰かという問題があります。A・Cとしては,自分たちの手によっては撤去したくない。また,費用も自分たちが負うわけではないと反論するでしょう。そこで,物権的請求権における費用負担者に関する議論を整理しなければなりません。

 

・行為請求権説

 物権者は円満な物支配の回復のために必要な行為を請求できるとの見解です。判例も基本的にこの立場とされます。同見解は,物権者には物権の円満な支配が法によって認められており,その支配を妨げられたのであれば支配の回復を求める権利があると考えます。また,自らの行為や自己の支配物で物権者の円満な支配を妨げる者は,法が割り当てた権利内容を侵しており,客観的に違法な状態を作り出したことになるから,その状態の発生源を支配していた以上は責任を免れないということも根拠とします。

 かかる見解によれば,その費用をも請求できることになります。

 

・認容請求権説

 物権者は円満な物支配の回復のために必要となる行為を他人に認容するよう求めることができるとする見解です。この見解は,強度な権利を認めることで他人の事由を妨げる以上,物権的請求権は物支配を妨げないという不作為を求める権利に過ぎないと考えます。

 かかる見解に立てば,直接的には物権的請求権から費用請求は出来ない。

※この両説の議論は物権の効力自体から費用の請求はできないのかという議論です[5]

・行為請求権修正説(受験レベルではこの程度で十分)[6]

 もっとも,本件のような事例で行為請求権説に立つと妨害排除請求の行使が先か返還請求権の行使が先かで費用負担者が早い者勝ちになってしまうとの批判があります。そこで,返還請求の相手方(妨害排除の行使者)がその意思によって物の占有を取得したものでないときは,返還請求権は認容請求権に留まるとの見解があります[7]

 

 本問において,どの説に立つかについて,説を並べて長々と論じる実益はないでしょう。重要なのは上記議論に潜む利益衡量を前提にしっかりと妥当な結論を示すことです[8]

 

第3 措置費用の請求

1 Aへの請求

(1) 請求権の方向性

 本件でADには契約関係がありません。そのため,契約責任以外で費用を請求する権利を考えなければならないことになります。まず,想起できるのは不法行為に基づく損害賠償請求(709条)でしょう。しかし,それ以外には想定出来ないでしょうか。

※そもそも本件では直接の権利侵害者はBであり,Bに対して不法行為に基づく損害賠償請求するのが原則です。しかし,Bが所在不明でかかる請求は現実的でないということが前提となっています(所在不明になってしまうようなBでは十分な資力を有していない可能性がある)。そのため,Aに対して請求するのが本問ですが,そう考えるとB同様に不法行為に基づく損害賠償請求を構成すべきなのでしょうか。Bの行為がDとの間に介在しているため,例えば故意過失や・因果関係の立証が通所より困難ではないかということが考えられます。そのため,下記のように請求権を考える必要性が生じてきます。

 

2 使用者責任[9]

 本件で,AがBに依頼していることから使用者責任(715条1項本文)を主張していけないでしょうか。

 使用者責任の要件は①被用者の損害賠償責任の成立②「事業のために他人を使用する」③「事業の執行について」④被用者の選任・監督についての注意を怠ったことである(ただし書)[10]

 本問では特に,②について問題となるでしょう。同条の趣旨である報償責任からすれば指揮監督関係があれば十分であり,本件でも依頼し,投棄させる関係にあった以上,これを満たすでしょう[11]

 

3 その他の請求権

 その他,想定されるのは事務管理に基づく費用償還請求権(702条1項)や不当利得(703・704条),共同不法行為(719条)等があるでしょう。もちろん何を選択してもいいですが,私見としては上記請求権の検討が一番実態にあったものと考えます。

 おそらく,日ごろ生の主張から考えていない方は,1個か2個しか法律構成を思いつけないのではないかとおもいます。それは,法律から考えてしまっているからです。一度お金を請求する法律構成として,民法全体を概観してみましょう。そうすると,どんどんと法律構成が見えてくるはずです。このように生の主張を考えることは,視野の広さにも繋がります。

 

2 Cへの請求

(1) 請求権の方向性

 Aの場合とは異なり,CはBに依頼していないため,使用者責任を主張することは出来ません。そこで,その他の請求を考えていくことになります。

 

(2) 事務管理[12]

 事務管理事務管理に基づく費用償還請求(702条1項)の要件は①他人の…事務[13]の管理

②他人のためにする意思③法律上の義務がない④本人の意思に反し,または本人のために不利なことが明らかでないこと(700条但書)です[14]。これを検討することになるでしょう。

②について,事務管理の趣旨が私的自治の尊重と相互扶助の調和であることからすれば,自己の意思と本人のためにする意思は併存してもよいとされます。本件でも,自己の土地を安全にする意思があても,これを満たすことになる。

④について,Cが冷蔵庫を捨てている以上,本人の意思に反するのではないかとも思えます。しかし,いかに私的自治といえども違法な行為を放置する意思を尊重することはできません。本件で,冷蔵庫に関する措置は不要であるという意思は,違法になされた冷蔵庫の不法投棄を措置せず放置するもので尊重できないこととなり,ただし書は問題ないといえるでしょう。

 

  • 本問の答案作成上の注意点 以上
  • その他,不当利得や不法行為に基づく損害賠償請求も主張できます。ただ,答案においては五月雨式に請求権を書き連ねることに意味はなく,請求者の望みを適える適切な請求権を選択し,相手方の反論も想定しつつ,要件を丁寧に検討していくことが重要でしょう。私見としては,不当利得や不法行為では介在するCとの関係を説明する手間があり,事務管理のほうが直截的ではないかと思われます。                  

参考答案

第1.Aに対する請求

1.冷蔵庫の撤去

(1)まず,Dは自己の山林にAの冷蔵庫が投棄されているとして,所有権に基づく妨害排除請求権としての冷蔵庫の撤去請求権を主張する。本件土地はDの所有であり,そこにAの所有する冷蔵庫が投棄され,妨害状態が発生している。そのため,要件は満たすようにも思える。

(2)これに対して,Aは,冷蔵庫は自己が捨てている。妨害といえるには妨害者がその妨害物に支配をしている必要があるところ,廃棄で支配を喪失する以上,かかる要件を満たさないとの反論がある。

ア.確かに,権利の放棄は原則自由である。しかし,他人の権利を侵害するような権利の放棄までは信義則(1条2項)に反し許されない。

イ.本件でも,本件で,Aが所有権を放棄し,妨害排除が認められないとなれば,Dの土地を侵害するような所有権の放棄といえ,これは信義に反し許されない。

(3)次にAからは,仮にかかる請求が認められるとしても,それはDが自ら自己の費用で行うべきことであると反論する。

ア.しかし,物権者は円満な物支配の回復のために必要な行為を請求でき,費用も相手負担となる(行為請求権説)。なぜなら,物権者には物権の円満な支配が法によって認められており,その支配を妨げられたのであれば支配の回復を求める権利があると考えられるからである。

イ.本件でも行為請求権として,その撤去を費用も含め請求できる。

 なお,この場合に,Aから自己が返還請求を主張すれば費用負担はDだったのであり,それでは早い者勝ちであるとの反論が想定される。しかし,本件でDは自己の意思によらず冷蔵庫を廃棄されたのであり,当該冷蔵庫について「自己のためにする意思」(180条)がない。そのため,占有がなく,返還請求権は成立しない。早い者勝ちとの状況も生じない。そのため,Aの反論は失当である[15]

2.危険防止措置の費用

(1)DはAに対して,危険防止措置に要した費用につき,使用者責任に基づく損害賠償請求を主張する。

(2)まず,Bは「故意」にDの山林に不法投棄をし,「権利…侵害」を行い,それによって防止措置の費用を「損害」として発生させたため,Bには709条の賠償責任が成立する。

(3)Aからは,AB間に雇用関係はなく(623条),「事業のために他人を使用する者」(715条1項本文)とはいえないとの反論が想定される。

事業のために他人を使用する者」とは,同条の報償責任の趣旨からすれば,雇用関係のあるような場合に限定すべきではなく,広く指揮監督関係がある場合を含む。

本件で,AはBに依頼し,その冷蔵庫を廃棄させていたのであり,指揮監督関係が認められる。Aは「事業のために他人を使用する者」といえる。

(4)そして,依頼され廃棄業務の一貫としてなされた以上,「事業の執行について」ともいえる。また,AはBに不用意に依頼し,投棄させたのであり,「事業の監督について相当の注意をした」(ただし書)とはいえない。

(5)そのため,Dの請求は認められる。なお,同種の請求は709条,事務管理(697条1項),不当利得(703条,704条),共同不法行為の責任(719条1項)によっても請求しうる。

第2.Cに対する請求

1.まず,冷蔵庫の撤去については,Aの場合同様に,Cの費用でCがなすことを妨害排除請求として主張できる。

2.危険防止措置の費用

(1)まず,Aとは異なり,CはBに廃棄を依頼していたわけではない。そのため,「事業のために他人を使用する者」とはいえず,使用者責任を主張することは出来ない。

(2)ア.そこで,事務管理(697条1項)に基づく費用償還請求(702条1項)を請求する。 

イ.まず,本件で山林に捨てられた冷蔵庫の危険防止措置を行うことは本来所有者Cが自己の責任でなすべきものである。そのため,客観的に他人の事務であり,「他人の…事務」といえる。

ウ.これに対してCからは,Dには自己の山林の危険を除去する意思があり,「他人のために」(他人のためにする意思)を欠くとの反論が想定される。

 そして,「他人のために」(他人のためにする意思)は私的自治と相互扶助の調和の趣旨からして,自己のためにする意思が併存することは問題ない。本件でも自己の山林の危険を除去する意思が併存しても,Cのためにする意思がDにある以上,これを満たす。また,それは「義務なく」なしたものである。

エ.そして,事務管理は「本人の意思」(700条ただし書)に反することは出来ないところ,Cは冷蔵庫を捨てている。そのため,Cからは捨てたものにそのような措置を講じてもらう必要はなかった。そのような措置は「本人の意思」に反するとの反論が想定される。

 しかし,いかに私的自治といえども違法な行為を放置する意思を尊重することはできない。本件で,冷蔵庫に関する措置は不要であるという意思は,違法になされた冷蔵庫の不法投棄を措置せず放置するもので尊重できない。「本人の意思」に反してはいない。

オ.そのため,危険防止措置のために支出した費用を「有益な費用」を請求できる。

以 上

 

 

[1]佐久間総則298頁

[2]その他,ACの反論としてBが捨てたのであり,自己は知らない(故意・過失がない)との反論もありえるでしょう。しかし,物権的請求権の際に故意・過失などは関係がないのであり,かかる反論も失当です。

[3]その他にも民法398条も参照できます。また,伝統的には公序良俗の問題としても議論されてきたようです。

山垣清正「複数の者によって隣接地に投棄された産業廃棄物が崩落し堆積した土地の所有者から投棄者各自に対する廃棄物の除去請求等が認容された事例」判例タ№978,38頁以下)。

[4]佐久間物権305頁以下

[5]そのため,別途要件を満たすのであれば不法行為に基づく損害賠償請求権によることは出来ます。ただ,本件では後述するようにA・Cに過失があるかについては容易なものではありません。そのため,かかる見解を議論する実益があるのです。

[6]その他の見解

・責任説

 相手方が一般的責任原則(契約責任・不法行為責任・法定責任)により,妨害につき責任を負う場合は(侵害の発生が故意・過失による場合など)相手方の費用による妨害排除を請求できるとする見解です。物権的請求権固有の効力を否定する見解といえます。

・侵害基準説

 占有は自己のためにする意思をもって所持することで取得される(180条参照)。土地に関知しない原因で物が入ってきた場合には,かかる意思が認められず,そもそも返還請求権の基礎を欠く。妨害排除請求権しか成立しないのであり,上記のような請求権の衝突はないと考える。その上で土地所有者が返還請求を拒むような事情がない限り,行為請求権の下,その妨害排除を請求でき,かつ,費用もその請求の相手方の負担になるとする見解です。

[7]もっとも,かかる見解にも不可抗力でも相手方の費用負担になることが妥当でない。原則と例外を区別することの理論的根拠が明白でないとの批判があります。

[8]本問ではACにも不手際があったのであり,ACに責任を負わせる帰結で良いでしょう(逆にいえば,台風・地震などで生じた場合には以下に利益調整を図るべきか問題となります)。あとは,その帰結を説得的に説明できる見解を自分の言葉でしっかり説明して欲しいです。

[9]潮見基本債各Ⅱ119頁以下

[10]本問ではBに不用意に依頼しているため,この要件を満たすだろう。また,そうでなくともかかる要件で免責を認めた事例は皆無であり,ただし書は空文化しているとされる。このことからしても,Dは使用者責任を追及するだろう。

[11]これについて,事例で学ぶ85頁においては,指揮命令関係否定しています。しかし,私見としては,報償責任が妥当しうる以上,認めていいのではないかと思います。

[12]以下事務管理の要件及びその解釈については,潮見基本債各Ⅰ284頁以下参照。

[13]「事務」とは,人間の生活に必要な一切の仕事を含み,法律行為でも事実行為でも構わないです。ただし,その事務行為が違法ではならないとされています。

 事務には客観的に他人の事務とされるものはこれに含みます。客観的に自己の事務といえるものにこれは含まないです。どちらともいえないものは主観的に他人の事務として行おうとしていたかで判断するとされます。

 我妻榮他『我妻・有泉コンメンタール民法総則・物権・債権』(第三版,日本評論社)1245頁以下

 本件では,客観的他人の事務か少なくとも中立的な事務といえるでしょう。

[14]本人の意思が強硬法規や公序良俗に反するときは事務管理成立を妨げないとされます。

我妻=有泉コンメン民法1251頁

[15]近似有力な侵害基準説で書いてみました。

民法論文問題の基本的な考え方

民法論文問題の基本的な考え方

 

お久しぶりです。

司法試験受験の方お疲れ様です。

予備試験の方はもう少し。

 

どういう需要があるかわかりませんが,リクエストがあったので,総論だけ。

 

第1 論文の問題は覚えるのではなく理解する

 まず,実際の論文問題の検討方法の前に確認しておきたいのは,論文の勉強は,決して暗記する作業ではなく,理解する作業だということです[1]。もち本稿律を勉強していくなかで覚える内容も多々あります。しかし,ただ闇雲に覚えても実際の問題を解くことは出来ません(また,丸暗記というのはどうしても記憶に定着しにくく,勉強する科目数が増えれば増えるほどしんどくなります)。

 そのため,論文の勉強をする際には,必ずなぜその解答になるのか考え,理解しようとしてください。もちろん,最初のうちは問題を上手く解くことが出来ず,解答と問題文を行き来することになるでしょう(私もそうでした)。しかし,そこで,なぜ,そのような解答になるのか,どこからどう考えていけばそこにたどり着くのか,自分なりに悩み,その思考方法を練り上げていくことが,本試験での思考力に繋がります。もちろん,本稿では私なりの思考過程をしめしたつもりではありますが,それも一例に過ぎず,皆さんなりの思考過程が各々存在していることかと思います。ぜひ,それを旧司法試験に取り組む中で確立していただければと思います。

 

第2 生の主張

 民法を指導していた際によく受けたのが,「何から書いていいのかわからない」という相談です。民法は,憲法や刑法の様に体系にそって書くことがある程度決まっているものではなく,それ故に苦労されている方も多いのではないでしょうか。このような場合に私がアドバイスするのは「当事者の生の主張を考えなさい」ということです。

 紛争というのは,ある人が,ある相手方に対して不満や願いからくる要求を行い,その相手方が,要求に納得がいかないために起きるわけです。そして,そのように当事者の話し合いではどうしようもないときに,じゃは法律でどうにかしよう,何か使える法律はないかなとなるわけです。法律を勉強していると,どうしても議論の入り口を法律で設定してしまうのですが,そうではなく,まずは,その当事者がどのようなところに不満をもっているのか,どのようなことを達成したいのか考えてみましょう。そうすることで,解答の道筋が見えてくるかと思います。これは必ずしも答案に表れてくる作業ではありませんが,答案の方向性を決める上で非常に重要な作業です。

 例えば,皆さんがある人から1000万円で土地を買い,代金を支払ったとします。しかし,相手がその土地を引き渡してくれません。この場合に皆さんがこの買手だったらどうするでしょうか。これを生の主張から離れ,法律から考えてしまうと解答を誤ってしまう可能性があります。実際にこのような問題を出すと,1000万円に引きずられて,1000万円の損害賠償請求と考えてしまう方がたくさんいます。しかし,自分は実際に書い手だったらどうでしょう。土地を買って代金も支払った…それなら早く土地を引き渡してくれと思わないでしょうか。代金相当額の1000万円の請求は,土地が引渡されず,払った分が無駄になったことが確定して初めて支払ってほしいと考えるのではないでしょうか。これはよく民法では『物から金へ』といわれていることですが,この後旧司法試験を解いていくにあたっても非常に重要になります。

 

第2 事案解決のための法的構成およびその検討

1 法的構成(効果)を設定する

 当事者の生の主張を確定した場合には,その主張を達成するための法律効果をもっている法律構成を民法の中から探してきましょう。中にはその法律構成が複数存在する問題も存在するかもしれません。その際には,自分が当事者であったらどの法律構成を採用するか,例えば,どちらの請求が当該事案では認められやすいか考え,選択していってください。

 よく答案を採点していると,前述の生の主張は考えてく入れてはいるのですが,それを法律論に乗せないでそのまま答案に書いて終わってしまう人がいます。しかし,それでは法律論ではなく,単なる感情論に過ぎません。生の主張を確定したら,次に必ず法的構成を設定しましょう[2]

2 要件の検討

 法的構成を設定した場合には,その要件を検討しましょう。法的効果は要件を充足することによって発生する,というのは,最初に習うことで当然にも思えるかもしれませんが,これが意外にどの答案も出来ていません。書く分量によって絶対そうだとはいえませんが,基本的には,その効果が発生するための要件はなるべく全部検討するようにしましょう。

 要件を検討する際には,条文から問題になる要件を「」で抜出し示しましょう。条文にない要件の場合は,趣旨を一言そえて,要件を示しましょう。 

 要件を充足しているかの検討は,要件の定義→事実の指摘,評価→あてはめです。例えば,「○○」は~という意味である。本件では□□という事実があり,これは…と評価できるから(この評価を落とす人が多いです。注意してください。),~であるといえ,「○○」を満たす,のように論じていきます。これを俗に法的三段論法といいますが[3],法律答案はこれをしっかり守って書けるかが重要になります(ただし,全部をこのように書けというわけではなく,答案全体のバランスからメリハリをつける必要性はあるでしょう)。

 なお,たまに端的に文言にあてはめていけば十分であるのに,わざわざ趣旨を書いている答案を見ます。趣旨というのは後述するように,条文を解釈する必要性が生じた際に記述するもので,闇雲に書けば良いというものではありません。その点,注意しておいてください。

 

平成25年司法試験論文式試験問題出題趣旨 【民事系科目】〔第1問〕

…そのためには,賃借人がその賃貸借契約上の保管義務に違反し,それにより賠償されるべき損害が発生したこと(損害の発生と因果関係)が必要となること…

平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第1問)

良好に該当する答案の例は,小問(1)について適切に答えるものの,小問(2)についてAがした敷金返還請求権の放棄が敷金返還債務の免除であると捉え,それが債権者Cの債権を害するものであるとしながら,民法第424条が定める詐害行為取消しの他の要件について検討を行っていないものである。

平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第1問)

優秀に該当する答案の例は,…根拠となる法律の規定を指摘し,その規定が定める要件の充足について適切に検討した上で,解除の可否について結論を述べるものである。

 

3 論点の処理

 条文の文言は常に一義的に定まっているわけではありません。これは,あらゆる事案に対応できるように多少抽象的に条文を定める必要がある以上しかたないことです。しかし,それ故に,要件を充足しているか,法的効果が発生するか検討していると,当該事案から,その要件が充足するか,欲している効果が発生するか不明確な場合があります。その際に「論点」となります。

 まず,ここで覚えておいていただきたいのが,論点というのは突発的に生じるものではなく,このように事案について,条文を検討していく中で生じるものです[4]。よく答案を採点していると,いきなり(なかには一行目から)論点を書き始める答案がありますが,それではなかなか評価される答案にはなりません。採点者が,受験生が本当にその問題を理解できているのか,つまり,論点に至るまでの過程も採点対象にしているのであり,この点についても十分気を付けていただきたいです。

 論証をする際に,その説明の仕方は色々あると思いますが,私見としては,なるべくどの場合も同じような流れでできるのが良いかと考えています。(もちろん,必ずしも度の論点も同じ流れで論証できるとは限りませんが,)どの論点もある程度同じように対応できれば,それだけ記憶しないといけない量も減りますし,未知の論点にも対応しやすいかと思います。

 それでは,論証の方法ですが,私はなるべくその解釈する条文の趣旨から始めるようにしていました。それ以外の要素から初めてしまうと,なんだか議論が明後日の方向にいってしまう気がしたからです[5]。そのため,私の論証は「○○条の趣旨は~である」という記述から始まります。そして,論点によっては,その趣旨から素直に規範が定まって終わる場合もあります(94条2項の趣旨→類推適用の3要件)。もっとも,それで終わることはほとんどなく,大抵はその事案で問題になる反対利益,他の条文との関係性,解釈する文言の限界[6]などによって制約されます。そのため,趣旨を述べた後は,他方で~の点を考慮し,のようにその他考慮すべき要素を記述し,したがって~である,と規範につないでいくことになります(なお,司法試験の出題趣旨などで「思うに」「解する」は使用しない方がよいという言及がされたことがありました。そのため,私は答案においては,この2フレーズを使用していません)。

 私は,基本的にはこのような流れで論証を行っていました(もちろん,全てがそういうわけではなく,例えば絶対的構成や相対的構成の議論はどの説を採用するべきかの比較衡量の話です)。イメージとしては,条文から趣旨が伸びていって,それがその他の要素で押し返される,最終的に座りのいい地点で規範が設定されるというイメージです。 

典型論点でもがっちりと記憶したのは,最初の趣旨と,最後の規範くらいです。よく,論証を丸暗記される方がいますが,7法(司法試験は+1科目)を全部暗記するのは非常に大変です。私見としては,なるべく負担のかからない方法をお勧めします。

 

4 判例があるときは

 よく判例があるときには論証をする必要があるのか,という質問もされます。しかし,判例の中には結論のみで,その結論を採用した理由明示的述べてはいないものも少なくないです。また,仮に,述べていたとしても,採点者はその理由を聞きたいのであり,それを省いていいという道理はないように思えます。判例がある場合にもしっかりと解釈するべきでしょう(もっともメリハリをつける上でのポイントにはなります)[7]。なお,判例があるときに,敢えて判例は…とか,判例同旨,と書くかは悩ましいところですが,私はしっかりと解釈論を示せば判例の理解も伝わると考え示しませんでした。

 もっとも,最近の司法試験では,判例が示され,その射程が当該事案に及ぶかを検討させる問題が出題されています。そのような問題が出た時には,さすがに判例を示す必要はあるでしょう。

 

平成25年司法試験問題出題趣旨 民事系第1

…立法趣旨を的確に把握し,それからの論理的な演繹により規範を定立し,さらに,本問の具体的事実を丁寧に当てはめて論述することが求められる。

平成24年司法試験の採点実感等に対する意見(民事系科目第1問)

 …基本的概念を適切に用い,法律関係を理解する上で欠かすことのできない…規定を指摘し…基本的な…概念や規定に論及しない答案も少なくない…

 …応用的な問題に取り組むことも,もちろん必要であるが,それは,基本に従って通常の規範操作をする能力を前提としてのこと…制度趣旨に立ち返った上で…その根拠規定に言及しながら正確に指摘し…とりわけ,関連する法条を正しく掲記すること…

平成24年司法試験の採点実感等に対する意見(民事系科目第1問)

…事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開し,事実を具体的に摘示しつつ法規範への当てはめを行って妥当な結論を導くこと…

 

第3 その他の答案作成上のマナー:表題、段落

その他,答案作成において注意しておくべきことについて数点指摘しておきたいと思います。

まず,設問が複数あるときは,表題を最初に示すと採点者に伝わりやすいです。例えば,設問が複数あるときは,第1設問1…第2設問2などとすると,読み手に予想可能性を与えるかと思います(もっとも,試験によっては表題の振りすぎは紙面を消費しすぎる可能性もありますから,その点注意してください)。

 段落は、基本的には第一(1)→1→(1)→ア→(ア)の順です。大きな意味の固まりごとに分けて使用しましょう。

 稀に,設問が切り替わる際に一行あけてしまう答案がありますが,そのような答案は特定答案とされます。

 

平成24年司法試験の採点実感等に対する意見(民事系科目第1問)

 …構成の明快さの程度に応じて点数を与える…

 …接続表現が,譲歩でなく単に逆説である場面で見られる「そうであっても」,「そうとしても」という言葉や,仮定でなく単に順接である場面で用いられる「とすると」,「そうであれば」という表現の頻用は不自然である。法律家として将来において作成することになる裁判書き準備書面は,「しかし」,「したがって」,「そこで」などの一般の人々も理解しやすい平易な表現で書かれることが望まれるし,答案であってもそうであってほしい

 …「債務」などという略記や略字…答案等においては,好ましくない

 …字が小さすぎて、かつ、潰れたように記されているため判読が困難であるもの…

平成25年司法試験の採点実感等に対する意見(刑事系科目第1問)

字が乱雑なために判読するのが著しく困難な答案が見られた。時間の余裕がないことは理解できるところであり,達筆である必要はないものの,採点者に読まれることを意識し,なるべく読みやすい字で丁寧に答案を書くことが望まれる。

 

  • なお,答案中の論理矛盾は厳禁です。

平成25年司法試験の採点実感等に対する意見(民事系科目第1問)採点方針

論理的に矛盾する構成をするなど積極的な過誤が著しい答案については,低く評価することとした。

 

[1] 民法案内Ⅰ1頁も,「法律を学ぶには,暗記してはだめだ,理解しなければならない」としています。なた,同書19頁においては,定義についても,「定義を暗記しても,具体的な場合の判断にはほとんど役に立たない」とされています。なぜ,その定義となっているのかを理解しなければ,実際の事案には対応できません。

[2] 民法案内Ⅰ35頁においても,「ある問題を解決するためには,この「条文」が第一の根拠とならなければならない。民法何条にこう規定してあるから,その場合はこうだ,と判断するのでなければ,その判断は,単なる常識論ないし道徳論にはなっても法律論にはならない」とされています。

 法律学習マニュアル15頁においても,「条文があるのに十分な根拠なしに,条文から論理的に結論を導く作業を怠ると「正しくない」と評価されることになります」とされています。

[3] 民法案内Ⅰ205頁

[4] 法律学習マニュアル15頁も,条文を文言通りに適用すると,妥当な結論が得られないときに初めて解釈をするとしています。

[5] 民法案内Ⅰ150頁おいても,「類推解釈については最も重要なことは,いかなる根拠によって類推すべきかという点である。抽象的にいえば,当該事項についての規定の立法理由を検討し,その合理性を明らかにしたうえで,それと同様の合理性のある他の類似の事案に推し及ぼすのである。」としています。

 また,法律学習マニュアル14頁においても「「結論の妥当性」を納得してもらうためには,条文にさかのぼるのが,もっとも効果的です。実質的にみると,法律が定められるにあたっては,最大公約数的に価値が考慮されています。したがって,法律がどのような諸価値(例えば取引の安全と真の権利者の保護)を考慮に入れ,また,どの価値(例えば取引の安全)を優越したものとみているか,どこでバランスをとっているかを分析して,結論を求めれば,より説得力のある結論となるはずです」としています。また,同書239頁においても「立法趣旨を簡単にでも示すことがとても大切」とされています。

[6] 民法案内Ⅰ141頁においても「文字の普通の常識的な意味を尊重すべき」とされています。

[7] 法律学習マニュアル240頁においても,「判例と同じ見解をとるからといって,理由付けが不十分であってよいということにはなりません」とされています。