政府が自らに都合よく書き上げたお手盛りの報告書と言わざるを得ない。
過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件をめぐる政府の対応について検証結果が出た。判断や措置に「人質の救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えない」と結論付けている。
検証委員会が5回の会合でまとめた。委員長の杉田和博官房副長官をはじめ、メンバーは事件の対応に当たった官邸や警察庁、外務省の幹部らだ。有識者を加えたとはいえ、身内による検証である。
もともと説得力のある内容は望みにくかった。それにしても、政府の対応を正当化する言葉が並んでいる。▽政府内の体制構築、関係省庁間の情報共有は適切だった▽衆院選中、安倍晋三首相や菅義偉官房長官は官邸に不在だったが連絡手段、直ちに帰京できる移動手段を確保しており、体制に間隙(かんげき)は生じていない…。
イスラム国と戦う周辺各国への支援を表明した首相の中東政策演説についても「内容、表現に問題はなかった」とした。「脅迫の口実とされた。対外発信には十分に注意する必要がある」との有識者の意見は添え物のようだ。
犯行グループから後藤健二さんの妻にメールが届いた後にどんなやりとりがあったのか、関係国や宗教指導者らに政府はどのような働き掛けをしたのかなど、詳しいいきさつは分からない。
具体性を欠いた報告書で、適切な対応だったと強調されても、受け入れられるものではない。どこまで突っ込んだ検証がなされたのか、疑問が残る。
報告書は一方で、政府が今後取り組むべき課題を挙げた。「情報の収集・集約・分析能力の一層の強化に取り組む必要がある」と指摘したほか、「危険なテロリストが支配する地域への邦人の渡航の抑制」を検討すべき重要な課題と位置付けている。
基本的人権に関わる問題だ。情報収集の強化は、通信傍受のさらなる拡大など監視強化につながりかねない。政府や自民党にはかねて米中央情報局(CIA)のような対外情報機関を創設しようという動きもある。今後の対応を注意深く見ていく必要がある。
渡航の自由は憲法が保障している。外務省は2月、シリアへの渡航を計画していたフリーカメラマンに旅券(パスポート)を返納させた経緯がある。渡航の制限は報道、表現の自由も妨げる。事件を利用して国民の権利を侵害することがあってはならない。