社説:エアバッグ回収 後手後手の責任は重い
毎日新聞 2015年05月24日 02時30分
自動車部品大手タカタが、欠陥の指摘があった同社製エアバッグのリコール(回収・無償修理)を、従来の地域限定から全米に拡大した。対象製品は約3380万個へと倍増し、米自動車業界のリコール史上、最悪となる見通しだ。
タカタは併せて、製品の欠陥を初めて正式に認めた。リコール費用に加え、賠償金も大幅に膨らむことになりそうである。
タカタはこれまで「原因を特定できない」として全米でのリコールを拒否してきた。しかし、米国で強い批判にさらされ、2月には「協力不十分」として当局から1日1万4000ドル(約170万円)の罰金を科せられた。追い詰められた末の方針転換となった形だ。
それにしても、なぜこれほど問題が長期化し、拡大したのだろう。
タカタ製エアバッグの不具合でホンダが初めてリコールを実施したのは2008年11月である。その数年前から米運輸省道路交通安全局(NHTSA)に対し、エアバッグの異常を訴える消費者の声が寄せられていたとの報道もある。
原因が特定できなかったとはいえ、09年以降、同社製エアバッグの破裂に伴い米国内外で6人が命を落としているのだ。うち3人は、過去1年内に起きた事故の犠牲者である。人々を事故の衝撃から守るエアバッグのメーカーにふさわしい責任感がタカタにあったとは言い難い。
ただ、責任を問われるべきは同社にとどまらないだろう。
消費者が選ぶのは部品ではなく完成車だ。安全だと信じて買ったクルマに欠陥の疑いがある部品が見つかれば、完成車メーカーは迅速に対応する責任を負うはずだが、日米欧の各社は米当局から強く要請されるまで、大規模なリコールを避けてきた。メーカーが合同調査に動いたのは昨年末になってからである。
では、監督当局であるNHTSAはどうだったか。09年にいったん調査を開始したが、立証不能として半年ほどで打ち切ったという。厳格な対応に変わったのは、世論や米議会の猛批判を受けてのことだ。
つまり、タカタ、完成車メーカー、監督当局の3者とも当事者意識に欠け、後手後手の対応に回った結果なのである。米国の当局に追随してきた国土交通省もしかり、だ。
タカタはエアバッグの欠陥問題で一度も記者会見を開いていない。完成車メーカーや当局の責任者らとともに、社長など幹部が早い段階から、社会に向けて誠実に説明を重ねるべきだった。それを怠った結果、払わされる代償は金銭的なものにとどまらない。安全を守るべき人たちの信頼も大きく傷ついた。